挿話2 学長に呼び出される魔法学校一年A組担任メイソン

 入学式の翌日。

 一日の授業を終え、担任をしているA組の生徒たちの実力を、ある程度把握が出来たと思っていると、


「メイソン先生、メイソン先生!」


 ミラ先生が小走りで近付いてきた。

 また、あの入学試験で最高威力の魔法を使ったライリーとかいう生徒の話だろうか。

 アイツについては、親が倒れたので急遽退学して故郷に帰った……という私の報告で、既に話が終わったはずなのだが。


「……ミラ先生。私に何か用ですかな? 忙しいので、特に用が無ければ、教員室へ戻りたいのですが」

「いえ、私がメイソン先生に用があるのではなくて、学長がお呼びですよ」

「なっ!? 何故、学長が!?」

「そんなの私だって知りませんよ。一先ず、伝えましたからね? とりあえず、学長室へ向かってください」


 学長に呼び出される事なんて、滅多にないのだが、一体どういう用件なんだ!?

 あのライリーを退学させた事については、他の先生方とも口裏を合わせているし、故郷へ帰る為に退学したと報告した時も、学長からは何の話も無かった。

 流石に一年A組の生徒たちから、学長へライリーの話が伝わるとは考え難い。

 第一、生徒たちはライリーの入試の評価を知らないはずだしな。


 ……大丈夫だ。私は何も下手を打っていない。

 早歩きで廊下を進みながら、考えられる可能性は全て潰しているはずだと再確認し、学長室へ。


「失礼致します。学長、お呼びでしょうか」


 部屋に入ると、学長と副学長、それから……なっ!? り、理事長まで居るじゃないかっ!

 理事長は魔道士ギルドにも顔が利く、超大物。

 滅多に学校へ来られないし、来ても遠くから見ているだけで、こんなに近くへ来る事なんて初めてだぞっ!?


「メイソン先生。呼び出してしまって、すまないね」

「い、いえ。それより、学長。私に何か用でしょうか」

「うむ。君が担任をしている一年A組に居た、ライリー=デービス君の事について聞きたくてね」


 や、やはりライリーの事だったか。

 落ち着け。奴が自主退学したという報告内容に穴はないはずだ。

 それに、学長は防御魔法を専門としているはずだから、嘘を見破る類の魔法は得意ではないはず。

 理事長と副学長は攻撃魔法が専門だから、同様に魔法で何かを探られたりはしないだろう。

 おそらく、過去最高威力の攻撃魔法というのに理事長が興味を示されたから、その話を聞きたいとか、その程度のはずだっ!


「えー、そうですね。ライリー君は一目見ただけで、実力が分かる程の生徒だっただけに、今回の自主退学は非常に残念です」

「そうだな。王宮魔道士殿から国王様へ、未来の賢者だと進言いただいた事もあり、ライリー君の退学は我が校にとって非常に大きな損失だと言える」

「はい。私も、優秀な生徒を失い、非常に残念です」


 よし、大丈夫だ。

 学長は、ミラ先生から聞いていた話を喋っているだけだし、やはり理事長がちょっと興味を持っただけだろう。

 内心、ほっと胸を撫で下ろして居ると、遂に理事長が口を開く。


「ところで、君。ライリー君の担任だったそうだね。彼は、どんなスキルを持っていたんだい?」

「そうですね。残念ながら、彼はスキルには恵まれなかったようで、ハズレスキルである≪ためる≫しか持っていませんでした。しかしながら、スキルに頼らず攻撃魔法の威力を上げる努力をしていたのだと思われます」

「……なるほど、ハズレスキルか。……話は変わるが、君は魔道士に認定される為には、どうすれば良いか知っているかね?」

「え? も、もちろん知っております。三つの手段があり、一つは魔法学校へ通い、三年間の授業を履修する事です」

「そうだな。世の七割程の魔道士は、その方法だろう。……残りは?」

「はい。二つ目は、大魔道士か賢者と認定されている師の下で修行し、その者に認められる事です。一年で認められる者も居れば、十年経っても認められないなど、師となる者によって偏りがあるかと」

「うむ。続けたまえ」


 私は魔法学校の教師だぞ?

 こんな常識的な事を、どうして今更こんな話をするんだ?

 理事長の意図が全く見えないが、一先ず要求されているので話を続ける。


「最後の三つめは、魔道士認定試験を受験し、合格する事です。魔道士ギルドが行っている試験にさえ合格すれば即魔道士となれますが、合格者は一万人に一人と言われているので、かなり難しいかと」

「その通りだ。さて……君はこれが何か分かるかね?」

「これは……魔道士協会が発行している、魔道士新規認定者リストですね。しかし、発行日が……今日?」


 普通は、魔法学校の卒業式に発行され、大量に記載された名前の中から、自分の名前を探すのが恒例なのだが、どうしてこんな時期に?

 どこかの賢者が、変な時期に弟子を認めたのか?

 認定者リストに目を向けると、名前が一つしか載っておらず、


「……ライリー=デービス!? ど、どうして奴の名前が!?」


 その名を目にした瞬間、思わず叫んでしまった。


「さて、メイソン先生。故郷へ帰ったはずのライリー君が、どうして魔道士になっているのかね?」

「……こ、ここを退学になったので、認定試験を受けて、ご、合格した……という事でしょうか」

「おそらくな。流石に、昨日の今日で誰かに師事し、認めてもらえるはずもないから、そう考えるのが普通だろう。だがしかし、ライリー君は故郷へ帰る為に自主退学したのではなかったのかね?」

「そ、そうですね。ふ、不思議ですね……」

「メイソン先生。既に、一年A組の生徒たちに聞き込みを行い、君が愚かな勘違いでライリー君を退学にさせたのは分かっているんだ! 何がハズレスキルだ! ≪ためる≫は魔法を使う者にとって、超有能スキルだというのに、何故そんな事も知らんのだね!」

「えぇっ!? そんな……どうしてあんなスキルが有能扱いに……」


 学長の言葉が全く理解出来ずに困惑していると、


「メイソン先生。自身の無知により、我が校へ多大な損失を出した君を、本日をもって解雇とする」

「が、学長! お、お待ちくださいっ! 解雇だなんて、そんな……どうか、どうか考え直してください!」

「……一か月やろう。その間に、ライリー君を探し出し、この学校へ連れ戻すのだ。そうすれば、解雇を撤回してやろう。分かったら、今すぐ動けっ!」

「は、はいっ!」


 一か月で奴を連れ戻せなければ、クビだと言われてしまった。

 クソッ……奴は一体どこへ行ったんだっ!

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