第10話 魔王を倒す理由
「アリスちゃん。お父さん……って、師匠が?」
「あ、はい。修行中は師匠って呼ぶように言われていますけど、さっきのは流石に唐突過ぎたので」
マジか。
アリスちゃんと結婚したら、師匠がお義父さんになるのかよ。
だけど、アリスが欲しければ俺を倒していけ……的なイベントが漏れなく発生しそうだな。
「唐突と言われれば、確かにそうかもしれないが、人生なんてそんなもんだ。これから起こる事が事前に分かっていたら、面白くないだろう?」
「面白いとか面白くないとかでは無いんですっ! ライリー君に迷惑が掛かるじゃないですかっ!」
「大丈夫だ。俺の見立てでは、アリスの為ならライリーは何でもしてくれるだろう。な、ライリー」
おっと、いきなり振られたけど、何をさせられるんだろうか。
まぁアリスちゃんの為なら何でもするけどさ。
「アリスちゃん。お義父さん……じゃなかった。師匠の言う通り、俺はアリスちゃんの為なら、何だってしてみせるぜっ!」
「ほら、な? 若干気が早いけど、ライリーなら大丈夫だろ」
「気が早過ぎますっ! ライリー君とは、昨日初めて会ったんですよっ!?」
アリスちゃんが顔を真っ赤に染めて、チラチラと俺を見てくる。
随分と慌てているけど、ホントに何をするんだ?
まさか師匠が言った、トイレ以外一緒に行動しろっていうのを、本当に実践する気じゃないよね?
「ライリーは、故郷に許嫁とか、将来を誓った恋人とかは居るのか?」
「居る訳ないじゃないですか」
「じゃあ、アリスの事は好きか?」
「大好きです!」
「よし、分かった。娘を……アリスを宜しく頼む!」
え、何これ。
本気!? それとも、ただの冗談!?
だけど、師匠の言葉を聞いたアリスちゃんが、相変わらず顔を真っ赤に染めたまま、じっと俺の目を見つめ、
「あの、ライリー君。私と一緒に……やっぱりダメーっ! 早い……早過ぎるよぉ」
ダッシュで逃げられた。
……ですよねー。
だって、昨日の今日だし。
俺は良いよ? アリスちゃんと一緒にお風呂入ったり、ベッドに入ったり。
だけど、アリスちゃんの気持ちを無視して、そんな事出来る訳がない。
「何故だっ! 魔王を倒すなら、それくらいの連携は必須! どうしてアリスは拒んだんだっ!?」
「いや、師匠。どう考えても、今のは無茶ですよ。というか、アリスちゃんは師匠の娘さんなんですよね? どうして、昨日会ったばかりの俺と恋人みたいにしてまで、魔王と戦わせたいんですか?」
「別にアリスでなくても良いのだが……いや、俺はアリスが良いか」
師匠が、よく分からない事を呟いた後、
「……約十年前、アリスがまだ五歳くらいの頃だ。アリスの母親が殺されたんだよ。……今の魔王に」
とんでもない事を話しだした。
「えっ!? アリスちゃんのお母さんが!?」
「あぁ。細かい事は割愛するが、それ以来俺は、魔王を倒す事だけを考えて生きてきた。勇者や賢者を志す者を集め、魔王を倒してもらう為に育ててな。そして多くの弟子の中で……ライリー。お前が初めてだ。魔王に勝てるかもしれないと思ったのは」
「えぇっ!? 俺が!?」
「そうだ。準備時間を要するものの、何倍にも膨れ上がる魔力と、それを放つ事が出来る身体。その準備の間さえ耐えられれば、きっと魔王に勝てるはずだ」
「確かに何倍にも増えますけど、魔王に通じるんですか?」
「通じる! というより、通じるように、俺がライリーを更に強くする。だが、お前のスキルの特性上、ソロでは絶対に勝てない。だから、アリスと組んで、魔王を倒して欲しいんだ」
アリスちゃんと一緒に魔王を――お母さんの仇を討つ。
その為には、強固な連携が必要で、それこそ恋人同士のように、何もかもを理解した仲でなければならない……か。
「頼むっ! 魔王倒した暁には、アリスとの結婚を許可しよう!」
「いや、だからそれは、アリスちゃんの気持ちを考えないとダメですって」
まぁ結婚において、最も障壁になりそうな、お義父さんの承認が得られているのは良いけど……って、そうじゃないっ!
「違うんだ。アリスはあの時から、ずっと魔王を倒す為の修行の日々だ。当然、男だって知らん。だから、あれは恥ずかしくて照れているだけ……」
「お、お父さんっ! ライリー君に変な事を言わないでよっ!」
突然アリスちゃんの声が聞こえて来たかと思ったら、ドアから真っ赤に染まった顔だけ出して、こちらの様子を伺っていた。
お母さんの話に触れないあたり、おそらく師匠の話は本当なのだろう。
「……父である俺には分かる。今のも怒っている訳ではなく、アリスの照れ隠しだ。……どうだライリー。男と手を繋いだ事もない、巨乳美少女だぞ!? 恋人になって、一緒に魔王を倒さないか?」
「……一先ず話は分かりましたが、何れにせよアリスちゃんの気持ち次第ですね」
「よし、分かった。これからは、俺の指導の下、アリスの気持ちを掴む為の修行をしよう。アリスが自らライリーを守りたいと言うなら、構わないよな?」
「え? えぇ、まぁ……そうですね」
「ふっ……アリスがオムツの頃から一緒に暮らしているんだ。アリスの事なら、世界で俺が一番知っているからな。この勝負、もらった!」
いや、いつから勝負になったんだよ。
というか、アリスちゃんって、十五歳くらいだよね?
俺も歳が近いから分かるけど、いくら父親だからって、何でも分かるとは限らないと思うんだけど。
極端な例だと、俺が巨乳メイド好きだなんて、父さんも母さんも知らないだろうし。
あ……でも、前にベッドの下の薄い本が母さんに見つかったから、趣味がバレて……いやいや、きっと大丈夫なハズだっ!
「あ、そうだ。話は変わるが、確かライリーは賢者志望だったな」
「ん? 賢者というか、魔道士志望ですね」
「分かった。俺はこの辺の国の偉い奴らにか顔が利くからな。とりあえず、魔道士くらいなら、俺の一言でなれる。という訳でライリーー。今日から魔道士って名乗っていいぞ」
「えっと、冗談ですよね?」
「いや、マジだ。とりあえず、ちょっと偉い奴の所へ行ってくるから、アリスとイチャイチャしといてくれ」
そう言って、師匠が出て行ったんだけど……どこまでが本当で、どこからが冗談なんだよっ!
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