第9話 イチャイチャする修行

「ライリー君って……お料理上手なんですね」

「あー、家で母さんが色々と教えてくれたからさ」

「むー。魔力で負けたのは悔しくないけど、お料理で負けたのは、ちょっとショックです」


 昨日、防御魔法の維持という名目でアリスちゃんの関節技の練習に付き合った後、俺が夕食を作ったのだが、凄く美味しいから……と、今朝の朝食も俺が作る事になった。

 しかし、野宿する時の為にって、母さんが教えてくれた料理の腕が、こんな所で役に立つとは想像出来なかったけどね。


「待って。俺はアリスちゃんが作ってくれたみたいに、手の込んだ物は作れないんだ。アリスちゃんの方が絶対に料理は上手だよ」

「いえ、流石にこれは、違いが明確過ぎますよ」

「そんな事はないよ! だって俺は、毎日アリスちゃんの手料理が食べたいし! ……その、味付けさえ覚えれば、アリスちゃんは完璧だよ」


 現に俺が作った朝食なんて、トーストにベーコンエッグを乗せて、軽く塩胡椒した物と、普通の――オイルやお酢から簡単に作ったドレッシングを掛けただけのサラダだし。

 まぁ、昨日の夕食を作った時に、キッチンに調味料の類が一つも無くて、ダッシュで買いに行ったけどさ。


「あれ? そういえば、師匠に学費的なのって……って、アリスちゃん? アリスちゃーん!?」

「……き、昨日会ったばかりなのに……でも今のって、プロポーズ……え、でも……」


 アリスちゃんが俯いたまま何か言っているけど、知らないうちに俺が何かしてしまったのか?

 そんな事を考えていると、


「お! 今日の朝食は旨そうだな……アリス。俺の分は?」


 いつの間に来たのか、師匠が席に着いていた。


「師匠って、朝食はここで食べるんですね」

「いや、別の所で食べて来たんだが、旨そうな匂いがしているからな……って、アリスはどうしたんだ? 頭から湯気が出そうな程、顔が真っ赤だぞ?」

「えーっと、俺が何か言っちゃったらしく、さっきからその状態でして」


 師匠が動かないアリスちゃんを暫く見ていたかと思うと、突然顔を上げる。


「ライリー! 俺は大変な事に気付いた! 急いでこっちへ来い!」

「どうしたんですか? 突然」

「こっちだ。今、アリスは動かないだろ? という事は、テーブルの下に潜れば、パンツが……くっ! ハーフパンツだとっ!? スカートじゃないのかっ!」

「……師匠。マジで何をしているんですか」

「えぇっ!? 冷たいっ! ライリーなら俺の気持ちを理解してくれると思ったのにっ!」


 師匠。自分の娘くらいの年頃の少女のパンツを覗くって、どうなんだ?


「師匠。俺はアリスちゃんが好きですけど、だからこそ、覗きなんて卑劣な行為はしませんっ! 見るなら堂々と! アリスちゃんの困る様子を含めて楽しむんですっ!」

「ふっ……ライリーよ。お前とは分かり合えると思っていたが、残念だ。好きな女の子にちょっかいを掛けて気を引くなど、まだまだ青い子供っ! 見られていると気付かせずに、アリスの素の様子を見る……これが大人の男だっ!」


 アリスちゃんのパンツを巡り、師匠と共にテーブルの下で言い争っていると、


「二人ともテーブルの下から出て来てくださいっ! 本人を前にして、パンツを見る話って、何を考えているんですかっ!」


 思いっきり怒られてしまった。


「くっ……俺は師匠の巻き添えになっただけなのに」

「ふはははっ! 見てみろ、ライリーよ。女の子にパンツ見せて……って言ったら、普通は怒られるものだ。だからこそ、相手に気付かれぬように盗み見るのが正義だ!」

「どっちも怒りますよっ!」


 アリスちゃんが顔を真っ赤にして俺を見つめてくるんだけど、どうして俺だけっ!?

 最初にアリスちゃんのパンツを見ようとしだしたのは師匠なのに……って、よく考えたら、俺は見ようとすらしてないのにっ!

 いやまぁ見たいか見たくないかで言えば、アリスちゃんのパンツは見たいけどさ、でも卑劣な行為はダメだと思うんだ。

 色々あったけど、一先ず朝食を済ませると、


「よし。じゃあ、先ずは基礎訓練開始っ! ……って、おいおい。ライリーはどうしたんだ!? 昨日の今日で防御魔法の制御がめちゃくちゃ上がっているじゃないか!」


 早速師匠に褒められた。

 まぁ昨日、色々あったからな。

 アリスちゃんに関節技を極められ、でも内心喜んでいたのがバレた後は、ただただ痛いだけの、足を攻める技に。

 もう、全力で防御魔法を使ったさ。

 まぁその後、やり切った感を出したアリスちゃんが、嬉しそうだったから良いけどね。


「……ふむ。修行初日で基礎訓練を身に付けるとは、なかなかやるじゃないか」

「えぇ。師匠に言われた通り、こちらからは一切手を出さずに、必死で守り続けましたから」

「なるほど。では、約束だからな。予定よりかなり早いが、ライリーも長所を伸ばす修行に入ろうか」

「やった! という事は、攻撃魔法の修行ですか?」

「何を言っているんだ? お前の長所を伸ばすと言えば、一つしか無いだろう。アリス……来なさい」


 俺に新たな修行をすると言いながら、師匠が何故かアリスちゃんを呼ぶ。

 一体何をする気なのかと、俺もアリスちゃんも、困惑しながら師匠の言葉を待っていると、


「アリスとライリー。二人の長所を伸ばす為に、これからは互いにイチャイチャしてもらおう」

「……は? 師匠。何を言っているんだ?」

「……意味が分からないから、ちゃんと私とライリー君に説明してくれますか?」


 意味不明な事を言って来た。


「だから、ライリーの長所を活かすには、ためるスキルを使用している間に守ってくれるパートナーが必要だろ? で、アリスは攻撃する時よりも、何かを守る方が力が出るだろ? だったら、二人で協力し合えば、どっちもWin-Winじゃないか」

「何がWin-Winなんですかっ! というか、俺とアリスちゃんが協力し合うっていうのはともかく、イチャイチャって何なんですかっ!」

「そんなの考えれば分かるだろ! これから二人は魔王と戦うんだろ? だったら、いちいち言葉を使って連携しているのでは遅い! 何も言わなくても、パートナーが何を考えているか、次に何をするかが分かるくらいでないといけないんだ」


 いや、それらしい事を言っているように聞こえるけど、内容はかなり無茶苦茶なんだが。


「という訳で、これから二人は寝食を共にする事! あ、流石にトイレは別で良いけど、風呂も寝る時も一緒な。これ、師匠命令だから」

「……いや、無茶苦茶過ぎるっ! そんなのアリスちゃんが困るだろっ!」

「そ、そうですよっ! それはライリー君に悪いです! 何の相談も無しに、何て事を言い出すんですかっ! お父さんっ!」


 ほら、アリスちゃんも怒って……って、お父さん!? 今、お父さんって言った!?

 アリスちゃんって、師匠の娘なのっ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る