第8話 午後の修行と防御魔法

「じゃあ、俺はそろそろ別の街へ行ってくる。明日の朝にまた来るから、しっかり修行しておくように」


 昼食の後片付けを済ませると、突然師匠がこんな事を言ってきた。


「ちょ、ちょっと待ってください。師匠、修行しておくように……って、午後からは教えてくれないんですか?」

「ん? 朝にも言ったが、俺は別で勇者も育てているからな。幾つかの街に修行場を持っていて、ここでは朝から昼食までだ」


 思わずアリスちゃんに顔を向けると、「いつも、こんな感じですよ?」と、優しい笑顔を向けられてしまった。


「まぁ、ライリーの場合は短所がハッキリと分かっているからな。そこをクリア出来たら、長所を伸ばす修行に移る。いつ移れるかは、お前次第だ。じゃあな」


 そう言って、師匠が食堂を出て行ってしまった。

 マジかよ。弟子入り初日から放置されるのか。

 いやでも、学校だって、昼過ぎまで勉強したら、後は何も無いもんな。

 まぁ似たようなもんか。


「ライリー君。あのね、いきなりで申し訳無いんだけど、ちょっとお願いしたい事があるの」

「どうしたの? アリスちゃんの頼みなら、何でもしちゃうよ?」

「本当? ありがとう! すっごく助かる!」


 アリスちゃんにお願いされて、訓練場へ行くと、


「……おぉぉぉっ! アリスちゃん!? アリスちゃーん!」

「ライリー君。もう少し頑張って! 私、何か……何か来そうなのっ!」

「何か来そうって、何が!? というか、そろそろ俺は限界なんだけどっ!」

「待って! もう少しだけ我慢してっ! ライリー君、ライリー君っ!」

「いや、アリスちゃんが激し過ぎて、もう俺は、俺は……無理いぃぃぃっ!」


 体術の関節技か何かの練習台にされたんだけど、もう腕が限界なので治癒魔法を掛け、アリスちゃんの脚にタッチすると、解放してくれた。

 いや、あのままやり続けていたら、マジで腕が折れていたと思う。


「うー……もう少しで、何かコツみたいなものが掴めそうだっのに。でも、ライリー君に怪我させる訳にもいかないですしね」

「アリスちゃんが看病してくれるなら……あ、冗談だから。可愛いけど、目をキラキラ輝かせないで」

「……ライリー君は、またすぐにそんな事言う……」


 アリスちゃんが唐突に俯いてしまったけど、何かマズい事言っちゃった!?

 とりあえず、話題を変えようと思い、


「えっと、技の実験台になるのは構わないんだけど、最初から防御魔法かけてちゃダメかな?」

「んー、防御魔法って風の結界ですよね? それだと、腕を掴めないですよ」

「それなら、こんな魔法があるんだけど……金剛」

「……これ、どういう魔法なんですか?」

「簡単に言うと、土の魔法で腕だけ岩みたいに硬くした……って、感じかな。今なら、さっきの技を掛けても大丈夫だよ」


 土の防御魔法でなんとか話題転換に成功した。

 俺としては普通の魔法だと思うんだけど、アリスちゃんは知らなかったみたいで、珍しそうに俺の腕を撫でたり、叩いたりしている。


「ライリー君の、カチカチで凄く硬いです」

「でしょ? これなら、どれだけ技を掛けても大丈夫だよ。さぁどうぞ!」

「うんっ! じゃあ、いきますよー!」


 先程と同じように床へ寝かされ、アリスちゃんが俺の腕を取ると、俺の身体に脚を乗せて、後ろへ倒れる。

 確か、腕挫十字固とかって言っていたかな?

 父さんは剣がメインで、武器を失った時の為に体術も教えてくれたけど、こういう関節技は教えてくれなかったな……って、ちょっと待った!

 さっきは痛さで、それどころじゃなかったけど、今アリスちゃんに俺の手がギュッと握られている!

 いや待て! それどころじゃないぞ! 俺の手や腕を挟んでいるものって、アリスちゃんのおっぱいじゃないのかっ!?

 くっ……金剛は、腕を岩のように硬くするから、この感覚を味わえないっ!

 どうする!? 俺の胸を押さえ付けるアリスちゃんの太ももだけでも十分に気持ち良い。

 だが、俺の今の腕はどこにある? アリスちゃんの胸の谷間だっ!

 これは金剛を解除するしか……ないっ!


「痛い痛い痛いっ! でも……でも嬉しいぃぃぃっ!」

「あれ? ライリー君の手が柔らかくなった? ……あー、ライリー君って、魔法の維持が苦手でしたよね。一旦止めます?」

「で、出来れば、体勢はそのまで、アリスちゃんが力を緩めた、今のこのままが一番幸せなんだけど」

「ん? ……ライリー君。どういう事なの?」

「えーっと、アリスちゃんのおっぱいと太ももに挟まれて、凄く気持ちが良……痛い、痛い、痛ーいっ!」

「もぉっ! どうしてライリー君は、そんなにエッチなんですかっ!」

「アリスちゃん! ギブ……ギブアーップ!」


 かなり痛かったけど……うん、幸せです。

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