第6話 攻撃魔法禁止で丸腰状態なのに現れる魔物たち

「あぁぁぁ……風の結界が! 百歩戻らないといけないのか」


 やはり俺が防御魔法をあまり使った事がないのと、同じ魔法を長時間維持するという事を苦手としているからか、少し気を抜くと結界が解かれてしまう。

 正直言って、百歩戻らなくてもバレないよな?

 いや、しかし……そもそもアリスちゃんが平然としている事を、俺が出来ないというのは悔しい。

 魔法は母さんが教えてくれていたけれど、自分にこんな弱点があるなんて、全然気付けなかった訳だし、やはり師匠は人を育てる事に長けているのだろう。


「……って、言っても、やっぱりアリスちゃんの美味しい手料理は食べたいっ! 絶対に食べたいっ!」


 ズルせず、やるべき事をきっちりやって、アリスちゃんの手料理を美味しく食べるんだっ!

 全力で百歩戻り、改めて風の結界を張ろうとした所で、


――GRRRRU……


 大きな動物? の鳴き声と、俺を狙う殺気を感じる。

 この気配は……魔物っ!


「なっ!? サーベルタイガーっ!? どうして街の近くの森に、こんな魔物が棲んでいるんだよっ! ……≪ためる≫!」


 森の中からゆっくりと姿を現した魔物を見て、条件反射的に≪ためる≫スキルを使用したが、


「あ……攻撃魔法は使っちゃいけないのか! 師匠の言う通りドラゴンよりは弱いだろうけど……とはいえ、剣も持っていないし、丸腰で攻撃魔法を使わずに、どうしろってんだよっ!」


 攻撃魔法を使えない今、はっきり言ってこのスキルは何の役にも立たない。

 攻撃魔法を使うなっていうのは、しっかり防御魔法で防げ! って事なのだろう。

 つまり師匠が言いたいのは、魔物から攻撃されても防げるレベルの防御魔法を張り、命懸けで防ぎ切れという事だ。

 どうする? 師匠の言う通り、防御魔法を張って逃げるか?


 ……いや、俺は父さんと母さんから、逃げ方を教わった事なんて一度も無いっ!


「≪ためる≫!」


 この訓練をする前から、いつも通り二段階溜めた状態だったので、これで四段階目――十六倍の威力が出る。

 今の時点で攻撃魔法を使えばドラゴンだって余裕で倒せるが、念の為だ。

 サーベルタイガーの目を見ながら、ジリジリと下がって時間を稼ぎ、


「≪ためる≫!」


 五段階目――三十二倍の威力が出る所まで来た。

 ここまで来れば大丈夫だろう。後は五段階目で必要な、五秒間の「溜め」時間が経過するのを待ち……って、襲い掛かってきやがった!

 今の俺は魔法が使えない上に、剣も持っていないので、何とか体術で捌くしかない。

 先程、アリスちゃんがやっていた動きを見よう見まねで取り入れ、何とかサーベルタイガーの攻撃を五秒間避け続けると、


「来たっ! 行くぜ……風の結界っ!」


 通常の三十二倍の強度を持つ風の結界を展開する。


――GYOAAAAA……


 強力過ぎる風の結界に吹き飛ばされたサーベルタイガーが……というか森の木々も含め、もろもろ風の結界に吹き飛ばされて、周囲が更地のようになってしまった。


「……いくら防御魔法とはいえ、三十二倍はやり過ぎだったか」


 ま、まぁある程度街から離れていて良かったと思おう。

 同じ事が起こるかもしれないので、今度は三段階目まで溜めておこう……って、三十二倍の強度にした風の結界って、メチャクチャ制御が難しいんだな。

 一歩進んだ時点で風の結界が解けてしまったので、普通の風の結界を使ってから、≪ためる≫スキルを二回使用し、さっきと同じ状態にして、走り込みを再開した。

 途中、三回程魔物を風の結界で吹き飛ばしたものの、何とか昼前に戻って来る事が出来たのだが、


「おいおい、ライリー。俺は攻撃魔法を使うなと言ったはずだぞ?」

「師匠。お言葉ですが、俺は攻撃魔法は使っていませんよ?」

「だが、四回程爆発が起きていたぞ? かなり強力な風の魔法だったな」

「あぁ、それなら防御魔法です。今使っている風の結界ですよ」

「なるほど……って、流石にそれは言い訳として苦しいだろ。小規模の爆発を起こしておいて、防御魔法って言い張るのは」

「じゃあ、実演しますね」


 師匠を連れて街から出ると、そこそこの距離を離れた所で五段階目まで溜め、


「いきますよ。……風の結界!」


 師匠のすぐ傍で防御魔法を使用し、周囲の木々をなぎ倒す。


「マジかよ。というか、俺……風の結界の内側に居て良かったわ。こんなもん、攻撃魔法と変わらないじゃねーか」

「とりあえず、攻撃魔法を使っていないっていうのは分かってくれましたか?」

「まーな。しかし、今のは≪ためる≫スキルの五回連続使用くらいか? 三十倍近くの魔力を一気に放てる時点で、相当凄いんだが、ライリーは最大でどれくらいまで溜める事が出来るんだ?」

「限界までは試した事がないですけど、七段階目――百二十八倍までは溜めた事がありますね」


 実家の近くで試してみたんだけど、七段階目は「溜め」に七秒もかかってしまう。

 その時は母さんが付き合ってくれて、俺を守ってくれたけど、流石に実戦で使えるレベルではないんだよな。


「凄いな。ちなみに、その約百倍の魔法って、何を使ったんだ?」

「火の魔法の初歩の初歩である、灯火を使ったんですけど、それでドラゴンが倒せました」

「おま……あれって、ロウソクに火を点ける為の、指先に出る本当に小さな魔法じゃないか。それでドラゴンを……って、無茶苦茶だな」

「まぁ、そうですけど、でも倒したのは所詮ドラゴンですし」

「いや、ドラゴンを雑魚みたいに言ってるけど、あれを倒せるのって、それなりに凄い事だからな?」

「え? そうなんですか? ドラゴン倒すのって、街では害虫駆除くらいのレベルかと思っていたんですけど……あ、違うんですね」


 そんな訳あるかっ! と師匠に突っ込まれつつ、一先ずアリスちゃんの元へと戻る事にした。

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