挿話1 焦る魔法学校一年A組担任メイソン

 新入生の学校生活初日が終わり、教員室へ戻ると、


「メイソン先生、メイソン先生! どうでしたか? 噂の一年生は!?」


 今年の入試を担当した教員の一人、ミラ先生が駆け寄って来た。

 まだ三年目の若い女教師だというのに入試を担当したのは、経験を積ませる為という学長の判断だったのだが、ここはガツンと言わせてもらおう。

 今日学校から追い出した生徒……名前は忘れてしまったが、あのゴミスキル≪ためる≫しか使えない生徒を合格させ、しかも成績トップであるA組に入れるという信じられないミスがあったからな。


「……ミラ先生。貴方が担当した生徒ではないと思いますが、一年A組にとんでもない生徒が居たのだが」

「あ、やっぱり初日からとんでもなかったですか? いやー、その子は入試の時に、私が担当したんですよ! もう、信じられないくらいに凄いですよね!」

「……あの生徒は、ミラ先生が担当したのですか!?」


 何故だ? あの生徒を合格にした事を非難しているのに、どうして誇らしげなんだ!?

 ……やはり若いだけあって、何を考えているのか、サッパリ分からん。


「ミラ先生。貴方が未だ若く、経験不足という事は認識していると思うのだが……」

「そうですね。経験不足は自覚しているので、あそこまで分かり易いのは助かりましたね」

「……だったら何故、あの生徒をA組に!? いや、一番下のF組ですらダメでしょう。そもそも不合格とすべきだ!」

「……あれ? もしかして、違う生徒の事を話してました? 私はライリー=デービス君の事を話していたんですけど。過去最高威力の攻撃魔法を放った生徒の」

「えっ!? そうだったんですか。失礼しました。私はてっきり、ゴミスキルしか持たない将来性のない生徒の事かと思いまして」


 そういえば、今年は歴代最高記録を出した生徒が居ると噂になっていたな。

 あのゴミスキル生徒のせいで、すっかり意識から抜け落ちてしまっていた。


「その生徒はライリーという名前でしたな? ……はて、ライリーという生徒なんて居たかな?」

「ライリー君は、背が高くて、顔が整ったイケメンですよ。きっと、学校中の女子生徒や女性教師からモテモテになりますね」

「背が高い生徒は何人か居ましたが……すみません。イケメン? というのは分かり難くて」

「あ! この辺りでは珍しい黒髪でしたよ。黒髪の一年生は、十人も居ないのですぐ分かるかと」


 背が高くて黒髪のライリー……いや、やはり該当する生徒が居ないな。

 A組の黒髪と言えば、あの退学処分にした生徒しか居ないはずだ。

 ま、まさか、アイツがそのライリーという生徒な訳は無いよな?

 ゴミスキルしか持ってなかったし。


「しかし、凄いですよね。宮廷魔道士様が作った魔力計測装置で、測定不可っていう値を出すなんて」

「……それは、装置の故障なのでは?」

「いえ、念の為に学長と、装置を持って来ていた宮廷魔道士様をお呼びして、もう一度魔法を使ってもらったんです。そしたら、魔法訓練室を防御結界ごと破壊してましたから」

「は? あの如何なる魔法をも防ぐ結界を!? し、しかし、今日は魔法訓練室に何も異変はなかったぞ!?」

「ライリー君が自分で直してましたよ。何でも、少しだけ時間を巻き戻せるそうで。まぁ防御結界は学長が張り直していましたが」


 じ、時空魔法だとっ!? あの、二十年前に災厄級の古代竜を倒した、伝説の賢者様にしか使えない魔法じゃないかっ!


「そ……それは、何かの幻覚魔法だったのでは? その生徒が自分を凄いと勘違いさせる、精神異常系の魔法を使っていたとか」

「違うと思いますよ? というか、仮にそうだったとしても、凄くないですか? 学長と宮廷魔道士様に幻覚を見せるなんて」

「た、確かに……」


 精神異常系の魔法を複数人へ掛ける事は難しくないが、全く同じ幻覚を見せるというのは、かなり難しい。というか、ほぼ不可能だと言われている。

 それに、学長も宮廷魔道士も魔力が高いだろうから、そもそも幻覚魔法なんて効かないだろうし。


「えっと、という訳で、メイソン先生が担当されている一年A組のライリー君は、学長から一目置かれている上に、宮廷魔道士様が国王様に未来の賢者として報告すると仰っていたので、明日から注目してくださいね」


 な、何だって!?

 未来の賢者様だと、国王に報告!?

 いや、その生徒は既に追い出した後なんだが……ど、どうすれば良いんだーっ!

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