第3話 胡散臭すぎるオッサン
「アリスちゃん! 死んだら負け……って、本気で言っているのか!?」
「九……はい。先手を取らないと、死にますよ? 八……」
アリスちゃんはニコニコと笑顔だけど、目がマジだ。
展開している魔法障壁も、かなりレベルが高い。
可愛い女の子を攻撃なんてしたくないけど、これは本当に殺しに来るっ!
「七……」
仕方がない……先手を取れと言って、わざわざ時間までくれているんだ。
助言通り、初手で決める!
「≪ためる≫!」
魔力は常日頃から、二段階溜めた状態で居るから、これで三段階目……二倍×二倍×二倍で、攻撃魔法の威力が八倍になっている。
この状態で、ドラゴンなら一撃で倒せるが、目の前に居るアリスちゃんはドラゴンよりも強いと考えた方が良いだろう。
街に住む人たちからすると、ドラゴンは弱いみたいだからな。
「六……五……」
≪ためる≫スキルは強力なのだが、「溜め」の時間が必要で、段階が上がる程、必要な時間が長くなる。
「四……」
「≪ためる≫!」
三秒経過し、四段階目へ。
これで俺の魔法は十六倍の威力だ。
だが四段階目では、四秒の「溜め」の時間を要し、その間は魔法を使用出来ない。
十六倍でアリスちゃんに攻撃を試みるか、もう一度溜めて三十二倍にするか。
ドラゴンが実は弱いと知ってしまった今、出来れば三十二倍にしたいが、次は五秒の「溜め」が必要に……無理だ。
ドラゴン相手なら五秒くらい余裕で稼げるけど、アリスちゃんもまた、ドラゴンを楽勝で倒せるはずだしな。
一先ず十六倍でアリスちゃんの魔法障壁を破壊し、後は溜めずに通常魔法の数で攻めるか。
「三……二……一……」
腹は括ったので、アリスちゃんの眼を見つめて開始の時を待ち、
「零、開始っ! 雷撃っ!」
開始と共に攻撃魔法を放ってきた!
だがそれは、俺も予想済み!
「魔力解除っ!」
「溜め」の魔法が使えない時間が解除されると同時に、周囲の魔力を霧散させ、無効化する魔法を使用する。
「魔力解除魔法? 舐めないでください。私はそんな魔法で消されるような、弱い魔力では……あ、あれ? 雷魔法どころか、障壁まで消されてる?」
魔力解除は、魔力の少ない――実力差のある相手でなければ、魔法の威力を削ぐだけなのだが、アリスちゃんの素の魔力よりも、俺の十六倍の魔力の方が上回ったようだ。
俺としては、これで障壁を削ってから別の攻撃魔法で攻めるつもりだったのだが……いや、とりあえず今は戦闘を終わらせよう。
魔力解除で魔法が無効化されたのが余程ショックだったのか、呆然と立ち尽くすアリスちゃんに駆け寄り、肩に触れる。
「はい、捕まえた」
「えっ!? ウソ……私がこんなに早く負けるなんて」
「じゃあ、これで入門テストは終わりだよね? 死んだら負けなんて、物騒な事は言わないよね……ぶはぁっ!」
「ど、どうしたのっ!? 一度に物凄い魔力を使ったから、身体が耐えられなかったとか!? どうしよう……私、治癒系の魔法は苦手なのに、血がこんなに……」
アリスちゃんが倒れた俺を心配そうに覗き込んでくる。
だ、ダメだっ! このままだと、出血多量で死ぬっ!
「あ、アリスちゃん。服……服が……」
「服? …………いゃぁぁぁっ!」
どういう訳か、突然生まれたままの姿になったアリスちゃんが、両手で胸を隠して逃げて行った。
ありがとう、アリスちゃん。
最期に素晴らしい思い出を与えてくれて。
……いやいや、いくら至近距離から美少女の胸やお尻を見たからって、鼻血で出血多量死とか恥ずかしいだろ。
「治癒」
とりあえず止血して鼻血の海の上に立つと、奥から中肉中背の、ヘラヘラしたオッサンが現れる。
「よぉ、お前か? うちのアリスの魔装束を消滅させて、全裸にひん剥いたっていうのは」
「魔装束? あー、それでか。アリスちゃんがいきなり全裸になったのは」
「お、今ので理解したか。まぁ、そういう事だ」
アリスちゃんが来ていた服は、魔装束――自らの魔力で魔法防御に優れた服や鎧を作りだす高等魔法を使ったものだった。
だけど俺が肩に触れた時に、魔力解除の魔法が手に残っていたようで、白い肌を曝け出して全裸にさせてしまったらしい。
いやしかし、まさかアリスちゃんの服が魔力で出来ているとか思わないよね!?
というか魔力解除だって、攻撃魔法と魔力障壁に対抗するつもりで使った訳で、変な目的で使った訳じゃないんだよっ!
「で、少年。アリスはどうだった?」
「えーっと、可愛いです」
「そっちかよ! 俺は戦った感想を聞きたかったんだが……まぁいいや。で、どうなんだ? アリス」
オッサンが後ろを向くと、訓練場の入り口から、顔だけ出したアリスちゃんが顔を真っ赤にしてこっちを見ている。
さっきとは違い、アリスちゃんは白いワンピース姿なのだが、これも魔装束なのか? それとも今度は普通の服? ……そんな事を考えている内に、耳まで真っ赤に染めて怒っているアリスちゃんが近づいて来た。
「入門テストは、死ぬ前に私を触る事……ご、合格です」
アリスちゃんが恥ずかしそうに俯きながら、俺の合格を告げる。
ヤバい……アリスちゃん、可愛すぎるっ!
「だってよ。という訳で、今日から俺が直々にお前をしごいて、立派な賢者にしてやろう」
「……え? あんた、まさか……その見た目で魔法の師匠とか言うんじゃないだろうな?」
「その通りだ。ついでに言うと、賢者だけでなく別の場所で勇者も育てているからな。実は俺、凄いんだぜ?」
いや、自分で言うのかよ。
というか、見た目は少しも魔道士っぽくなくて、普通のオッサンなんだけど。
「……って、勇者!? 勇者を育てているって言ったのか!?」
「おぅ。目標は現魔王の討伐だ。少年も魔王を倒す為に、ここへ来たんだろ?」
「んな訳ないだろ。俺は魔道士になって、街で働く為にここへ来たんだ」
「魔道士? そんなのここで修行すれば楽勝だ。すぐになれる」
「えぇ……本当なのか?」
どうしても胡散臭さが消えないのだが、
「……少年。この街の弟子はアリスだけだ。修行は住み込みになるから、今なら一つ屋根の下に二人っきりだぞ……」
「よし、ここで修行しよう! 魔王でも何でも倒してやる!」
「よし、決定だ。これから俺の事は師匠と呼ぶように」
「はい、師匠っ!」
「アリス、良かったな。初の弟弟子だぞ」
オッサン――もとい、師匠に小声で囁かれた言葉で、入門してしまった。
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