第2話 金髪美少女と入門テスト

「あー、どうしよう。魔道士になるまで村には戻らないって、言って出て来ちゃったんだよな。退学にさせられるし、家にも帰れないし……マジでどうしよう」


 行くあてがないので、とりあえずオジサンに言われた東に向かって歩いているものの、個人で魔道士を育てているっていうのは怪し過ぎる。

 とはいえ、認可されている教育機関に認められないと、魔道士を名乗る事は出来ない。

 魔道士を名乗る事が出来なければ、冒険者や宮廷魔道士、魔法学校の教師など、魔法を扱う職業に就ける可能性が限りなく低くなる。


「今から他の学校の編入試験を受けて……いやでも、どこに魔法学校があるか知らないし、退学になった理由を聞かれたら、何て答えれば良いんだ?」


 あのメイソン先生が、≪ためる≫スキルを複数回使う事で、魔法効果が何倍にも膨れ上がる事を知らないだけなら良いのだが、もしも一般的に知られていなかったら、同じ事が起こるのでは?

 くっ……田舎暮らしだから、≪ためる≫スキルの本当の使い方が、どれくらい知られているのかが分からない。

 ……とりあえず、ドラゴンでも狩って、その証拠に鱗でも持って行けば、話を聞いてくれるだろうか。

 とぼとぼ歩いていると、馬車の停留所に人が居たので、


「すみません。この辺で、どこに行けばドラゴンって居ますか?」

「ど、ドラゴン!? この辺りにドラゴンなんて居る訳ないだろ!?」

「あ、そうなんですね。すみません、失礼しました」


 そうか。街にドラゴンは居ないのか。

 つまり、街ではドラゴンが駆逐されているという事だ。

 父さんに「ドラゴンを倒せるんだから魔道士になるくらい楽勝だろ」なんて軽く言われていたけど、街にはドラゴンを倒せる人材が沢山居るという事か。

 ……あれ? 待てよ。という事は、俺が知らなかっただけで、もしかしてドラゴンって弱いの!?

 今更だけど、考えてみれば父さんは素手でドラゴンを倒す。

 母さんだって、「今日は美味しそうなドラゴンが居たから狩って来た」なんて言って、夕食にドラゴンステーキを出したりする。

 それに、俺がドラゴンを倒してくるって言っても、二人とも「暗くなる前には帰って来い」くらいしか言わないもんな。


「良かったー! 先生に詰め寄られた時、ドラゴンを一撃で倒せるとか言わなくて」


 そうか、ドラゴンを倒せるくらいの魔法って、普通の事だったのか。

 入試で学費免除って言われたのも、そこそこ魔法威力が高かっただけで、俺よりもっと威力が高い魔法を放つ生徒が居たんだ。

 危ない危ない。

 やっぱり田舎暮らしはダメだな。世の中の常識が分からないや。

 幼い頃は魔王を倒す勇者になる! なんて本気で言っていて、父さんが剣を教えてくれたり、母さんが魔法を教えてくれて、二人とも才能があるって褒めてくれたけど、所詮両親だしな。


「仕方が無い。先ずは教えてもらった、個人で魔道士を育てているってい人の所へ行ってみるか」


 その人が、余りにも変な人だったら、辞めて別の所へ行けば良いしな。

 とりあえず貰った地図を頼りに歩いて行くと、街の外れに少し大きな建物があった。


「ここか? ……すみません、失礼します」

「はーい。どちら様ですかー?」


 声を掛けながら中へ入ると、綺麗な声と共に、女の子が奥から小走りでやって来た。

 前髪をピンで留めただけで、無造作に腰まで伸びる金色の髪に、短いスカートからスラリと伸びる細い脚。

 ドンッと存在感のある大きな胸がとても柔らかそうで、そのうえ飛びっきり愛らしい笑顔。

 こ、これが街に住む女の子……か、可愛い。

 もしかして、魔法学校に居る女の子たちも、こんなに可愛いかったのだろうか。

 ……クラスが男女で別れていたし、今となってはどうでも良いけどさ。


「……あ、あの、既に新聞は取っているので、うちは要らないですよ?」

「そういうのじゃないんです。ここで、魔道士になれるって聞いてきたんですけど」

「あー、お父……こほん。師匠に弟子入り希望ですね? 物理と魔法……どちらを志望されています?」

「剣も魔法も使えますけど、スキル的には魔法……かな」

「どちらも出来るけど、賢者志望……ですね。分かりました。ちょっと聞いて来るので、少し待っていてもらえますか?」


 そう言って、女の子が奥へと駆けて行く。

 俺より一つ下くらいかな? 師匠って言っていたし、ここで学ぶ事になれば、一つ屋根の下で暮らす事に!?

 いいっ! 凄くいいっ!

 ただ魔道士の事を賢者って言っていたんだけど……流石にそれは言い間違いだよな?

 賢者はありとあらゆる魔法を使いこなす、魔法のエキスパートで、魔道士になった人が、更に修行してようやく成れるものだし。

 とりあえず、女の子の名前を知りたいな……と思っていると、


「お待たせしました。あの、師匠は忙しいので、私――アリスが入門テストをする事になりました。どうぞ、こちらへ」

「え? 君……アリスちゃんがテスト?」

「はい。こちらへどうぞ」


 あっさり名前を知る事が出来、建物の奥――訓練場と呼ばれる場所へ案内された。

 そこは、魔法学校の入学式を行った体育館の半分くらいの広さの部屋で、魔法を封じる特殊な結界が張られているから、どんな魔法を使っても部屋が壊れる事はないそうだ。


「では、今から鬼ごっこをします。魔法志望という事なので、物理攻撃は互いに禁止ですが、魔法はお互い何を使っても構いません。それで、貴方が私に触れる事が出来たら合格。触れる事が出来ずに、死んだら負けです」

「……は? ちょっと待って! 死んだら負けって、ルールがおかしくない!?」

「では十秒後に始めますよ? いいですね? 十……」

「マジかよっ!」


 俺から距離を取ったアリスちゃんが、カウントダウンをしながら、笑顔で魔法障壁を展開し始めた。

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