はじめての。
「お前……その意味、分かっているんだよな?」
その宣言の意味は詰まるところそういうこと。
今まで散々読んできたエロ漫画の中の世界でしか見ることのなかったこと。愛を確かめ合うためにする、子をなすためにする夫婦の営みを、彼女としても良いということ。
「わ、分かっているわよ……!あたしの……はじめて、あげてもいいってことだよ」
大人並みに知識をつけた姫は、当然それら全てを理解した上で言っている。
それはオレ達が絶対に越えないようにしていた、禁断の
これを越えたらもう後戻りは出来ない。
滅びへと一直線に転がり落ちる、
「お前、まさか――」
「違うからっ!パパ活でも
再び身売りの真似事をしようとする気なのかと思ったが、オレの言葉は姫の否定の叫びによって
「あたしだって意味分かんないよ……」
顔をくしゃっと
その表情は
「お兄さんはロリコンだしエロ本ばっかり読んでる変態だし……おしゃべりも下手くそな陰キャさんなのに……」
そして今度は
しかしそれはオレに向けた
次の言葉を
「あたし……多分、お兄さんのことが…………好き、なんだと思う」
それは、姫が絞り出した告白の言葉。
裸を
だからこそ、直感で分かった。
この『好き』は違う。間違っても『LIKE』なんかじゃない、と。
「変だよね、こんな……、こんなのが初恋の相手だなんて」
……『こんなの』って、それを本人の前で言いますか。
まぁ、
「別に……変じゃねーだろ」
むず
姫の告白のせいじゃない。彼女の気持ちには何となく気が付いていたから、驚きはそこまでない。
それよりもオレの心を乱している理由は――
「オレも分かんねーんだよ、自分のことが。姫のこと……意識しちまう」
――自分も初恋をしていたと気付いてしまったから。
いじめられている彼女を助けたい。
少しでも幸せな環境にしてあげたい。
姫のために何かをしたい……という思いがずっとオレの心の奥底で
赤の他人のはずなのに。
それはどうしてなのか。
もう、疑う余地はない。
オレが、姫のことを好きになっていたからだ。
「何よ、それ。あたしのこと好きってこと?」
「ああ、そうだよ!オレも好きなんだよ、お前のことが!」
言い直させるなよ、はっきり言葉にすると余計に恥ずかしい。
でも、思い切ったらちょっとスッキリしたかも。
「きゃはっ。なぁんだ、両想いじゃんあたし達」
姫は
「あ、でもさっきの話は、あたしが大人になってからだからねっ」
「さっきの……?」
「だからっ!はじめてはお兄さんと……ってこと」
「あ、当たり前だろっ!」
しゃがんだままの姫の前に腰を下ろして目線を合わせ、すかさずそこでチョップを一発。
お仕置き兼照れ隠しだ。優しく当てたので許してくれ。
「あ~、お兄さん。今日が童貞卒業記念日だって期待してたでしょ~?」
「はぁっ!?し、してねーしっ!?」
「すぐそこにラブホあるもんね、
「小学生が入れると思っているのか!?」
「期待したところは認めるんだ~」
「認めてないから!盛大な誤解だから!オレは断じて期待してないから!」
オレ達はしゃがみ合ったまま、今までと変わらない
まったく、気を許した途端にコレである。
いくら両想いだからといって、この年の差ではダメだ。成長するまでは清い付き合いを
「とにかくっ!そっちのはじめてはまだあげられないからっ!けど――」
不意に、
視界いっぱいに広がるのは目を
それは、
「――こっちの分は……今あげちゃった❤」
ファーストキス。
それは姫にとっても、オレにとっても。
一生に一度の、初めて。
「大人のキスはまた今度ってことで」
「お、おぅ……」
オレは
「それじゃあね、お兄さん。また明日」
「ああ、また……明日」
姫が去って姿が見えなくなるまで、オレはずっと固まったままだった。
……遂に姫と本物のキスをしてしまった。
まだ心臓がバクバク鳴っていて、興奮は収まりそうにない。
彼女の全裸を見たことがある。
一緒に風呂やトイレに入ったこともある。
秘所に直接触れてしまったことだってあるんだ。
何を今更、キスなんて子供っぽいことで戸惑っているんだ。
でも。
このキスはただの行為ではないんだ。
遊びじゃない。好きな人同士が愛を確かめ合う、特別なことなんだ。
唇が重なるあの瞬間が何度もフラッシュバックする。
そして伝わってくる酸っぱさ。
ん、酸っぱさ……?
ファーストキスはレモンだのイチゴだのだとか、よく甘酸っぱい味と言われる。本当にそうかは別として、オレの場合はやけに酸っぱかったぞ。
それは青春の雰囲気とか、そういうレベルじゃない。
味覚として認識する明らかな味で……。
「……あ」
そういえば、さっきまで姫はゲロを吐いていたな。
もしかして酸味の正体って
「……う、うぼろろろろろろろろろろ」
もらいゲロ。
ファーストキスは胃酸風味でした。
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