数段飛ばしてますよ。
姫がジュースを飲んでいる間に
「少しは落ち着いてきたな」
「うん、そうだね」
これで姫をいじめていたヤツらもいなくなった。オレ達が縮こまっている必要もない。
ここからは思う存分出店巡りを楽しめるようになったのだ。
「空腹も限界になってきたし、そろそろ本格的な食べ物でも買うか?」
「お兄さん、やっぱりがっついてるね~?」
人の食欲を笑ってニヤニヤ小バカにする姫。
ぐぅ、きゅぅぅぅっ。
でも、直後に自分が腹の
「い、今のは違うからっ!ギャグ狙いで鳴らしたんじゃないんだからねっ!」
「ンなこと思ってないから」
「本当に!?芸人の真似だなんて思ってない!?」
「それよりお腹が鳴っちゃった方を恥ずかしがれよ」
「あっ!」
こんな風にお互いバカみたいに掛け合いして、ツッコミを入れて。
オレと姫。
足りない者同士、心ゆくまで至福の時間を楽しんだ。
時刻は午後九時前。
山車はそれぞれの地区に戻っていき、太鼓の音も散り散りになっていく。
残っているのはほのかな熱気だけ。夜の
「ふぅ……腹が重いな」
「食べ過ぎなんだよ、お兄さんは―――う、気持ち悪っ」
「人のこと言えないだろ」
「さすがに最後の追い込みはまずかったな……」
「うん……あそこでやめとけば……うっぷ」
最初のトロピカルジュースに加えてイカ焼き、ジャガバター、たい焼き。一回かき氷ときゅうりの一本漬けで休憩を
以上、本日の
「しばらくは何も食べたくないな、これは」
「あたしもー……おぅげっ」
「おいおい、大丈夫なのか」
「う、うん。大じょ――――うげろろろろろろろ」
「人の顔見て吐くなよ」
姫は四つん
「……うん、スッキリ」
「そうか、良かったな」
清々しい顔されてもコメントしづらいよ。
ゲロった後だもん。どう頑張っても
「ふぅ、やっと着いたな」
可愛い少女の
ここは姫の住むアパート前。
周囲で電気がついているのはいかがわしい店かラブホテルくらい。一応祭りの飾りを付けて地域貢献アピールしているだけまともか。
そして彼女のアパートは……どの部屋にも明かりがついていない。どこの部屋が姫の自宅なのか不明だが、保護者が不在だということだけは確かだ。
まさに鍵っ子。
いくら祭りの日とはいえ娘をオレなんかに預けて、夜中までどこに行っているのだろうか。
姫の親は一体どんな人物なんだ。
「なぁ、家に誰もいないみたいだけど平気なのか?」
「ん、どうして?」
しかし、姫にとって夜中に親がいないことは日常なようで、オレの心配に対して不思議そうな視線を向けてくる。
「い、いや……ホラーが苦手なくせに家で一人なんて怖くないのかな~って」
だから、オレははぐらかしてしまった。
そのことを聞いてはいけないと思って、一歩が踏み出せない。
「ちょっと、もうっ!お兄さんのバカーッ!あの映画思い出しちゃったじゃーんっ!」
「あ、すまんすまん」
この前のデートもどきで見た、『
確かに、この
「せいっ!」
「どぐふぁぁあっ!?」
で、その制裁にパンチ一発右ストレート。
股間に直撃、結構めり込んだ。
頼むから、
「お前……ここ、大事なところなんだからな……!?も、もうちょっと優しく取り扱ってくれよ……」
「知ってるよそれくらい」
エロ本で知識つけているんだから、そりゃ当然だ。どれだけ敏感な急所で、割れ物並の扱いが必要だということを。
って、知っているならやるなよ。
「でも使う予定ってある?」
「それは言わないお約束だろ……」
悲しい現実を突きつけないで。
そうですよ。現状、その機会は全くないです。恋人も友達もいないのだから、今すぐ出会いって即合体なんて状況になるはずない。童貞卒業までに立ちはだかる壁が多過ぎて、やる気ポイントは既に底を突きかけているのだ。これ以上何に希望を持てと……?
オレに好意があるみたいなそぶりを見せておいてこの一言だからなぁ。姫の考えていることはやっぱり分からない。
なんて思った時――
「…………よかったら、予定に入れてもいいけど」
――姫の口から
「は……?今、なんて?」
「だから、それ……いつかあたしで使っていいってこと」
大人の階段を何段もすっ飛ばした宣言だった。
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