今度は負けない。
と、威勢良く飛び出したのは良いものの、後先を考えていなかった。
ここからどうすればいいんだろうか。
「えぇ……、誰なのおじさん?」
リーダー格らしいストレートヘアの子は
「お、お兄……さん……なんで?」
まさかの登場に、姫は目を白黒させて戸惑っている。オレだってこんなことになるなんて思っていなかったのでおあいこだ。
「誰こいつ、あんたの知り合いですかぁ?」
「教えてよ~?」
「いっ、痛いったいっ!」
ショートカットの子とお
「や……やめろっ!いじめなんて、するんじゃないっ!」
どもりながらも、オレは懸命に怒りを吐き出す。
かつてオレにも降り注いだ理不尽な暴力が、姫にも襲いかかるのを黙って見ているなんて出来ない。オレと同じ思いをするなんて
「はぁ?私達がいじめ?ただ遊んでいるだけなんですけど?」
「これだから大人ってヤなんだよねぇ、首だけ突っ込んでくるんだもん」
「そーそー。私達のことなんて全然分かってないくせにねー」
女子達は口々に文句を言い、今度はオレを悪者に仕立て上げようとする。
ああ、こいつらは同じだ。
オレをいじめてきた女子と同類の、口先だけで人を
「ちょ、調子に乗るな!そんな
だからこそ、もう負けられない。
この類いの連中はその場の空気を支配して、自分達が弱者であることを演出するんだ。そうやって正義気取りの男子や上っ面しか見ていない教師を味方につけてきた。
だが、今はまわりにギャラリーがいない。
それもそのはず、いじめる時は周囲の目がない時にするのが基本。オレが乱入してきたのは彼女達にとって想定外なのだから。
つまり、オレさえ『弱者が悪いことをしても責めたヤツが負け』という理不尽な空気に飲み込まれなければいいということ。
小学生の
「いっ、いじめなんてただの犯罪だ!こ、この証拠写真を警察に見せてもいいんだぞ!?」
オレはスマホをちらつかせる。もちろん写真も動画も撮っている暇なんてなく、証拠なんて入っていない。完全なブラフだ。
しかし、彼女達には効果てきめんだったらしく、『警察』という言葉を聞いて
やはりどの世代の子供でも『警察』は恐怖の対象らしい。
「いじめをした罪で、た……逮捕されたくないなら……す、すぐに姫から離れるんだ!」
「何よ、写真だなんて!おじさんだって不審者じゃない!」
「「そーよそーよっ!」」
強がって反論してくるストレートヘアの子とその配下。だが、その瞳が泳いでいるのは
オレがどう見ても不審者だったとしても、いじめをしていた事実が警察にバレたら大事だ。教師間だったらもみ消して不問に処されていたかもしれないが、警察
「じゃ……じゃあ、一緒に交番か警察署に行くか?」
更に
何の証拠もないブラフオンリーのオレからしたら、本当に警察
それでも、この言葉の持つ威力には変えられないのだ。
実際に彼女達は動揺を隠せず、三人でひそひそと震え声で相談し合っている。オレを不審者扱いすれば自分達も破滅するかもしれない、だがいじめを今すぐやめるのならお互いに被害はない。
とすれば彼女達が選択するのは当然――
「ふ、ふん!不審者のくせに偉そうにして!覚えておきなさい、この変態!」
――この場をさっさと去ることだ。
お決まりのような
まるで二日前の、
「ふぅ、なんとか一件落着ってところか?」
小学生相手とはいえ、いじめっ子を撃退することが出来た。ずっといじめられ続けて
それにこの間の対藍染戦……その時の、姫に助けられた貸しも返すことが出来た。初めて姫に格好良いところを見せられた気がする。
「それにしても、お前もオレと同じだったとはな」
解放されてからずっとへたり込んだままの姫に手を差し伸べる。
今まで住む世界が違う女の子だと思っていたが、案外似たもの同士だったようだ。オレと違って肉体的なものではないが、弱者として
そしてその思いはオレも一緒だ。
だが姫は――
「あっ、おい!どこに行くんだっ!?」
――オレの手を払いのけて逃げ出した。
ぼろぼろ落ちる、大粒の涙を手で押さえながら。
姫を探し回って一時間程度。
時刻はそろそろ正午、腹が空いてくる頃合いだ。
ということで、何となく行き先も分かるんだよな。
「やっぱりここしかないよな」
お昼ご飯と言えばうちに来るだろう。夏休み中ずっとうちで食べていたのだから容易に予想出来た。
そしてそれは大当たり。姫は玄関前で体育座りしていた。
「悪いな、今日は母さんいないんだ。だから鍵は閉まっている」
「うるさいわね……」
「どうせ腹減ってオレの家に来たんだろ?適当に作ってやるから、中に入れよ」
「べ、別にそんなんじゃないもんっ!」
いじめられている現場を見られて恥ずかしかった。それなのに空腹に耐えかねて目撃者の家に行くなんて。今まで散々罵倒してきた相手に情けない姿なんか見せたくなかったのに。
そんな姫なりのプライドが
だが。
ぐぅぅぅぅぅぅっ……。
「~~~~~~っ!?」
ほら、やっぱり。体は正直なようだ。
特大級の腹の
「我慢は体に毒だからな。遠慮せず食べていけよ」
「わ……分かったわよ。と、特別にお兄さんの料理、食べてあげる」
結局、なんだかんだ言っても食欲はあるようで良かった。
もっと素直になればいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます