陰湿さ。
今日はやけに暑い。異様に暑い。
朝からガンガン温度が上がっていった自室の中は、まるで
姫はまだ家に来ていない。
もしいたのなら暑くて耐えられず服を脱ぎ始めて、またいつぞやみたいに大騒ぎするハメになっていただろう。
「って、何で毎日来ること前提で考えてんだよオレ」
いくら親しくなったからといって、いつもやってくるとは限らない。今まで毎日来ていたことの方がおかしいくらいだ。
彼女にだって他に交友関係があるだろうし、こんなクソ暑い日は友達と一緒に冷たいプールに
「はぁ、プールか……」
オレの思い出の中に、プールに関する良い思い出はない。
泳げないことはないが下手くそで遅かったためバカにされまくり、おふざけの延長線上で
「って、これじゃあただのスク水愛好家みたいじゃねーか」
暇なのでノリツッコミというボケをかましてみるが、あまりの
今までずっと一人で過ごしてきたのに、孤独感がスゴイ。こんな時、姫がいたら「バーカ」って
……なんだ、この感覚。
別に姫はオレの友達でもカノジョでもないんだから、会えないから
「……あー、もうっ!うだうだ考えても仕方ねーだろって!」
来るかどうかも分からない姫のことで悩むなんてバカらしい。でも自室でじっとしていると
なので気晴らしに出かけることにした。部屋の中よりも直射日光が強くて痛いほど暑いが、胸に巣くうもやもや感が解消されるならそれでいい。
「はぁ……やっぱ、あちぃな……」
家から出て数歩で
でも今更戻っても
「そういえば姫の通う学校って、オレと一緒だよな」
同じ学区内に家があるのだから、オレの母校の後輩ということになるはず。
市立中央小学校。
平凡でつまらない名前。それに
そんな苦手意識のある場所ではあるが、不思議なほどよく覚えている。いじめられたことと
もしかしたら姫はそっちに行っているのかも。ウォータースライダーみたいな派手さはないが、無料で冷たさを味わえるならこちらを選んでいる可能性は十分ある。
ちょっと寄ってみるか。
「いやいやいや、それだと完全に変質者だろ」
プールに入っている子供に会うために小学校に立ち寄りましたOBです、ってか。
母校でさえ自由に出入り出来ないとは、
防犯面から仕方のないことだが、近年子供や地域との関わりが極端に減っている気がする。
まぁオレの場合、子供の方から接触してきてこの
「お、小学生だ」
色々と考え事をしながら歩いていたら、いつの間にか小学校周辺。プールバッグを持った子供がうろうろしていた。
近くにいるのは四人の女子。その内三名の髪の毛は
なんだ、オレの予想通り友達と一緒にプール遊びか。
……なんて思ったが、何やら様子がおかしい。一人だけプールに入った形跡がないのもそうだし、何よりも雰囲気そのものが変だった。
「なぁに、あなた?まさかプールにでも入りに来たの?」
「休みの日まで一緒なんて、
「そーそー。ただでさえあんたと同じクラスってだけで
ロングヘアーの子、ショートカットの子、お
一瞬
「べ……別に……プールに入るつもりなんて、ないし……」
対する姫は上目遣いでおどおどしている。
大人相手に
「水着も持ってきていないみたいだし
「そ、そうです……だから、もういいで――」
「でも、私達の前に顔出しただけで同罪だから」
ロングヘアーの子が、姫の言葉を
「あなたの顔を見ているだけで気分悪くなるのよ。ああ、これはもう
おいおい、何だよそれ。言いがかりにも限度ってものがある。
一昔前の不良がやっていた『肩が当たった系』カツアゲよりも理不尽さがグレードアップしているぞ。
「で、でも……あたし……お金持っていないし……」
「ああ、そうよね。あなたの家って貧乏ですもんね。でも、それにしては高い服着ているじゃないのよ?」
ずいっと、ロングヘアーの子が更に距離を詰める。
目を付けたのは姫が着ているワンピース。かなりのお値段だったそれを、
「や、やめてっ!」
ぱしんっ。
反射的に姫は抵抗。平手打ちで
「いった~いっ!叩かれた~!」
「うわぁ、暴力反対だぞー」
「そうよそうよー。最低だー」
だが、いじめっ子達の
彼女達は自分達のやっていることを
姫の一挙手一投足、その全てに言いがかりをつけていじめ抜くつもりだ。
「これはホントに慰謝料もらわないとねぇ?とりあえずその似合わないワンピース、よこしなさい。あなたになんかもったいないわ」
「そ、そんなっ!?ダ、ダメっ……!!」
「逆らうんじゃないよ、メンドクサッ。ちょっとこの生意気女、押さえておいて」
「はいっす~」
「がっちりですねー」
それなのにショートカットの子とお団子頭の子に両腕を
まるで、昔のオレみたいに。
「や……やめろ、君達っ!」
気付けば。
オレはいじめの現場に足を踏み入れていた。
もう二度とごめんだと思っていた、弱者を
それなのに飛び込まずにはいられなかった。
それはきっと。
姫を助けたい……その一心からだ。
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