怪しまれているよ。
フードコートは
そんな中オレはやっとのことで席を確保し、へろへろな姫を座らせることが出来た。
「ほら、これでも飲めよ」
くるくる巻かれたストローが刺さった、透明の
「……ん。……ありがと」
姫は力なくストローに口をつける。
ちゅるるるっと音を立てて色鮮やかな液体とゼリー状の物体が、姫の柔らかな口内に流れ込んでいくのが見えた。
「……っぷはーっ!生き返るーっ!」
そして、
あとさっきまで死んでたんか、やっぱり。
「復活したか?」
「うんっ!お兄さんの
「ってお前、わざと気分悪そうにしてたのかよ!?」
「えっへへ~♪
心配して
オレが気を利かせて奢るよう仕向けたってことかよ、クソ。
「あんだけビビッてたのも全部演技だったってことか?」
「そーに決まってるでしょ~?見抜けないなんてダッサ。ザコザコお
「じゃあ呪いを解こうとするシーンの、真っ黒な手が一斉に
「わーーーっ!ダメダメダメ!!」
「ラストシーンの全身真っ黒な子供が――」
「やーめーてーっ!思い出しちゃうーーーっ!」
怖さのあまり
意地張って強がっていても得はないからな、やめておけって。
「お兄さん、性格悪いよー」
「だってお前が平気だったって
「嘘じゃないもんっ!怖いの平気だもんっ!」
「はいはい、そういうことにしておきましょう」
ここは大人の対応で姫に花を持たせてやることにして、ホラー映画の話題は打ち切ることにした。それに口では平気と言っているが、苦手なのは一目瞭然な訳だし。
「ぶー、信じてないでしょ」
けれど言い方が悪かったのか、本人は納得していない表情でジュースを吸っているけど。
「あの、ちょっといいかな」
肩にぽん、とゴツゴツした手が置かれる。
背後からの不意打ちにびっくりして振り返ると、そこにいるのはガタイの良い警備員の男だ。
「あ、あの……なっ、ななな何か?」
急激に緊張が高まったせいで
「『何か』じゃないよね。君達どういう関係?」
「え……そ、それって、どういう――」
「
どくん。
心臓が大きく跳ねた。
遠回しな質問だが、その裏にある意図はすぐに分かった。
この警備員、オレが小学生に手を出そうとする犯罪者だと怪しんで声をかけてきたんだ。
言いたいことは分かる。
オレと姫は年の差約九歳で、兄妹にしては顔が
そして
だけど。
確証もなしに疑ってかかるなんて
「それで、どうなんだい?
「あ……いや、その……」
差し支えしかねぇよ。どんなに聞こえよく説明しても、自分の部屋に少女を入り
一体どうすればいいんだ……。
「言えない事情でもあるのかい?」
「そっ、そういうことじゃっ……ないっ、です……けど」
「なら早く話しなさい」
警備員の問い詰めの
周囲の客も何の騒ぎかと思ったようで、オレ達のことを視線を注いでいる。針のむしろにいるみたいだ。
「お
答えあぐねているオレはそのままに、質問が姫に移る。
その聞き方は、オレのことを「不審者なのでは」と
「大丈夫、正直に言っていいんだよ。もし怖い思いをしていたらすぐに助けてあげるから――」
「ウッザ。さっきから何様のつもり?」
だが、姫は善意の押し付けを突っぱねた。
「さっきから意味分かんないことばっか、うるさいんですけどぉ?」
「う、うるさいって……私は君の安全を思って――」
「安全って何?こうやってお兄さんのこと悪者扱いして責め立てること?話すの下手っぴなのをいいことに、好き放題言いがかりつけること?」
「そ、それは……。でもどう見てもおかしいから声をかけたまでで――」
「おかしい?あたしとお兄さんがデートするのがそんなにおかしいの?そんなこと、誰が決めたの?」
姫は
まさに本領発揮だ。小学生離れした
「こっ、子供と付き合うなんて犯罪じゃないか!?どうなんだ、それは!?」
「
その通りだ。性的な意味で手を出さなければ犯罪じゃないし、
ただ、『清い付き合い』かどうかはかなり怪しいラインだな。アウトっぽい出来事がいくらかあるが、オレから手を出した訳ではないのでセーフだと思いたい。
「ふっふ~ん、反論出来ないでしょ」
「くっ……!あ、怪しかったから悪いんだからな!」
正論を言われて追い詰められてしまったらしく、警備員は捨てセリフを吐いてフードコートから去っていく。
これ以上勝ち目はないし多くの客が見ているので退散したのだろう。心証を悪くすることを思えばそれなりに良い判断だが、せめて一言謝ってからにしてほしかったな。
「あたしの勝ちーっ!馬にでも蹴られちゃえーっ!きゃはははははっ!」
あと、姫の笑い方が悪人っぽい。オレにとっては間違いなく正義の味方なんだけど、絵面が実に惜しい。
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