映画を見よう。


「まさか全戦全敗とは……」

「ふっふっふ~ん♪やっぱりお兄さんザコ過ぎ~っ!」

「うるせえ、ほっとけ」


 姫は勝ちまくり&カードをいっぱい手に入れて上機嫌になっている。ザコなのは本当のことなので、反論出来ないのが悔しい。


「次は何しよっかな~?」


 くるくる回ってハイテンション、連チャンで遊ぶつもりなようだ。

 対するオレはすでにへとへとな状態。リズムゲー連続二十回は結構体に負担がかかるな。ただ単にオレがひ弱なだけなのかもしれないけど。


「出来れば激しくないかんじで頼む……」

「えー。体力なさ過ぎでしょ」

「ごもっともですよ」

「はぁ。しょうがないなぁ……」


 あきれて溜息ためいきをつかれてしまった。

 格好悪いな、オレ。


「じゃあさ、映画見ようよ」

「ああ。それなら大丈夫そうだ」


 姫が提案したのは映画鑑賞。約二時間弱の上映時間、椅子に座ってゆったりしていられるので体力回復にはもってこいだ。

 オレは即答でオッケーを出した。


「見たい映画は決まっているのか?」

「ううん、全然」

「そうか。なら一緒に決めるか」


 という訳でやってきました最上階の映画館。

 さて、ここで問題になるのは作品選びの基準だ。

 今イチオシされているのは『君が好きだと那由多なゆたまで言いたい』とかいう流行はやりの恋愛ものだ。ポスターにはどこぞのアイドル事務所所属のイケメンと若手の女優、そしてその他のキャストがブロッコリーみたいに並んでいる。

 当然、興味のないジャンルだ。ろくでもない青春を送ってきた人間に甘酸っぱい恋物語なんて劇薬過ぎる。ドロドロ三角関係ものなんてもってのほかだ。見たら最悪、三日は寝込む。

 だが姫くらいの年齢の女の子なら興味はバリバリあるはず。れたれたで大騒ぎ、自分の恋心すら占って一喜一憂するくらいだ。正直オレは見たくないのだが……。


「コレ?うーん、つまんなそうだからいい」

「……そうなのか」


 意外なことに姫も興味ないらしい。いわく「どうせ最後はくっつくんでしょ」とのことで、話の流れがどれも同じで飽きてしまったそうだ。

 それは確かに分かる。『この夏、最高のラブストーリー』なんてキャッチコピーはくさるほど目にしたし、度々流れる宣伝も既視感バリバリだもんな。


「それならこっちはどうだ?」


 題名は『ハード・バレット~史上最難関のミッション~』。海外のアクション作品だ。特殊部隊対テロリストのガンアクションもので、ポスターにでかでかと映る主演俳優はかなり有名らしい。オレはさっぱり知らないのだが。


「ん~……ビミョー。外国の映画のノリってついていけないもん」

「えぇ……」


 これもお気にさないようだ。

 文化が違うから作中に出てくる冗談じょうだんが通じなかったり、感情移入しづらいってのは分かる。でも日本語訳した独特な言い回しがまたいい味出しているんだけどなぁ……。

 しかし、り好みの激しいヤツで困るな。これではオレ流でいくら厳選しても文句言われてしまいそうだ。

 うむ、それなら細かいことは考えずに片っ端からしてやろう。まずは見たら後悔しそうな、かなりヤバめの作品から。


「なら、こいつで行くか?」

「うぇっ!?コレ見るの!?」


 夏といえばホラー、ということで選んだ映画は『呪村じゅそん』。村を訪れた人間に次々と呪いが降りかかる……という内容で、ジャパニーズホラーの巨匠がメガホンをとった話題作だ。

 ポスターの時点で滅茶苦茶めちゃくちゃ怖い。無数の手型と子供の顔が古びた窓ガラスに映っているデザインで不気味極まっている。コレ見たら今晩眠れなくなるんじゃないか?


「……ま、こんなの嫌だよな。別のにするか」


 推したのはオレだが、やっぱりやめておこう。いくら姫にグロ耐性があるとはいえ、グロ描写とホラー描写は別物だ。一緒くたにしてはいけない。それに下手するとオレ自身のトラウマになりかねない、という情けない理由もある。


「バッ、バカにしないでよ!?べっ、べべ別に怖くなんかないしっ!あたしは平気だもんねっ!」


 だが、姫は退かない模様。

 声が上擦うわずり足も震えているのにどこが平気なのだろうか。完全なやせ我慢である。


「無理するなって。怖いのはダメそうじゃねーか」

「ダ、ダメじゃないしっ!あ、あ~分かった~。本当はお兄さんの方が苦手なんでしょ?そうなんでしょ?」

「ンな訳あるか。オ、オレくらいになればホラーの一つや二つ、どうってことないから!さっき勝ちまくったからって、あんまり調子に乗るなよ?」

「あー、言ったね?それなら見るのはコレに決定!怖くてビクビクしてるお兄さんが今から楽しみだわ~!」

「チケット代オレ持ちなのによくえるなぁ、オイ!?いいぜ、買ってやるよ。ガチでボロ泣きしてもらうからな!?」


 そこまでいきがるのなら、キッチリ白黒はっきりさせてやろうじゃねーか。

 怖過ぎでトラウマになっても知らねーぞ。

 と、そんな勢いに任せてオレは恐怖行きのチケットを購入。二人そろってスクリーンの前にレッツゴー。

 そして、上映のブザーが鳴る。

 ……何でこんなことしちゃったんだろう。

 後悔するのは、映画が開始してすぐ後だった。




 映画を見終わったオレ達は、ロビーの椅子いすに腰掛けて項垂うなだれていた。

 真っ白。生気が抜けたような感覚。映画の開演と同時に、ゴリゴリ生命力をけずられた気分だ。

 あまりの怖さで気絶してしまうかと思ったぞ。


「……ぁ………ぁぅ」


 姫の方は更に重症だ。さっきから「あうあう」声をらしてばっかりだ。目もうつろだしよだれ垂れかけだし、色々と心配になってくる。

 姫だって最初はまともな状態だった。だが、前半時点でガチ泣きし始めオレの腕にしがみつくようになり、後半からは許容範囲を超えてほとんど反応しないお人形さんになってしまった。


「おーい……生きているかー……?」

「ぁ……ぅ」

「メンタル面は無事かー……?」

「……ぁぅぁぅー」

「うん。ダメだな、コレは」


 赤べこみたいに力なく頭を上下に振るだけで、ゲームに夢中だった頃の元気さは完全に消えせている。まさに抜けがらだな。いや、せみの方じゃなくて。


「何か飲んで休憩するか?」

「そう…………する」


 やっとの思いで意思表示をして、姫はゆっくりと立ち上がる。が、ふらふらしていて安定しない。

 幽体離脱ゆうたいりだつでもしてるのかよ。

 はぁ、仕方ない。ホラーをオススメしたのはオレだ。責任持って介抱してやらないといけないな。

 オレはおぼつかない足取りの姫を支えながら、一階にある休憩場所――フードコートへと向かうことにした。

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