おしっこの話。


「あ。そ、そういえば……き、気になっていたんだけどさ……そ、そのっ、トイレとかって、どうしてるんだ、お前?」


 いまだにエロ読書に夢中な姫に、疑問だったシモの話をぶつけてみた。

 姫がオレの部屋以外の場所にいたのを見たことがない。そもそも開けっ放しの玄関から侵入してきている=母さんが家のどこかにいる状況なので、不用意に下の階へ行けば、ばったり遭遇しかねない。だがそうなると、彼女は一体いつトイレに行っているのか。割と疑問だった。


「え~? ちょっとぉ、女子のトイレ事情を知りたいなんてキモイんですけどぉ?」


 伝え方が悪かったのか、嫌悪気味な目でにらまれた。


「ちっ、ちげーよ……。ほら、うちのトイレ、いっ、一階だけだろ? 母さんに見つかるんじゃないかって……」

「あ~、そういう……。いやぁ、よかったよかった。お兄さんってば、てっきりスカトロ趣味なのかと思っちゃった」


 酷い勘違いだ。

 そして年齢一けたの子がそんな単語を使うなよ。どこで覚えた?ああ、オレの本ですか。そうですか。悪いがスカトロ系は無理なんだ、性癖に合わない。


「心配なら一応教えてあげるけど~、実は我慢しているんだよねー」

「え……? ずっと?」

「うん。帰るまでずっと」


 マジかよ。膀胱炎ぼうこうえんになるだろ、それ。

 というか満タンになって破裂したりしないのか?


「女子の我慢強さをなめないでよ?よわよわ男子と違って早漏そうろうさんじゃないの。分かるぅ?」


 どこの我慢比べ大会だよ。排泄行為で競い合っても格好が付かないぞ。あと早漏で漏れるのは別のもんだろ。まぁこいつは知った上で言っているんだろうけどな。


「でもぉ、おなかの中でパンパンだから、ぎゅって押されたらお・も・ら・ししちゃうかも♪」


 姫はにやつきながら下腹部をすりすりと、てのひらで円を描いている。まるでオレに押させようと誘っているみたいに。


「こっ、ここで漏らしたら……しょ、承知しないぞ」

「大丈夫だよぉ、あたしはそう簡単に漏らさないもん。あ、でもでもぉ……お兄さんに押されたらどうなっちゃうか分からないなぁ……?」


 ああ、これは確実に誘っているな。煽りまくってオレに押させてドバッとダム決壊、室内洪水大災害。ついでに女子児童に手を出したヤツ認定もまったなしになるという算段か。

 なるほど策士だな。よく考えて挑発していやがる。「押すな」と言われると押したくなる、ボタンがあったら即プッシュなアレだ。


「ふんっ。オ、オレは絶対押さないからなっ!」


 だが、そんな愚行に出るほど本能剥き出しで生きてはいない。それにいくらロリコンでも普通はノータッチだ。紳士として。……あ、以前触っちゃったことはあったな。それはノーカウントでお願いします。


「えー。つまんないなぁ。へたれー、意気地なしー。だから童貞なんだぞー?」

 オレが思うように食いつかなくて、姫はジトっとした視線を送ってくる。


「あのな、い……いくら変態なヤツでも、自分の部屋で漏らされるのは嫌だと思うぞ?」


 少なくともオレは絶対に嫌だ。「幼女の尿にょうは聖水だから汚くない」とか「我々にとってはご褒美ほうびです」とかなんとか言う連中はネットでよく見かけるが、小便なんてただの汚物なんだから嫌に決まっているだろ。臭いとか後処理とか、その辺の面倒臭さを考えれば誰だって分かるはずだ。勝手に男の総意みたいに言わないでほしい。スカトロ趣味一本のガチ勢猛者もさは知らんけど。くそまみれでも活き活きプレイに励む上級者なんか、オレの理解の範疇はんちゅう外だからな。


「でもさぁ、お兄さんのエロ本にはよくある話じゃん」

「ん……?」

「しかもちびっ子ばっかりだしぃ。これはどういうことかなぁ?」


 鬼の首を取ったように胸を張って、姫が該当のシーンを見せつけてくる。

 それはおばけが怖くておもらしをしてしまった子の話や、お泊まり会でおねしょをしてしまった話などで、ロリ系作品にはよくあるお決まりシーンだ。

 あぁ、完全に失念していた。おしっこ関係はロリ系ではよくある要素過ぎて、スカトロとは認識していなかった。普通に考えれば大か小かの違いがあるだけで、どちらも便である事実は揺るがない。つまり、オレにもそんな趣味に目覚める素養がある可能性が……。


「って、本当にやろうとするヤツがいるかよ」


 ツッコミを入れて、そりゃそうだと自分で納得。

 仮に聖水シーンを好む変態だとしても、オレはあくまでも二次元専門だ。現実のくそったれさに心を砕かれたオレは、フィクションの世界で生きる道を選んだ。だからこそロリ系とおねショタ作品を愛する訳だし、わざわざ自分から現実に近づいてまた傷つくなんてバカらしい。実際の小便なんて、ただ汚くて臭いだけだし。濾過ろかしたら飲めるから安心って?知らんがな。


「まぁ、あたしもおもらしなんて恥ずかしいからねー。誰かに押されて漏れちゃったりしたら、きっと泣いちゃうよ~」


 それは分かる。特に小学生の頃なんか、我慢している時に限っていじめっ子がくすぐりにきて力が抜けてジョバーッと盛大にぶちまけて…………おっと、それはオレの忌まわしい記憶だな。はぁ、思い出すんじゃなかった。

 あれ?でもそういう発想が出てくるということは姫も――


「も、もしかして……お前あるのか、そういう経験?」

「バッ、バカじゃないの!? あたしにそんな失敗ないからっ!」


 ――聞いた途端、顔を真っ赤にしてぶん殴ってきた。エロ雑誌の角で叩かれた。重さも相まって、地味に痛い。

 これは完全に失言だった。

 こんなヤツだが、まだ小学三年生だ。気を抜いて漏らしてしまう失態もあるだろう。オレの時代にも似た状況がよくあったし、容易に想像がつくのだから聞いちゃいけなかった。

 今後は変な質問をして怒らせないようにしないと。ただでさえ、いつ通報されてもおかしくないのだから。

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