フィクションって理想だから。


「あー……ま、まずはオレの話……き、聞いてくれないかな……?」


 震え声だし汗もダラダラ垂れてくる。

 ロリ系漫画を現役女子小学生ロリに発見されるという未曾有みぞうの大惨事を前に、オレの脳内は生まれて初めてレベルの高速フル回転。スーパーコンピュータも真っ青な処理速度を実現している気がする。ただし、答えは全く出ない模様。役立たずである。


「ふ~ん、どんな話ぃ? あたしを口説いて恋人にしちゃう的な話? それとも~……」


 ぺらぺら……っと、姫が雑誌のページを乱雑にめくっていく。過激なシーンのオンパレードなはずなのに、一切躊躇(ちゅうちょ)なしでめくっていく。


「こんなかんじに騙してつもり?」


 姫が開いた場面は、いたいけな少女を言葉巧みに連れ出しているロリ系漫画お決まりのシーンだ。このあとの展開は大体の人がお察しする、全編にわたって趣味の悪い物語。とてもじゃないが、子供に見せて良い内容ではない。


「し、しないっ! しないって、オレはそんなこと! ぜ、ぜぜぜ絶対に!」


 残像が出来るくらい、オレは全力で首を横に振る。本当にそんな悪行をするつもりはない。


「え~、ロリコンなのに? 嘘っぽ~い」

「ちょちょちょ、ちょっと待って! ま、まずオレはロリコンじゃないよ!?」


 盛大に誤解されているようなので、オレは速攻で否定する。ロリ系雑誌を見つけられた程度でロリコン扱いはあんまりだ。他にも多種多様な性癖のエロ本が眠っているんだから、それらを加味して総合的に判断してくれ。いや、性癖なんて自慢出来る類いの話じゃないけれどね。


「あの、ね。オ、オレはロ、ロリじゃなきゃダメって訳じゃな、なくてね……」


 どうにかして誤解を解かないといけない。オレの脳は次々に弁解の文章を組み立てていくが、全然まとまらないし、うまく口に出せない。

 いつも脳内でやっている一人会議ではレスバトル全戦全勝なのに、現実ではまともな会話どころか、雑談ですら精一杯なのだ。他人と話す機会がほとんどないオレは、当然のごとくトーク力ゼロ。残念ながらこれが現実だ。


「ほ、他のっ、他の本を見ればわか、分かるけどね……? お、おおおっぱい、あるお姉さんも好きなのよ、オレ?」

「ふ~ん」

「そ、それにね? そのロリ本はま、漫画、漫画だよ? 二次元、作り物なの。オレがすっ、好きなのは二次元だけ、も、もももちろんロリもだよ!? あ、あのもちろんっていうのは、ロロロリが作り物って意味で……えっと、その……つまりっ、にじ二次元ロリだけっ、それだけっ! ロリは二次元だけなのっ!」

「ふ~ん」


 気持ちが先行して支離滅裂&子供相手に二次元云々うんぬん。客観的に見て酷い絵面な言い訳をしているだろう。残念な有様だ。


「にじ、二次元はなっ!? お、お前みたいに腹黒くねーし!? 人をいじめたり、嫌がることしたりしねーし!? き、きき清く美しいからな! け、けがれていない、じゅ……純真な子はいじめなんて――」


 あ、やばい。

 勢いで二次元専門になる理由を作った過去――女子からも徹底的にいじめられた経験がフラッシュバックしてしまった。


 オレが絶対に反抗してこない、してきたとしてもちょっと涙を見せれば正義気取りの男子が助けてくれると分かっている……そんな性悪しょうわる女子にいじめられてきた過去。

 ゴミを喰わされた。

 犬の真似事をさせられた。

 壊された私物は数え切れない。

 思い出したくもない、まわしい過去だ。

 それからはズタボロになった子供時代を埋め合わせるかのように、ロリ物やおねショタ物という現実では不可能な物を好むようになった。そして気が付けば二次元の沼にどっぷり浸かってしまい、抜け出すどころか現在進行形で沈んでいるところだ。


 言い訳に必死で嫌な過去を思い出してしまった。余計なことも言ってしまった気がする。

 畜生。全部、姫のせいだ。

 彼女がオレをいじり倒すからこの始末だ。お前もオレをいじめて楽しんでいるのか。お前もアイツらと同じなのか。そう思ったが彼女は――


「そうね……。現実のロリなんて、みんな汚いよ。あたしみたいに……ね」


 ――その言葉を最後に、興味を失ったかのようにそっぽ向いてしまった。


「んだよ、散々人をいじっていたくせに……」


 目線が外されたおかげで緊張が解けて、オレは力なく項垂うなだれた。

 ……本当に勝手なヤツだ。

 風の向くまま気の向くまま。そんな言葉が似合う自由人。自分の気持ち優先で動いている。

 結局姫はベッドの下に下半身を差し込んだまま、再び読書を始めるのだった。


「って、エロ本は読むなって!」

「何よー。邪魔するならお兄さんのママに『乱暴された~』って言ってやるんだから」

「うぐっ。じゃ、じゃあせめて、パンツ履いてくれ。さ、さっきから……気が気じゃないんだ」

「えー、何? コーフンしてるの?」

「そ、そそそうじゃなくてっ!!」

「はぁ、しょ~がないなぁ……」


 ぽす。

 純白の布きれがオレの目の前に落ちてきた。

 ……どう見てもパンツですね、はい。


「ど、どどどどうしてっ!? パン、パパッ……パンツゥッ!?」

「だって、ベッドの下じゃあ履きにくいじゃ~ん」


 いや、おっしゃる通りなんですけども。

 下半身すっぽんぽんで人前に出るのはやめてくれ。

 

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