群青シンデレラ
東京の街を歩く
君の足音を追う
空は広く群青に染まり
天球は眠らぬ光を反射する
金の腕時計は私に告げる
「このままでは戻れなくなるよ」
私はそれでも足を進める
文字盤が酷く右に傾く
コツコツと地面と靴の音がして
車のライトが眩しく光る
少しだけ寒い風が
すれ違うスーツとともに頬を切る
着信履歴が光る板は私に囁く
「奴はお前を裏切った」
ほんの少しの涙を拭う
信じなかったわけじゃない
逃げるように人を抜け
ただ祈るようにビルを抜ける
近づく部屋、小さなお城
とっくに魔法使いとの約束は切れている
文字盤はそれだけを教えてくれている
家賃十二万のお城が私の前に立ち尽くす
「本当にそれでいいの?」
それは許しを請うようにも聞こえる
緞帳を下ろすのをためらう私がいる
それでも
私は
私の足に無理やりついたガラスの靴を
君に返してあげなくちゃ
本当のシンデレラに必要だもの
目の前にある小さなお城
私と君のものだと思っていたお城
君と本当のシンデレラが
今、愛を育む小さなお城
魔法なんて最初からかかっちゃいなかった
私が見ていたのはきっと
毒キノコの見せる幻覚のようなもの
私の都合のいいように作られた
小さな小さなお芝居だった
詩集「首を痛める」 酒月沢杏 @sakadukizawa821
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