クマの手料理。1 ★微グロ?注意
半魔獣とは、魔獣と野獣が交配して生まれた種である。
魔獣は獣タイプの魔物の事で、魔物は魔核と呼ばれる臓器を持つ生物の事。 原因は不明だが、普通の生物が突然変異したものだと言われている。 だから当然、基となった生物と交配もする。
半魔獣と魔獣や、半魔獣と野獣の交配も行われるが、それらの子はすべて半魔獣の括りで呼ばれるので、意外と数は多い。 半魔獣の魔核は有ったり無かったり、小さかったりと様々。
ところで、魔物の中でも好戦的な種や、何かあった場合の被害が大きい種なんかを危険種と呼んでいるが、魔物は危険種如何に関わらず、食用には適さない。
何故なら魔核から発生する瘴気が血流と共に全身を回っているから、それを食すのは瘴気を食すこと。
瘴気は普通の生物にとって毒と同じなので、摂取すれば当然、体調を崩すし酷ければ命も落とす。
さて、そこで半魔獣はどうなのかと言うと、ちゃんとプロが目利きし、適切な処置を施せば問題ない、と言われている。 魔核があっても大した瘴気は発しないものだからだ。 ただそこまでして食べたいかと言えば、もっと手軽に手に入る家畜が存在しているので、物好きや差し迫った事情のある者くらいしか食べたりはしない。
だから、お店で頼むと高い。 自分で狩り、調理するのはリスクが高い。
男の目の前には半魔獣の狐の死体。 押さえつけた状態からそのまま力を加えて圧死させたので、外見は薄〜くなっている以外、ほとんど綺麗なものだ。
これを食べられるかと言うと……?
「しまったな。 潰さず首を落とすべきだったか?」
取り敢えず、無益な殺生は宜しくないので、毛皮を鞣すことにした。
メイトならばもっと上手に加工できたのだが、無い物ねだりしても仕方ないので自分なりに丁寧に作業し、保存性を高める。 道具も材料もないので最低限の処理に留まるけれども、差し当たって仔兎の寝具には十分役割を果たせる。 上手くすれば帰ってからお金にも変えられるだろう。
残りはどうにもなりそうに無かったので、土を掘って埋め、短い黙祷を捧げた。
剥いだ毛皮を肩の傷口に掛けて隠し、もう少し食べられそうな獲物を探し直すことにする。
時折食べられる木の実や野草を見つけては、仔兎と共に掌に乗せていたのだが、さすがに持ち切れなくなってきた。
結局、肩に掛けていた毛皮を広げて脚などを結び、それを手提げ袋として扱う。 何だかんだ、お狐様々である。 合掌。
仔兎はすぴすぴ鼻息を立て、時折「ぷしっ」とくしゃみを漏らしていた。 その度に男は鼻先からお尻まですっぽり包み込める大きな手で、その背をゆっくりじっくり繰り返し撫でる。 そして耳の付け根の辺りにキスを落とし、「大丈夫だ」と囁き声を掛けた。
そうすると安心するのか、どこか強張っていた仔兎の身体が、ちょっとずつ弛緩していく。 それが嬉しくて、男はもう一つキス。
「もう少ししたら、可哀想だが一度起こして水分だけでも摂らせた方が良いか」
肉は見付からないし、離れていた滝壺から伸びる川を目指しながら、今ある素材でできる物を考える。 皿に使えそうな、男がクマの時の顔と同じ位大きな厚手の葉を何枚かや、紐代わりになりそうな蔓草も採集した。
枯れ枝も拾い集めて、これで調理の事前準備は終了である。
河原に着いた男は仔兎を地面に敷いた狐皮の上に寝かせ、掛け布団のように尾を被せる。 そこから近過ぎない場所に石を積み、風除けを作った。 その風除けの向こう側に、集めておいた枯れ枝を組んで、
手首の先が霞に溶けたように消失し、再び現れた。 その手には赤い、小指の爪ほどの小石が一つ摘まれている。
摘んだ指先をそのまま磨り潰すように力を加えると、小石はあっさり砕け散る。 その欠片はキラキラ赤く輝いて枯れ枝に降り注ぎ、触れた場所からポポポと燃え始めた。 あっと言う間に焚き火の出来上がりだ。
火の粉が仔兎の近くに飛ばない事を確認して、傍らの川を覗き込む。 偶にパチャッとかトポンとか水音がしていたが、期待通り、そこにはそこそこのサイズの魚影が見られた。 となれば、やることは一つ。
男は完全獣化で川に入って仁王立ちとなり、じっとその時を待つ。 今だというタイミングで振り抜いた腕の先には、立派な魚が宙を舞って陸に打ち上げられる姿。 熊種の本領発揮である。
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