見覚えある不審者。1
夢中で毛繕いしていたら何となく暗くなって、思い出したように大きな気配が近くに感じられて、そろ〜りと顔を上げて固まった。
何か大きな裸の男の人がこちらを見下ろしている。 下から上へ辿っていったのでアレをばっちりハッキリ見てしまって、顔に熱が集まる。顔を見上げるも、全然見えない。 何故なら驚きと羞恥と涙で視界が滲んでいるから。
また奇声を発して飛び上がってしまった。 そしてくらりと頭が揺らぎ、パタンと倒れる。
「あっおい! 大丈夫か?!」
「ぅえ……、熱、が…………」
「熱……?」
つい先程までは何とも無かったのに、熱があると自覚した途端に具合が悪く感じる。 まさにその状態で一気に風邪症状に襲われた私は、あろうことが不審者の前でひっくり返ってしまった。
その私の朦朧とした視界を、伸ばされた大きな男の手が覆う。 逃げなきゃと思うが、足先がピクリとしただけで身体は言うことを聞かない。 しかし焦る私を他所に、躊躇うかのように男の手は不自然に止まったままだ。
あれ? と疑問に思う内、恐る恐るといった慎重さで、そっと太い指先が一本、ふわりと背中を撫で下ろす。 私が動かないからか、優しくもう一度。
「具合が悪いのか?」
「……風、邪」
「母親か、他の家族は? 近くにいないのか?」
問いにぎこちなく首を振る。 すると男は少し黙った後、「抱き上げるぞ」と言って返事を待たずに私の身体をヒヨコにするように両手で掬い上げた。
顔が近付いて気付く。
(あ……目の上に傷……、ふぁ、クマさんの耳だ……。 ということは、もしかして、肩に‥)
「傷……」
「なっ! 怪我しているのか?」
あんまり男が慌てて手を持ち上げ、顔の前に持ってきた私をあちこち観察するものだから、何だか警戒していたのが馬鹿らしく思えてきて、ふへ、と笑いが溢れる。
「だいじょうぶ? 肩」
「ああ……。 はぁそうか、やはりこの手当は君が。 その毛についた血の色は俺のものなんだな?」
「そ‥だよ」
「ありがとう。 君のお陰で俺は命拾いした。 だがもしかしてその風邪は」
「へーきだよ。 寝たら、治る」
何だか眠くなってきた。 考えるのが面倒になってうとうと意識が微睡んでくる。 また何か訊かれた気がするけど、それに何て返したのか、起きる頃にはきっと覚えていない。
「俺は受けた恩を忘れない。 君の面倒を見ることを、俺に許してくれ」
「ん〜……いーょぉ」
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