第85話 ヤクモ<神殿>:反撃(2)


「状況を説明してくれ」


 俺の台詞に、


「『結界』が張られたかと思ったら、神殿の人たちが次々に倒れていったでござる」


「これはテロだな。ゾンビ化のウイルスがかれたに違いない。オレの時代が来たかも……」


「鮎川先生の後を付けたんだ。そうしたら、黒い影のような魔物と話をしていて――」


(同時に話すなよ……)


 まずは――


「『結界』か――」


 ここから逃がさない――いや、アオイの台詞から『勇者は神殿で復活する』それが鍵だろう。


 試してはいないが――ポータルによる転移もできない――と考えるべきだ。


「つまり――復活した勇者を閉じ込めるのが本来の目的――『結果』がどういう仕組みか分かるか?」


 綿貫さんは首を横に振ると、


「そこまでは確認できていないでござるよ。ただ、この手のタイプの『結界』は中央に結界の<核>があって、強力な魔物が守っているのがパターンでござる。中央の礼拝堂が怪しいと考えるべきでござるな」


 マイナー神からメジャー神、始祖神と、ここには礼拝堂が複数ある。

 始祖神をまつる中央の礼拝堂にボスが居る――と結論付けたのだろう。

 アオイも『祭壇さいだん』と言っていた。


「俺も、その考えには賛成だ」


 次に、狐坂に視線を送る。


「えっと――ゾンビ化――とはどういうことだ?」


 実際、そんなウイルスがあったら、対処のしようも無いのだが――


「意識を失った連中が、まるでゾンビみたいにフラフラと歩いて、四方に散っていったぜ。まぁ、単独行動を取る奴が最初に殺されるパターンだな」


 狐坂は一人だけ、ホラー映画のノリで語っているようだ。

 恐らく――あやつられている――ということだろう。


 『ソウルイーター』はもう一度、『勇者召喚』――いや、この場合『魔王召喚』か――を行おうとしていた。


「た、多分……操られている人たちは、い、祈りを捧げているんじゃ……ないかな?」


 とは伊達だ。


 確かに、召喚には『神子』と複数の神官たちの祈りが必要だ。まずは神官たちを洗脳し、祈ることにより生み出される魔力を確保しているのだろう。


 狂信状態にして、無理矢理、神へ祈りを捧げさせることで、一時的に魔力の供給を高めている――と考えるべきだ。


「なるほど、伊達の言う通りだろう」


 次に『神子』だが、シグルーンはここに居る。

 また、既に『神子』として魔力は失われている状況だ。


 つまり、アオイはシグルーンの身代わりとして、自ら『神子』の役割を買って出ているのか……。


 妹を思っての行動だろうが、シグルーンは喜ばないだろう。


「神官たちが奇怪おかしくなっている原因は何だと思う?」


 先ずは、魔力の供給を断つ。俺が疑問を口にすると、


「恐らく、影でござる。伊達氏が見たそうでござるよ」


「う、うん、そうなんだ。ボ、ボクたち勇者の影には入れないみたいなんだけど、他の人間の影には入り込める、み、みたいなんだ……」


 元暗殺者の彼女をあやつっていたアレか――対処するには<聖剣>がなければ難しい。

 それで、アオイは<聖剣>を持っていったのか……。


「こ、こういう時は、あ、あやつっているボスを倒すのが、基本じゃ……な、ないかな?」


 つまり、蒼次郎さんに取り憑いている『ソウルイーター』を倒す――ということだ。伊達の言っていることは正しい。


「分かった……だが、ここにはお前が居る」


 え? ボク――と伊達は戸惑っている様子だ。


「綿貫さん、悪いけど、シグルーンを頼むよ」


「分かったでござる、拙者、エリス騎士団の団員ゆえ、任せるでござる」


 ――頼もしくなったモノだ。


 漫画やアニメが見れなくて禁断症状を起こした時は、どうしようかと思った。


「後は正門の開放か――悪いが、狐坂。お前が適任だ」


「おう、任せて置け!」


「流石に罠は無いと思うが、誰かが扉を開ける必要がある。悪いが、街の人たちを収容し、救助して欲しい」


了解ラジャー


 いつも返事だけはいいんだよな――コイツ。


「伊達はあやつられている神官たちの解放だ」


「で、できるかな?」


「できるさ。繋がりを断ち切るのなら、お前の習得したスキルが向いている」


 俺は伊達の肩を――ポン――と叩いた。

 相手の視線をらす。相手から認識されない。

 確かに、そんなスキルをバカにする奴も居るだろう。


 ――だが、今は違う。


 神官たちから、神の存在を一時的にでもらすことができればいい。


「わ、分かったよ――でも、月影くんは?」


 一番面倒なことは、いつも俺に回って来る。


「ボスを倒す。すまないが、鮎川先生のことは予想が付いていた――俺に預けてくれないだろうか?」


 俺は頭を下げる。すると――


「この件が片付く頃には、また新刊ができているでござるな……デュフフ」


「本当はド派手に爆発とかがいいんだが――まぁ、扉を開けるくらい楽勝だぜ!」


「つまり、ボクは見付からずに、スキルを行使すればいいんだね」


 何だが楽しそうだ。嫌な顔をされると思ったが、それぞれ、心境の変化があったのだろうか? 俺はシグルーンを綿貫さんに預ける。


 俺たちは、そこで別れた。

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