第四章  僕らは友達が少ない

第81話 ヤクモ<神殿>:潜入(1)


 ――お姉ちゃんを助けてあげて。


 俺は、アイカちゃんのその言葉が引っ掛かっていた。

 てっきり、サクラのことだと思っていたのだが、自称<女神>が言うには違うようだ。アオイを助けるなど、オレにできるのだろうか?


 スキルを使用し、影の中を移動することで、魔物と遭遇することなく、目的の場所へと辿り着くことができた。


 俺は何度か覗いたことのあった、その井戸の底から――スルリ――と這い上がる。

 想定していた通り、そこには見慣れた神木があり、頭上には御神体である<核>――<スフィア>――が輝いていた。


(やはり、繋がっていたか……)


 ここは『アンファングサントル神殿』にある聖域<地下庭園>――俺がシグルーンにより、召喚された場所だ。


 真っ暗な地下通路は<アビリティ>【潜影】の効果により、短時間で難なく到着することができた。


 青年兵士とは『冒険者ギルド』で別れ、皆への伝言を頼んだ。

 実直な彼のことだから――問題は無い――と思うが、それでも上手く伝わっていることを祈ろう。


 ギルドの冒険者たちへは、街の住民の避難と『アンファングサントル神殿』への移動をお願いした。現状では――瘴気が漂う街の中に居る方が危険だ――と皆が判断したからだ。


 俺とサクラ、兎尾羽とびはねさんと猫屋敷ねこやしきさんの四人でパーティーを組み、地下水路から地下へと潜入した。


 予想通り、瘴気の発生源のようで、より濃い瘴気が立ち込めている。

 だが、兎尾羽さんの<メインクラス>は<クレリック>だ。

 周囲を結界で覆いながら、安全に進むことができた。


 また、猫屋敷さんの<メインクラス>も<ハンター>であるため、探索において、これ以上の適任者はいない。


 加えて、彼女の持つ<EXスキル>は【インビジブルブレイカー】だ。

 『見えざる破砕者』――と彼女はうそぶくが、実際、見えないモノに対して絶大な威力を発揮する強力なスキルを習得できる。


 今も一瞬にして、マッピングを完了させた。

 出現した魔物の【ステータス】も簡単に見抜く。

 レベルを上げれば未来さえ、見通すことも可能らしい――


 同時に、俺の<EXスキル>【ディスガイザー】こと『偽装者』の天敵と言える。

 本来なら、最大級に警戒しなければいけない相手が味方であって、本当に心強い。


 しかし、謎解きが三度の飯より好きな彼女として――詰まらないスキルだよ――と嘆いていた。


 そんな猫屋敷さんの案内もあって、俺たちは迷うことなく進むことができた。

 上へと向かう俺は別れ間際に、


「猫屋敷さんが居てくれて良かったよ」


 と漏らす。その言葉に反応したのは、


「はうっ! なずにゃんは胸が無いので油断していました!」


 とサクラ。更に、


「バカ咲良!――ヤクモは胸の大きさで女性を判断しないのよ! 性格がアレななずなにだって、優しいんだから!」


 とは兎尾羽さん。変な口論が始まってしまった。


「あのー、二人共……言葉のナイフ、仕舞って貰えるかな」


 猫屋敷さんは――困ったモノだ――と蟀谷こめかみに指を当てた。


「えっと――何かゴメン。兎に角、猫屋敷さんが居てくれて、本当に助かってるよ。ありがとう」


 俺が謝ると、猫屋敷さんは首を横に振って、


「いいさ、キミがボクをあの場所から連れ出してくれたんだ――でなければボクは……いや、そう。それより、感謝の気持ちは言葉よりも、贈り物で示して貰おうかな?」


 その言葉に同意したのはサクラだ。


「いいですね! わたしは生クリームたっぷりの苺ケーキを所望します☆」


「咲良、何を勝手に……」


 兎尾羽さんはそう言って、サクラを睨み付けたが、


「そうだね。じゃ、ボクもそれで――」


「なずなまで……」


 兎尾羽さんは肩を竦め――ごめんなさい――と視線を俺に送った。


「いいさ、頑張って作ってみるよ。兎尾羽さんも、それでいい?」


「えっ⁉ し、仕方が無いわね――それで許してあげるわ!」


「ありがと」


「////(キュン♥)」


 そんな遣り取りがあったことを思い出し、俺は苦笑する。


(さて、神殿の様子は……)


 聖域の外へ出ようとした時だった――【危険感知】に成功する。

 慌てて、頭を引っ込めた。


 同時に<アビリティ>【観察眼】が発動する。

 また、『異質の魔王』の配下との戦いで得た教訓により、<アビリティ>【成分分析】を習得している。


 ――<神経毒:Lv.3>


 中々強力な麻痺系の毒のようだ。【鑑定眼】で確認したところ、蜘蛛や蠍などの魔物が使う毒だということが分かった。


 しかし、魔物や毒針などのトラップは発見できない。


(空気中にガスのように立ち込めている――ということか?)


 散布されてから、どのくらいの時間が経過したのだろうか?

 未だに、所々に留まっているようだ。


(『毒ガス』――こんなモノを作れるのは、一緒に転移して来た研究者たちか……)


 残念だが、彼らの中に裏切り者がいるのだろう。

 俺は【サモン・ファミリア】でスライムの『ルビー』を召喚する。


 スライムなら、この手の『毒ガス』は平気な筈だ。

 誰が敵で、何処に、何人いるのかも分からない。

 俺は『ルビー』の影に潜み、移動することにした。


(しかし、誰とも遭遇しない……)


 一抹の不安を抱えつつも、今は進むしかない。まずは仲間との合流だ。

 何処かに隠れていてくれるのなら、それで問題はない。


 ――取り敢えず、神殿の中心部に向かってみよう。


 そう思い、中央の広場へと移動していた時だった。

 見覚えのある黒髪の少女が一人、佇んでいる。

 その足元に倒れているのはシグルーンだ。


「どうして、キミが……」


 俺は驚き、姿を隠すことも忘れていた。


「やっぱり、来てくれると――うんん、来ると思ってた……」


 アオイは、悲しそうな瞳で俺を見詰める。

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