第80話 ヨウタ<橋>:迎撃
「皆、落ち着くんだ! 一度、あの橋まで後退する!」
地形や天候は悪くはない。魔物の数が多いことから――一緒に戦う――と言ってくれた冒険者たちを先に下がらせる。
大きな橋があり、そこを防衛ラインとすることにした。
魔物さえ渡らせなければ、時間は掛かるが倒せるだろう。
それに、一度に相手にする敵の数も限られる。
――問題は飛行能力を持つ魔物だ。
「まずは弓兵を下がらせろ! 次に魔法使いだ! 全員、無理をするな!――ゆっくりと後退しろ」
僕たちよりも先に出撃していた都市の警備隊を下がらせる。
――【サンダーボール】。
同時に飛行能力を持つ魔物へと魔法を放つ。上手く命中した。
「大丈夫かよ、レオ」
と僕を呼ぶのは<ファイター>の
彼はクラスメイトの中では体格も良く、力が強い。ただ、格闘技マニアなところがあり、覚えた技を直ぐに試したがるのは、彼の悪い癖だ。
どうやら、僕には犬丸さんが付けた渾名が定着しつつあるようだ。
「勿論、立て直すさ。悪いが、付き合ってくれ」
「ヒュー、女子に言ったら、大喜びの台詞だぜ!」
冗談を言える――ということは、まだまだ余裕のようだ。
僕たちが呼ばれた場所は、近くに大きな川が流れ、周囲を高い石の壁で囲まれた大きな『商業都市』だ。
多くの兵士が常駐している筈なのだが、貴族や金持ち連中の警護に回されているらしく、今、前線に出ているのは低ランクの冒険者や若手の兵士たちばかりだった。
――都市を守る気が無いのか。
とも思ったが、自分たちさえ無事なら、それでいいのだろう。
恐らく、他の場所へ救援に向かった勇者たちも、同じような状況に置かれているに違いない。早く戦いを終わらせ、助けに行く必要がある。
「スキルを使う! 皆、僕の後ろに――」「護衛は任せろ!」
と
弓が使えるので、後方からの支援をお願いしたのだが、上手くいかない。
(やれやれ、どうも僕では、ヤクモみたいにはできないようだ……)
だが、嘆いてばかりもいられない――
――【ブレイブハート】。
後方に守る者がある時、能力が上昇するスキルを使用する。
仲間が橋を渡り切るまで、僕が前衛で頑張るしかなさそうだ。
一騎当千とは行かないが、スキルのお陰で、それなりの活躍を見せることができた。沸き立つ兵士や冒険者たち。
――お前が活躍することに意味がある。
ヤクモに言われた言葉を思い出す。
そこに――ポツポツ――と雨が降る。どうやら、
<水>の魔法を組み合わせ、天候を操作するまでに仕上げたのだろう。
川の水嵩が増せば、敵に渡られる心配は無くなる。
更に相手は獣が中心だ。濡れるのを嫌がるだろう。
僕の得意な<雷>の魔法の効果も上がる。
「おい、レオ! 大上の奴を呼び戻せ!」
金牛の声だ。どうやら、弓兵の準備も整ったようだ。
――【マグネットフィールド】。
周囲に磁力を展開する。そして、
――【マグネットボール】。
それを大上にぶつけ、磁力で僕の足元に引き寄せた。
――ドサッ。
「いってぇ、何だよ急に……」
文句を言う大上を無視して、上空に手を
――【クリエイト:雷】。
を使用する。それが合図だ。後は、弓から放たれた矢が、魔物の群れへと降り注ぐ。あのまま、あの場に居たら、大上に刺さっていたかも知れない。
「ひぇ~」
と大上は声を上げる。弓矢の飛距離と威力が上がっているのは、<シャーマン>である
「そろそろ、頃合いかな」
僕は地面に剣を突き立てると、
――【サンダーブレード】。
を使用する。
本来は雷の刃で敵を切る魔法だが、今回は前方の敵目掛け、地面を電撃が走った。
雨で濡れているためと、先程使用した【マグネットフィールド】の効果で、かなりの広範囲に電撃を放つことができた。
魔物はダメージと同時に、軽い麻痺を受ける。そして、動けなくなったところに矢が雨のように降り注いだ。動けない魔物は格好の獲物だ。
こちらの被害は、僕の近くに居た大上がアフロになったくらいだ。
特に問題はない。
「おいっ! この頭、どうして――」「レオくん! 敵は退散を始めたよ」
大上の声を遮り、羊飼さんの声が届く。
<風>の魔法で声だけを届けている。
一先ず、これで安心だ。
僕は剣を掲げ、勝利宣言をした。
▼
▽
▼
僕たちは領主である貴族の屋敷に呼び出されていた。
倒した魔物の処理は冒険者たちに任せているので、問題はないだろうが、休む暇さえ与えてくれないとは、随分とせっかちな領主だ。
早く、仲間の救援に行きたいところだが、どうするべきか――
「もうっ! 勝手に前に出て、心配したんだからね!」
「悪かったって、もうしないから許してくれ……」
羊飼さんに大上が謝っている。いつもの構図だ。
「レオ、どうする? オレは領主とやらが好かん……殴っていいか?」
「是非に――とお願いしたいが、今は止めておこう。仲間の救援に向かう方が先だ」
金牛に僕はそう告げる。ここは大きな『商業都市』だ。
下手に領主にヘソを曲げられては、物流の問題に発展する可能性もある。
今後、不利益を被るのはこちらだろう。
「そうよ。皆、消耗しているし、今回は本来のパーティーじゃないもの」
とは蛙前さん。好戦的な連中が多い先発組の中では、珍しく冷静なようだ。
「やるなら、もう少しレベルが上がってからよ――クックックッ」
訂正――ウチのクラスの女子は怖い。
そうこうしていると、領主らしき人物が現れる。その後ろに居るのは、領主の娘だろうか? 着飾った二人の少女を連れている。
女性の身支度がそんなに早く終わるとは思えない。
恐らく、事前に準備していたのだろう。
となると――
(
大方、自分の娘を勇者へあてがう気だろう。
先日のパーティーでも酷い目にあった。
まぁ、あの時は白鳥さんをエスコートしていたので、互いにフォローし合えた。
だが、今回のメンバーでは、それは難しいだろう。
「完全にロックオンされているな」
金牛が嫌なことを言う。
「やあやあ、勇者殿、此度は見事な活躍で――」
領主がやや大袈裟なジェスチャーで近づいて来た。
さて、どうしたモノか――
真剣に僕が考えていると、
「勇者殿!」
と神殿の兵士が走って来た。
何事だ?――と領主は明らかに嫌そうな顔をしたが、神殿の使者を無下にすることもできないのだろう。押し黙る。
「どうしたの?」
蛙前さんが訪ねると、
「はっ、報告と勇者ツキカゲ殿より、緊急の伝令です!」
そう言って、兵士は立ち止まり、敬礼すると、
「まずは報告します! 『神殿都市』にて、大量の瘴気が発生しました!」
この場の全員が、怪訝な顔をする。領主もだ。
『神殿都市』――様々な神が祀られている――言わば『聖地』である。
そこで瘴気が発生したなど、誰が聞いてもそうなるだろう。
「そして、勇者ツキカゲ殿からです――『神殿都市』はこちらで対応する。鮫島は戻って来るな!――とのことです」
僕は不覚にも笑ってしまった。
「どうしたの? レオ……」
蛙前さんが不思議そうに首を傾げる。金牛も同様だ。
「ああ、いや、すまない――ちょっと、面白くてね……」
ヤクモ――お前はいつも、僕を少しだけ楽にしてくれる。
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