第79話 アギト<村>:襲撃


 ――いったい、何だっつーんだ⁉


 学院に到着したばかりだってぇのに、急に呼び出しやがって――胸糞悪い!

 転移魔法で移動したかと思えば、ボロ馬車に乗れだと……。


 ――オレたちは荷物じゃねぇっての!


 まぁ、スキルを実戦で試したかったから、ここまでは大人しく従ってやったが……。


 ――ガタガタ。


 馬車揺れはキツイし、ケツが痛くなってきやがった。

 その上、一緒に付いてきた兵士たちは頼りない。

 いつものことだが、オレが視線を送ると、護衛と称した兵士たちがビクついた。


(コイツ等、ホント使えねぇな……)


 緊急招集した――という冒険者たちの方が、まだマシだ。


「そう力むなよ。シャーク」「それがしが居る――任せておけ」


 智田ちた鴉乃からすのが俺に声を掛けた。この二人とは、昔から良くつるんでいる。

 オレなんかと居て、何が楽しいのやら――


「つーか、流石シャーク。見事にパーティーに女子が居ないとか、モテないにも程があるな」


「全滅とは笑える」


「うっせーぞ、智田! 鴉乃――テメェーは笑うな!」


 智田は陸上部で面倒見も良く、後輩に人気がある。

 鴉乃は自他共に認めるシスコンで、妹以外の女性には興味が無い変態だ。

 だが、剣道部でそれなりに強いためか、何故かモテる。


 ――何だ、この敗北感。


 やがて、森の中に入り、馬車が止まる。


「勇者殿、着きました。まずは領主様に――」


「知るか、退け!」


 オレがガンを飛ばすと、呼びに来た兵士の男が怯んだ。


(オレみたいなガキに何を怯えているんだか……)


 馬車から降りると――


「おお、勇者殿――」「うっせぇ、退け!」「ブヒィッ!」


 デブのジジイが居たので、軽くど突いてやった。

 どうも、車に轢かれて以来、金持ちのジジイには腹が立つ。

 コイツもどうせ、貧乏人は人間じゃない――とでも思っているのだろう。


 ――そんな顔だ。


「ゆ、勇者とはいえ、し、失礼だぞ!」


 デブの従者だろうか。ヒョロガリだ。

 胸倉を掴んで吊し上げてやると――ひっ――と悲鳴を上げた。オレは、


「そいつは悪かったな。じゃあ、オレの代わりに、そのデブに謝っておいてくや――オイッ、聞ぃてんのか!」


「は、はひっ、謝ります。ごめんなさい~ん!(ガクガク)」


 ――くだらねぇ。


 オレはそのまま手を離すと、従者は尻餅を突いて逃げて行った。


「で、魔物は何処どこだ? 全部、ぶっ潰してやる!」


 オレは未だに立ち上がれずに居た、デブの首根っこを引っ掴む。

 『ペナルティ』――てのは受けないみたいだ。


 勇者らしくない立ち居振る舞いや行動を取ると【ステータス】が下がると聞いていたが、そんな様子は無い。


 ――やはり、このデブはクソだな。


「おいおい、そんなことやって、ヤクモの真似かよ」


 とは智田。オレの様子から、『ペナルティ』が無いことを悟ったのだろう。

 鴉乃も同様で、オレを止めようとはしなかった。


 悪意や敵意のある人間に対しては、それ相応の行動を取っても問題なかった――とヤクモが言っていた。どうやら、あのバカも自分で体を張って試したらしい。


「フンッ! そんなんじゃねーよ……」


 ――図星だった。アイツにできたことが、オレにできない筈が無い。


 オレはデブを引きって歩く。

 貴族ってぇのは、レベルが高いと聞いていたが、コイツはそうでも無いらしい。


「な、何をする! は、離せ~、離さぬか~!」


 デブが暴れるので、面倒になり、前方へぶん投げた。

 【ステータス】が上がっていたためか、思ったよりも勢い良く飛んだ。


「ぎゃふんっ」


 とデブは前のめりに地面へと転がる。

 受け身を取ったのか――いや、単に丸いから良く転がっただけのようだ。

 オレは剣を抜くと、そのデブの鼻先へ刃を突き付けた。


「で、魔物は何処だ?」


「ブヒィッ! あ、あっちだ。あの村を囮にして、魔物を食い止めておるわ」


「あっちか――」


 オレの興味が移った瞬間、デブは四つん這いになりながら――ひ~っ――と逃げて行く。余程、面白かったのか、冒険者たちの笑い声が聞こえた。


 森を抜けると、丘の上に出る。眼下には、魔物の群れが歩いている姿が見えた。

 どうやら、近くの村へと真っ直ぐに向かっているようだ。


「こりゃ、走っても間に合わねーな……」


 オレの言葉に、


「どうする? 村人の避難は終わっていない――というか。完全に村に魔物を誘い込んで――火を放つ作戦――て感じだけど……」


 と智田。『村焼き』ってヤツだろう。


 ――やっぱ、デブはクズだったか。


 通りで『ペナルティ』が付かない訳だ。

 もう少し痛めつけて置くべきだったか――いや、その時間すら惜しい……。


「知るか! オレは魔物を狩るだけだ!」


 そう言って、一人、突っ込んだ。

 その後を――やれやれ――と智田が付いて来る。


 当然だが、智田はオレより足が速い――いや、そういうレベルの話では無いな。

 直ぐに50m程差を付けられる。スキルの効果だろう。


 ――簡単に追い抜いてくれるぜ。


 あのスピードなら、魔物が村に着くよりも早く、村に辿り着くだろう。

 鴉乃は残った冒険者や兵士を集めて、何やら指示を出しているようだったが――まぁいい。


 ――オレと智田で十分だろう。


 既に、智田は魔物の群れの戦闘に斬込きりこんでいた。


 <メインクラス>が<シューター>で射撃に特化している筈なのだが、獲物を狙って撃つのは、まだ苦手らしい。


 よって――攻撃して離脱する――という戦い方を得意としていた。


 ――『ヒットアンドアウェイ』というヤツだ。


 それを可能にしているのが<EXスキル>【スロースターター】で習得できるスキルだ。智田が言うには、相手の動きを遅くするスキルが揃っているらしい。

 そのため、相手の足を止めるには打って付けの能力だった。


 オレは――と言えば、構わず、強そうな敵目掛けて突撃する。

 こういうのは、ボスを殺るのが一番早い。


 既に目星は付けてある。まずは攻撃と移動を兼ねたスキルで突き進む。


 ――【ハードバッシュ】【ハイジャンプ】【フォールバッシュ】。


 そして、群れの中に入り込むと、広範囲の強力な技をちかました。


 ――【ブレイドバースト】


 オレの<EXスキル>【ウェポンブレイカー】で習得できるスキルだ。

 魔力を込めた武器を爆発させる必殺技で、欠点は武器が無くなることだ。


 爆風が起こり、砕けた刃の破片が魔物へと突き刺さる。

 相手を怯ませることに成功したオレは、その隙にボスへと辿り着く。

 黒い毛並みの大きな虎のような魔物――コイツがボスだろう。


 ――はて、知識には無い魔物だが、どういうことだ?


 剝き出しの大きな牙――だが、不思議と怖くはない。

 オレはそのまま突っ込み、一撃を見舞う振りをして剣を投擲とうてきする。


 当然、相手は避ける。

 だが、その顔面に、オレは嗅覚と目を潰す用の『臭い砂』を投げつけてやる。


 ――フニャッ!


 臭いと痛みに、魔物は猫のような声を上げ、顔を引っ掻きながら転げ回る。

 その隙を見逃すオレではない。


 ――【バッシュ】【クロスバッシュ】【ターンバッシュ】。


 ミンチにしてやった。残りの獣は正直だ。

 ボスを失い、散り散りに逃げて行く。だが――


 ――ウホゥ!


「今度はゴリラかよ!」


 ――コイツも知識には無い魔物だ。


 そう言えば、『魔獣』って呼ばれる魔物も居るんだったな。

 オレはその黒い大猿に斬り掛かるが、そいつは――ヒョイッ――と飛退とびのいた。


(チッ、すばしっこい奴め……)


 ニタリ――ゴリラが笑った気がした。そして、雄叫びを上げ、胸を叩く。

 ドラミング――というヤツだろう。

 散り散りになっていた魔物が再び終結する。


(バカめ、その方がこっちは都合がいいんだよ!)


 オレはゴリラではなく、弱い魔物目掛けて突っ込んだ。

 逃げた――とでも思ったのか、ゴリラはオレ目掛けて飛び掛かって来る。

 当然、オレは避ける。何匹かの魔物は逃げ遅れ、ゴリラの下敷きとなった。


 今度はオレが――ニタリ――と笑う。後はその繰り返しだ。

 コイツをここで食い止めて置けば、村への攻撃に指示を出せない筈だ。


 雑魚は群れているから面倒なのであって、統制が取れていなければ、ただの経験値でしかない。オレはたまに手近な魔物を狩って、その死骸しがいを投げつけてやる。

 するとゴリラは学習したのか、今度は仲間である魔物を投げつけて来た。


 ――バカめ。


 オレが追い詰められたフリをしてやると、ノコノコと一匹だけで向かって来る。


「もう、お前に付き従う魔物はいないぜ!」


 ――【クリエイト:水】


 ゴリラの顔面を水で覆ってやる。

 突然の出来事に慌てふためくゴリラ。

 本来なら、ここで他の魔物が加勢に来るのだろうが、一匹も来なかった。


 それはそうだ――あれだけ仲間を殺し、道具のように投げつけていれば、周囲に魔物は居なくなる。つまり、コイツは孤立している。


 ――【バッシュ】【ハードバッシュ】【ソードアッパー】。


「雑魚が!」


 最後に頭を剣で突き刺し、終わりだ。

 他の魔物も、今度こそ散り散りに逃げて行く。


 オレが村へと戻ると、多少戦いの痕跡は見られたが、大きな被害は見受けられなかった。鴉乃が指揮を執ったお陰だろう。


「戻ったか」


 と智田。余程、走り回ったと見え、汗だくの状態だ。

 水分補給をしながら、のんびりと座っている。


 そして、ポーションの瓶をチラチラとオレに見せたかと思うと、それを放り投げて来た。オレは難なくキャッチして、それを飲む。ところが――


「報告します! 『神殿都市』にて、瘴気が発生したとのことです!」


 と兵士が駆け寄って来る。

 そして、立ち止まり、オレたちに敬礼すると、


「また、勇者ツキカゲ殿からの連絡です!――『神殿都市』はこちらで対応する。鮫島は戻って来るな――とのことです!」


 プッ――と智田がそっぽを向いて笑いやがった。

 オレは飲んでいたポーションを噴き出してしまう。


「おいおい、シャーク――名指しされているぞ」


 と智田がニヤニヤした表情を浮かべたが――ゲホゲホッ――とむせていたため、オレは反論ができなかった。


 あの野郎――ポーションを返しやがれ。

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