第77話 ヤクモ<神殿都市>:冒険者ギルド(1)
「凄いです! 一瞬で戻って来れました!」
とサクラ。【テレポート】を使ったのは初めてではない。
だが、まだ新鮮な感覚なのだろう。
子供を連れて、色々なところに出掛ける父親の気持ちが分かる。
サクラほど、無邪気な反応では無いが、青年兵士も同様だ。
内心は感動している様子だった。
だが、水を差すようで悪いが、ここは神殿でもなければ『神殿都市』でもない。
以前、『魔女の森』に行く途中、宿泊に使った街だ。
俺たちは『神殿都市』では少し(?)有名になり過ぎた。
まずは、この街の『冒険者ギルド』で情報を確認する方がいいだろう。
(しかし、嫌な予感がする――)
念のため、サクラには耳栓をして貰った。
代わりに――手を繋いで歩く――という条件を出されたが仕方が無い。
『冒険者ギルド』に着くと、俺は勇者であることを開示し、情報を提供して貰った。今はもう、王国側に気を遣って、勇者であることを隠す必要もない。
情報によると、現状では大きな被害や問題は発生していないらしい。
どうやら、各地の冒険者でも対応が可能なようだ。
ただ、数が多い。
それほど強い魔物ではないが、一朝一夕とはいかない。
また、勇者がいる場合、領主から――彼らに活躍させろ!――との指示が出ているらしい。
どうやら――自分たちが勇者を召喚した――と吹聴しているようだ。
俺たちを活躍させることで――民衆の支持を集め、政治的に優位に立とう――とでも考えているのだろう。
(呆れたモノだ……)
兎に角、これでサクラに――急いで助けに行く必要がない――ことの説明がつく。
俺は――協力に感謝します――と『冒険者ギルド』の職員にお礼を言った。
ギルドのお偉いさん方は気不味そうな表情を浮かべていたが、受付嬢は、俺とサクラが手を繋いでいる様子を見て、終始微笑んでいた。
(とんだ羞恥プレイだ!)
『冒険者ギルド』を後にすると、サクラたちを連れ、人気のない場所まで移動した。敵の狙いが分からない現状では――極力、目立つ行動は避けた方がいい――と考えた結果だ。
――さっきの行動で十分目立った気もするが、忘れよう。
耳栓を外し、サクラには状況を掻い摘んで説明する。
余計なことを教えると――貴族を殴りに行きってきます!――と言い出しかねない。俺はさっさと【テレポート】を使用した。
移動先は神殿ではなく、『神殿都市』にある小さな教会だ。
質素だが趣のある礼拝堂への【テレポート】に成功する。
初めての場所のためか、サクラは落ち着かない様子でソワソワとしている。
相変わらず、人は居ないようだが――
「サクラ、どうやら楽しい状況ではないみたいだ――様子が
俺の言葉に、サクラはピタッと動きを止める。
俺は扉へ向かうと、ゆっくりと開け、外の様子を確認した。
そこには、赤とも黒とも取れる色をした不気味な霧が立ち込めていた。
空気中には黒い粉塵のような異物が混じっていて、明らかに――人体には有害だ――と判断できる。
俺は予備のマフラーを【アイテムボックス】から取り出し、青年兵士に渡すと、自分のマフラーを外して、サクラの首に巻いた。
「こ、これは如何にも、こ、恋人っぽい――(モゴッ)」
そして、そのまま口を塞ぎ、マスクの代わりにする。
俺は自分の口元を<影>の魔法で覆った。
「酷い瘴気だ……この様子だと、都市全体が瘴気で覆われている可能性があるな……」
首を傾げるサクラとは違い――そんなバカなっ!――と驚く青年兵士。
(それはそうだろう……)
『神殿都市』が瘴気で覆われるなど、前代未聞の出来事だ。
神は死んだ――と言いたくなるような状況だろう。
「一度、『冒険者ギルド』へ行って状況を確認したい。それでいいか?」
『神殿都市』のことは俺よりも青年兵士の方が詳しい――と思い確認する。
「はっ、ここから近いので、それがよろしいと思われます!」
「分かった――いや、二人は先にギルドへ向かってくれ……」
「ヤクモはどうするんですか?」
「一旦、街の外に出て、瘴気の広がり具合を見て来る。何処から瘴気が発生しているのか、分かるかも知れない」
「分かりました!」
とサクラ。青年兵士が――お気を付けて!――と敬礼する。
「そっちもな」
俺はそう返し、【クリエイト:影】と【シャドウダイブ】を使用する。
そのまま、影の中を移動し――スルリ――と外へ出る。
街中では、魔物が徘徊している様子は無かったが、人の姿を見ることも無かった。
流石に、この瘴気の中を出歩く物好きはいないようだ。
俺は【シャドウムーブ】で『神殿都市』の外まで移動した。
――思った通り、都市を囲むように瘴気が充満している。
しかし、中央の山――その山頂にある『アンファングサントル神殿』――は無事なようだ。山頂に建てられているため、標高が高いからだろうか? それとも、結界で守られているのだろうか?
――だが逆に、瘴気によって閉じ込められているようにも見える。
俺はMPポーションで回復しつつ、仮説を立ててみた――神殿都市には歴史がある。地下には古い水路などが広がっていて、瘴気はそこから出たのだろう。
魔物の大量発生と併せて計画的に実行された――と考えるべきだ。
でなければ、このタイミングで、更にこの短時間で誰にも気づかれることなく、瘴気で都市を覆うことは不可能な筈だ。
(だが、いったい何のために……)
――後発組の勇者たちを逃がさないため。
――中央の神殿へと人を集めるため。
――魔人や魔獣が行動し易いようにするため。
(そんなところか……)
こちらの動きが把握されていることから、敵と内通している者が神殿に居るのだろう。
ここはつい先日まで、大司教に化けていた――仮に魔人として――その魔人が管理していた都市だ。
長い年月を掛け、対勇者用の大規模な仕掛けが用意してあっても不思議ではない。
まだ、魔人の生き残りがいたのか、それとも、勇者を快く思わない連中が魔人の残した仕掛けを利用したのか――いずれにしても、敵の狙いは『アンファングサントル神殿』に有るようだ。
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