第93話 ヤクモ<銀鷲城>:罰


 グランエグル城――通称<銀鷲ぎんわし城>。


 緑溢れる自然の中にあり、周りを湖に囲まれた純白のお城だ。

 湖面に太陽の光が反射し、白い壁が煌めいて見える。


 建国神話に登場する『銀翼の鷲』が名前の由来らしい。

 何でも――巨大な蛇を銀翼の大鷲に乗り、退治したとか……。


 元の世界に戻ることができたあかつきには、学園祭のクラスの出し物として、提案するのも悪くない。


「勇者ツキカゲよ……此度こたびはご苦労であった。其方そなたの活躍により――」


 謁見の間――国王を前に赤絨毯の上で、オレはひざまずいていた。

 玉座というモノを初めて見たが、何だか硬そうなだけで、長時間座るのには向いていなさそうだ。


 王族の住む城だと聞いていたので、豪奢ごうしゃで煌びやかなモノを想像していたのだが、違うようだ。外からの美しい見た目に反し、城の内装は質素な造りになっている。


 国王の傍には大臣と思しき面々や神官らが控えており、壁に沿って、護衛の兵士たちが等間隔で配置されていた。


(何故、その兵士たちの装備と同じモノを最初にくれなかったのか――)


 いや、『高レベルの装備品』や『熟練度が足りていない武具』を使用した場合、TPの減りが激しい。仕方が無いのは分かっている。

 だが、つい言いたくなってしまうのが、人間という生き物だろう。


「この国は魔王の脅威から救われた。しかし、これは一時的なモノでしかない――」


 王城へはサクラたちと一緒に来たのだが、流石に従魔であっても――魔物を王城の中心部まで招くのは不味い――と判断されてしまった。


 仕方が無いので、今回は――『アイカ』や『プリム』たちには別室にて――待機して貰っている。


 サクラとアオイは、その面倒を見るという名目で待機だ。

 サクラは何を仕出かすのか分からないし、アオイに関しては、まだ、心の整理が付かないだろう。


 シグルーンも一緒に来た筈なのだが――さて、何処に姿を消したのやら?


「魔王の脅威は去った訳ではない。必ずや、次の一手を打って来るだろう。我々は――」


 馬車での移動は思たよりも窮屈きゅうくつで、時間の無駄としか思えなかった。

 スキルを使用すれば、もう少し早く来ることもできたのだが――


(まぁ、今回は王様の顔を立てることにするか……)


 義理の弟である蒼次郎さんも死んでしまった。

 シグルーンと仲直りしたとはいえ、まだ、ぎこちない。


 それでも、今回は王様なりに気を遣ったのだろう。

 アオイとシグルーンのために、立派な馬車を用意したようだ。


 ――舞踏会でも、開く気なのだろうか?


 二人だけで行かせるのは心配なので、俺も馬車での召喚に応じることにした。

 サクラとアイカが喜んでいたので、今回は良しとしよう。


 ――俺もつくづく甘いな……。


 <ポータル移動>が可能なので、帰りが一瞬のは救いだ。


「我々は力を合わせ、その脅威に立ち向かわなければならない。また、そのための勇者たちへの支援も惜しまない」


(さて、そろそろ終わりかな……)


 正直、こういうのは俺の役目では無いと思うのだが、何故か皆――俺に行って来い――と言う。


 新手のイジメだろうか?――いいように使ってくれる。


「勇者ツキカゲよ――おもてを上げよ……」「はっ!」


「先の魔王との戦いにおける活躍、見事であった。今後も、このアルラシオン王国のため、いてはこの世界のため、尽力をお願いしたい――では、これより褒章を与える」


 こういった作法はさっぱり分からないのだが、一応、やり方は教わった。


 ――無難に熟すとしよう。


 正直なところ、褒章よりも、金貨や目録の方が有難い。

 俺が顔を上げると――そこには、純白のドレスをまとったシグルーンが居た。


(まるで、お姫様みたいだ――いや、本物のお姫様だったな……)


 視線を感じたので王様の方を見ると――どうじゃ、ワシの娘、可愛いじゃろう――と自慢げに蓄えた髭を撫でていた。

 いつの間にか『親バカ』にジョブチェンジしたようだ。


 しかし、この状況は不味いのではないだろうか? シグルーンは俺を驚かそうとしただけなのだろうが――つまり、彼女と結婚すると、王位と<聖剣>の両方が手に入る――ということになる。


 欲深い連中が、この機を逃すとは思えない。


(仕方が無い――責任は俺にもある。ここは派手に行くか……)


 オレはシグルーンの持っていた褒章を<空間>の魔法で大臣の元へと転移させる。

 <魔法>【オペレイト】で操り、大臣にキャッチさせる。

 同時に、俺はシグルーンの手を取り、抱き寄せると、


 ――【アポート】【ミスディレクション】。


 <聖剣>を取り寄せた。やはり、<空間>の魔法は便利だ。


 ただ、<専技>に関係するのだろうか?

 グレンのように、攻撃には転用できないらしい。


 スキルの効果により、今、この場の全員が俺の動作よりも、突如出現した<聖剣>に目を奪われている。俺は<聖剣>を掲げると、


 ――【シャドウドール】【ディスガイズ】【クリエイト:聖剣】。


 <聖剣>の影より、もう一つの<聖剣>を創り出す。

 本物をシグルーンへ渡し、影から現れた<聖剣>を引き抜く。


 その場の全員が――<聖剣>が二本になった――と大騒ぎだ。

 どうやら、偽の<聖剣>だということは、バレてはいないようだ。


「コレを貰うが、構わないか?」


 俺は王様に問う。

 突然の出来事に驚いていたことも、理由の一つだった筈だ。


 王様は頷く。あまり深くは考えないらしい。

 俺はそれを確認すると、シグルーンと一緒に、その場から消えることにした。


 ――【クリエイト:影】【シャドウダイブ】【シャドウムーブ】。


 コレ――というのが、<聖剣>ではなく――シグルーンのことだった――という落ちだ。大騒ぎになっているようだが、まぁ、いい余興にはなっただろう。


 今更、勇者である俺に――返せ――とは言えない筈だ。


「ゆ、勇者様に貰われてしまいました♥」


 とシグルーン。両手を頬に当て、恥ずかしそうだ。


「俺を騙すとは、いい度胸だな」


 そう告げると――だ、騙した訳では――と彼女は言い淀む。

 別に怒っている訳では無い。

 サプライズのつもりだった――ということは分かっている。


「あんなに大勢の前だと――綺麗だ――と言えないだろ」


「はうっ♥」


「罰として、このままサクラたちの居る部屋まで行く」


「はわわわわっ!」


 色々と準備をしていた臣下の面々には申し訳ないが、他の貴族連中に声を掛けられるのも面倒だ。


 段取りを無視したことは、流石に失礼だったかも知れないが――勇者特権チート――ということで許して貰おう。


「ゆ、勇者様――」


「どうした?」


「これでは罰になりません」


 シグルーンは顔を真っ赤にして言った。

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