第74話 テッペイ<神殿>:屋外
「ねぇ、聞いてる?」
「はいはい、惚気だろ」
「いや、レンレンの話」
「だから、惚気じゃねーか……」
今、オレに話し掛けているのは、『
別に仲がいい――という訳じゃない。
どうやら、隊長が不在の場合、オレに相談するように言われているらしい。
――どう考えても人選ミスだろう……隊長はいったい何を考えているんだ?
オレ『
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▽
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オレはネットや書籍で調べた知識を使い、近くの山に罠を張り、遊んでいた。
別に動物を捕まえようとか、人を罠に掛けようとか、そういう訳じゃない。
ただ、こういうことが好きで、試してみたかっただけだ。
誰だって、使える知識や技があれば、人前で披露したくなるモノだろ。
オレの場合は、加えて『オタク』という属性があった。
趣味に対して、金や時間、リスクを惜しみなく費やせる人種だ。
勿論、サバゲーでもいいが、本格的に始めると色々と物入りになってくる。
高校生には車も無ければ、金も無い。この時点で詰みだ。
また、遊ぶにしても、他人とコミュニケーションを取らなくてはならない。
どうにも、オレはそういうのが苦手らしい。
結局、嫌な思いをするのなら、FPSで十分ということになる。
オレは人間が嫌いだし、できることなら関わりたくないと思っている。
その点『武器』はいい。カッコイイし、ずっと見てられる。
手に馴染む重さといい、硬さといい――ロマンがある。
そんな時だ。事件が起こったのは――オレの仕掛けた罠で動物が死んだらしい。
何処ぞの金持ちのペットらしく、学校へも連絡がいって大騒ぎになった。
だが、オレは問題になるようなことはしていない。
作った罠はすべて回収しているし、誰かが怪我をするようなモノは作っていない。
それなのに、ペットとやらは血を流して死んでいたらしい。
大方、その金持ちは恨みでも買っていたのだろう。
自業自得だ。
――だが、それはオレも同じだった。
誰にも信じて貰えない。
周りの連中も、すべてをオレの所為にすれば――解決する――と思っているようだ。
――魂胆が見え見えだぜ。
まぁ、それでもいいと思ったが、事件はあっさりと解決した。
犯人はその金持ちの会社の部下で、パワハラが酷かったことが原因らしい。
ペットを殺しても、器物破損にしかならないので、その社員は罰金を払ってお終いという訳だ。当然、会社は辞めただろうが、そこまで精神を病んでいたのなら、辞めて正解だ。
その金持ちは、会社でのパワハラを世間様に公表される結果になったが、反省しているかは謎だ。
多分――ああいう人間は一生ああなのだろう――とオレは思ってしまう。
その後、どういう訳か、その金持ちが罠に掛かっているところを発見された。
片足をロープで縛られ、木の枝から逆さにぶら下がるという古典的なヤツだ。
オレは自宅に謹慎中のため、山には行っていない。
結果、あの山では――オレ以外にも罠を仕掛けている人間がいた――という状況が出来上がった訳だ。
ペットを殺した真犯人は捕まり、罠もオレが仕掛けたのではない可能性があるのだとすれば、学校側は――ウチの生徒ではない――と言い張るだろう。
――オレを犯人にしてしまうと、学校の評判が下がるだけだからな。
つまり、体のいい手のひら返しである。
オレは反省文の提出と厳重な注意、それから――もう罠を仕掛けない――という約束をさせられた。
謹慎が解け、学校へ戻ったオレは月影を探した。
「あの木には、悪いことをしたかな……」
本当にそう思っているのかは分からないが、ゴミ捨てをしている月影を見付けたので近づくと、そう言われた。
――コイツは後ろに目でもあるのだろうか?
「園芸部の手伝いだよ。木を隠すなら森の中、証拠を埋めるなら土の中――」
何を花壇に埋めたのやら――いや、コイツなりの冗談か?
生徒たちの間では既に噂になっていた――また、月影が厄介事に首を突っ込んだ――と。
恐らく、本当の意味で真相を突き止めたのは、猫屋敷のチビだろう。
彼女は――自称<名探偵>。図書室の妖精。叡智の書。
色々と変な噂の絶えない人物だ。
奇人変人という意味でなら、オレよりも上の存在だろう。
そして、月影と仲が良い。
当然、ここまで情報が揃えば、バカなオレでも
「なぁ、何でオレを助けた?」
「助けたつもりはない。全員を被害者にしただけだよ。誰も得をしなかった。それで納得はできないか?」
「お前も得をしていないだろ……」
月影を探し出す前に――コイツがどういう人間なのか――少し調べた。
中学の頃は、獅子王とサッカー部に居たそうだ。
目立つ存在ではなかったが、それは獅子王が居たからだろう。
スポーツにはあまり興味がないが、『ボランチ』と呼ばれるポジションだったみたいだ。積極的に点を取りに行くタイプではないが――アイツがチームに入ると、自然と試合運びが楽になった――と元チームメイトは言っていた。
獅子王のお陰も大きいのだろうが、ジャイアントキリングとして、注目される程度には強かったようだ。何故、サッカーを止めたのかまでは知らない。
ただ、そんな奴が――どうして、オレなんかを――と不思議に思ってしまう。
オレの言葉に、月影は少し考えた素振りを見せると、
「だが、俺たちはチームだ」
「チーム?」
「そう、同じクラス――いや、同じ部隊――と言った方がいいか? だから助けた」
オレに合わせて言葉を選んだのか?――意味が分からない。
「だから! お前に何の得が――」
「戦友を助けるのは、そんなに変なことだろうか?」
月影の言葉に、オレは納得してしまう。確かに、戦友なら助けるべきだ。
奇怪しいことはない。一人でも多く生き残れば、また明日も戦える。
「これから収穫なんだ。お前も手伝え」
「食料の調達任務だな……」「そんなところだ」
どうやら、オレは他人よりも手先が器用で土いじりも苦ではないらしい。
そんなこと、今まで考えもしなかった。
日常は退屈で、同じ日の繰り返しでしかない。
しかし、気が付いた時には、オレは園芸部で重宝される存在になっていた。
今思えば、あのタイミングでオレが話し掛けるのを、月影は分かっていたのかも知れない。まるでアイツの魔法にで掛かったような不思議な感覚だ。
――でも悪い気はしない。
サッカー部の連中が言っていた意味をオレは理解した。
その日から、月影――いや、隊長について行くことをオレは選んだ。
損得の話じゃない。隊長がオレと関わって良かった――そう思える存在になろう。
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▽
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「なあ、鹿野――」
畑の雑草を取りながら、オレは質問する。
「何?」「隊長はオレの事、何て言ってた?」
「ヤクモっちが――」
鹿野は――うーん――と頭を捻ると、
「アイツは不死身だから、扱き使うくらいが丁度いいって――」
なるほど、笑える。『不死身の傭兵』という訳か。
実際にそう言われた訳ではないが、そう思うことにした。
その方がカッコイイからだ。
「犬丸が隊長に付けた渾名――オレは嫌いじゃないんだ」
「サクラっちが――ああ、アレね」
思い出したのだろう。鹿野は――にっしっしっ――と口元に手を当て笑った。
「あーしも! いーえてみょー? ってヤツ?」
「だからオレは、この世界でもあの渾名を広めようと思う」
まずはそのために、鹿野の話を聞く必要がある。
鹿野が恋心(本人は否定)を抱いている紅蓮という研究者の様子が『変』らしい。
環境が変わったのだ。人間、ストレスとかで奇怪しくなることもあるだろう。
「何故、そこまで疑う?」
「だーかーらぁ……あーし、そういうの見える系っていうか、色がいつもと違う感じ?」
コイツの言っていることは良く分からない。
まぁ、オレも他人の事をとやかく言えた義理ではないが――
つまり、鹿野は相手の精神状態などを把握するスキルを持っている――ということか……。
オレから言わせれば――相手の考えが分かる――というのは物凄いアドバンテージなんだが――
でも、隊長がそれに気が付いていない訳がない。
それを
綿貫も一緒だ。
アイツのシェルターを造り出すスキル。明らかに戦場向きだ。
――助けて、綿貫えも~ん。
という絵面が簡単に浮かぶ程だ。余程、その少女のことが大切なのだろうか?
それとも、エリスという女を信用しているのかも知れない。
――恐らく、その両方だろう。
先日の見世物は面白かった。
オレのトラップにああいう使い方があるとは、やはり、隊長と居ると退屈しない。
オレは必要なモノを幾つか鹿野に頼んだ。
その後、鹿野と別れると、神殿の裏手へ移動した。
どうにも、オレの罠に掛かった間抜けが居るらしい。
オレはソイツを見付けると、思わず笑ってしまった。
あの時のいけ好かない金持ちと同じ格好で、木の枝に逆さでぶら下がっていたからだ。
「おいおい。今日は随分と大きな獲物が掛かったな!」
「い、い、い、いいから降ろして……」
今にも泣きそうなか細い声で、
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