第三章 あざとければ変態でも武器になってくれますか?
第44話 ヤクモ<神殿>:ステータス発表会
2日目――朝。
俺はアイカちゃんを連れ、女子の宿舎へ来ていた。
扉には当然、鍵が掛かっている。
アイカちゃんをここに一人、置いて行く訳にはいかない。
人を呼ぶには早いし、スキルで潜入するのも問題がある。
さて、どうしたモノかと思案していると――
「あれ、五月ちゃん?」
と声を掛けられた。クラスメイトで、俺をその名で呼ぶのは彼女だけだ。
「ああ、熊田さん」
『熊田亜璃子』――大人しく目立たないが、料理好きで家庭的な女の子だ。
隠れファンが多く、男子からの人気も高い。
助かった――彼女なら、俺を変態扱いはしないだろう。
「どうしたの? こんな朝早くに……」
それはこっちの台詞でもあるのだが、
「彼女を届けに来た」
アイカちゃんを見せる。
「ああ、アイカちゃん。おはよう」
面識があったようだ。まぁ、小さい女の子が居れば嫌でも目立つ。
きっと、サクラが皆に紹介して回ったのだろう。
熊田さんは屈んで挨拶したが、アイカちゃんは俺の後ろに隠れた。
人見知りするような性格ではなかったと思ったが、気恥ずかしかったのだろうか。
「嫌われちゃいましたかね?」
「いや、寝起きで調子が悪いだけだろう」
熊田さんも人見知りする方なので、その説明で理解したようだ。
特に気にした様子は見せなかった。彼女は立ち上がると、
「で、こんな時間に五月ちゃん――いえ、月影くんは、どうしてアイカちゃんと一緒に?」
「昨日の夜。保護したので連れて来た」
「迷子でしたか……」
「さあ、俺には彼女の言葉はわからない。サクラを連れてきて貰えるか? アオイでもいい」
「アオイ? ああ、鷲宮さん!」
熊田さんは納得したのか、サクラたちを呼びに行こうとする。
「ああ、待って――熊田さん」「はい?」
「熊田さんはどうして、こんな朝早くに――」
「一人で、考えたいことがあっので……あの、月影くん!」
「何?」「あたし、頑張るから」
そう言って、彼女は宿舎へと戻っていった。
その意味がわかったのは、それから直ぐのことで、お約束の『ステータス発表会』の時だった。
<EXスキル>【ブレイドキング】――あらゆる剣を装備可能な強力なスキルだ。
彼女はそれを保有していた。
どうやら、皆の先頭に立ち――戦おう――と思ったようだ。
だが残念ながら、その機会は当分、訪れないだろう。
何故なら――彼女の使い処は、そこではないからだ。
午前中、俺は宣言通り、班毎にクラスメイトを呼び出し、この世界の説明と【ステータス】の確認を行っていた。昨日と同じように、部屋には【シャドウカーテン】と【フェイク】を併用し展開しておく。
(何故だろう? どうにも見られている気がする……)
【ステータス】の確認には、神殿が用意した石板を使用する。
手で触れ、魔力を込めると【ステータス】が表示されるという簡単なモノだ。
勇者たちだけならば、【ステータス】魔法が使えるので必要ないが、国としては、勇者の能力を把握しておかないと問題になるのだろう。確かに、強い人間の【ステータス】は把握しておきたいし、正しく管理すべきだ。ここは協力してやろう。
それとは別に、勇者の魔力は特別なようで、ただの石だった板がクリスタル状の板へと変化した。心做しか、強度も増したような気がする。
俺は皆の【ステータス】を確認すると、【フェイク】と【オートマティスム】を使い、こっそり情報を偽装した。
(さて、ここまでは計画通りだが――)
問題はサクラの【ステータス】をどう誤魔化すかだ。
そのために、俺は面倒な仕事を引き受けている。
(全員の【ステータス】を確認した後に考えるか……)
今、俺の目の前には、ムスッとした態度の鮫島がいる。
空気が悪いというより、鮫島の感じが悪い。
一応、俺だけでは不安だったので、アオイと護衛を兼ねてサクラにも、来て貰っている。アイカちゃんの姿がなかったので、誰かに世話を頼んだのだろう。
正直、鮫島が相手の場合、俺だけだと喧嘩になり兼ねない。
どういう訳か、最近、よく絡まれるのだ。
そろそろ、反撃してもいい頃だろうか?
いや、今は、その思考は置いておこう。鮫島の班は一番最後に呼んでいた。
最初に呼ぶと――お前はどうだった、オレは――とこれまたお約束な展開になりそうだったからだ。
まぁ、現状、全員レベル1なので、その心配はないだろう。
どうにも人は、集団になると問題を起こしてしまう。
それを避ける意味でも、班毎に呼んで、その都度、説明する内容をブラッシュアップしていった。
言葉にすることで、意外と自分でも気が付いていないことに気付くことができた。
また、意外な人物から、有益な意見が出てくることもある。
一度に全員を相手にして説明した場合、意見があっても言わない連中がいた筈だ。
少数に分けることで、それぞれに当事者意識を持ってもらうことができたようだ。
この成果は大きい。
アドバイスをくれた猫屋敷さんには感謝しよう。
いつも、彼女は俺を助けてくれる。
鮫島の班には、陸上部の智田も居たので、特に問題になることはなかった。
『
そんな智田の<EXスキル>は【スロースターター】。
さらに<メインクラス>は<シューター>だ。
バカにしているのか――とぼやいていた。
色々と腑に落ちない様子だ。
俺も最初はそうだったので、気持ちはわかる。
因みに、鮫島の<EXスキル>は【ウェポンブレイカー】だ。
名前通りに受け取るのなら、強力なスキルだろう。
『ステータス発表会』は恙なく終わった。これから、このステータス板を運んで、午後からはスキルや魔法のレクチャーを行う。
その間に、俺はパーティー編成を考えなければならない。
ここは、狐坂と猿渡さんに協力してもらうのがいいだろう。
当面の間は、戦士系と魔法使い系の二つに分けて訓練をするとして、一週間後には実践だ。実力がついたら、学院へ通って貰う。
綿貫さんや伊達のような問題児や熊田さんのように戦闘に向かない人物にも、役割を与えなければいけない。
やることは多い。ステータス板を【アイテムボックス】に入れながら、俺が考え事をしていると――
「あのー、ヤクモ……」
サクラが声を掛けてくる。
「どうした、サクラ?」「これを見て下さい……」
サクラはステータス版を差し出す。
彼女のステータス版は、俺が既に偽装していた。
魔法のコマンドをロックしているため、サクラは魔法を使えない。
更にMPを『0』に偽装している。
そこで、【マジックリンク】で俺のMPを共有し、魔力だけを使えるようにしたのだが、真っ黒な石板になってしまった。
(流石は魔王だ……)
後は、予め用意しておいた予備のステータス板とそれをすり替えたという訳だ。
少し心苦しいが、俺は何食わぬ顔で、相談に乗る振りをする。
「<メイジ>か――<魔法使い>だな。攻撃魔法を覚えて、先発組に入ってくれると助かる」
「いえ、ここです……」
サクラは指を差した。その場所には、通常ではありえない数値が出ていた。
「MPが『0』⁉」
「これって、不味いですよね――」
落ち込む様子のサクラには悪いことをした――と思いつつ、俺は演技をする。
それは、彼女が魔王と気付くまで、続けなければいけない。
「心配するな。サクラのことは、ちゃんと考えてある」
俺はまた、嘘を重ねた。
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