第五章 魔物使いの剣偽(ブレイドフェイク)
第22話 ヤクモ<異世界>:2日目(1)
翌朝、【ステータス】画面に新たに設定された<バイブレーション機能>で目を覚ます。昨日、試しに自称<女神>へ祈りを捧げたら、機能が追加された。
<アビリティ>【信仰:虚飾】のレベルを上げれば、自称<女神>と会話ができるかも知れない――
(いや、それは止めておこう……)
軽くストレッチをした後、噴水の場所まで歩く。
俺が祈りを捧げると、昨日と同じく、水が湧き出した。
顔を洗い、口をすすぐ。
(取り敢えず、洗面用具が必要だな……)
ビショビショになった手を振ると、顔に残った水滴を指で弾いた。
それから、1枚の手頃なサイズの葉っぱを千切り、【ディスガイズ】を使用する。
追加で【オートマティスム】を使用した。
・【ディスガイズ】は変身の<スキル>で、葉っぱを紙へと変える。
・【オートマティスム】は自動書記の<魔法>で、文字を書く。
狙い通り、それは『洗面用具』と書かれた一枚の紙片になった。
俺は【ステータス】魔法で、シグルーンの【道具】に紙片を移動させる。
これでシグルーンに紙片が渡っている筈だ。
(距離があると難しいが、大丈夫だろうか?)
まぁ、後でシグルーンが昼食と一緒に、タオルやハブラシを持って来てくれることに期待しよう。シグルーンも【アイテムボックス】を使用できればよかったのだが、勇者限定の<EXスキル>のようだ。
それよりも、早急に何とかしたいのは、やはり食事の方だ。
グーと鳴った腹を摩る。昨日は転移の後遺症か、体調が優れず、直ぐに眠ってしまったため、夕食を取っていない。
(――仕方が無い)
{
――<スキルポイント:10>を消費し、
<専技>【鑑定眼】を習得しますか?(残り:50)
<(YES)/ NO >
――<専技>【鑑定眼】Lv.1の習得に成功しました。
――<アビリティ>【鑑定:●●】を習得します。
――習得したい【鑑定:●●】を2つ選択してください。
――<スキルポイント>は(残り:40)になりました。
}
『世界の声』とやらが聞こえる。
俺は<スキルポイント>を消費し、<専技>【鑑定眼】を習得した。
そして、<アビリティ>に【鑑定:植物】と【鑑定:魔法生物】を選択する。
{
――<魔法生物>が仲間にいるため、
【鑑定:魔法生物】が【鑑定:魔法生物】(+1)に強化されます。
}
なるほど――早速、効果を試してみたいところだが――現状では用途が思い付かない。俺は諦め【鑑定眼】を使用し、本来の目的である食用の植物を探すことにした。
注視することでウィンドウ画面が表示される。
【ステータス】画面の要領でタップし、詳細を確認した。
しかし、まだレベルが低いためか、名前や簡単な説明しか出て来ない。
それでも、一回一回【クリエイト:識】を使うよりは効率がいい。
(ある程度は、推測で探すか……)
使い方もわかったので、かつて花壇だった場所へと移動する。
以前、観賞用に植えたモノだろう。近くに、実が生っている木を見付けた。
他に食べられそうなモノは――
(自生しているキノコくらいだろうか?)
ハーブ類も幾つか見付けたが、流石に草で、お腹は膨れない。
調理するにしても、調味料もなければ、鍋や包丁もない――シグルーンに頼むにしても、彼女がそんなモノを持ち出していては、誰もが不審に思うだろう。
(夜中に炊事場に行って、こっそり盗って来るか……)
段々とやっていることが、<勇者>から遠ざかって行く気がする。
俺は御神体である<核>に祈りを捧げ、火を起こすと枝に刺したキノコを焼いた。
その間に――予想した通り、美味しくない――木の実を食べる。
そして、焼いたキノコで朝食を済ませた。
腹が満たされた訳ではないが、少しは落ち着いたので、俺は座ったまま足を延ばし、後ろに両手を突くと、上を見上げる。
幾何学模様――とでもいうのだろうか? 天井はデザイン性の高い造りになっていた。このまま、ぼーっ、と見ていたい気分になるが、そうもいかない。
さて、シグルーンが来るまでどうするか?
(やはり、レベル上げをすべきだろう)
いつまでも、レベル1という訳にはいかない。
しかし、ここは聖域だ。<魔物>がいるとは考え難い。
(――いや、スライムは居たのだが……)
スライムは<魔物>といっても、<魔法生物>である。
彼らの場合、<マナ>が溜まる場所に勝手に発生する自然現象のようなモノだ。
生息しているとすれば、湿地や洞窟の中だろう。
水があり、<マナ>も充足しているこの場所は、条件に該当した――と考えるべきだ。もう一つ、理由を考えるのなら――何処かから侵入した――という可能性が高い。俺は崩れた井戸へと視線を向けた。
(侵入経路は、ここくらいか?)
ただ、聖域は結界で守られている。そのため、<魔物>が侵入する――ということはまず無い。覗き込んではみたが、真っ暗で底は見えなかった。試しに小石を落としてみると――カンカン――と跳ねる音がした後――ピチャッ――と水の音が響いた。
(枯れてはいないようだが――いや、それよりも下に堅いモノがある)
今度は、火を点けた草の束を投げ入れてみた――トサッ、カサカサ。
明りは直ぐに消えたが、一瞬、何かが動いたような気がした。
生き物の気配はあるが、何がいるのかまでは想像が付かない。
それに下は平らなようだ。恐らく、この井戸はカモフラージュで、水を汲むのが目的ではなく、隠し通路として造られたのだろう。
平らな場所は、そのための通路か? 気にはなるが――
「……今はまだ、止めておこう」
俺は井戸を覗き込むのを止めた。
誤って落ちると危ない――蓋でもしておいた方がいいだろうか?
周囲を見渡すと、
「それにしても荒れているな――」
改めて、植物が伸び放題、荒れ放題の状況に辟易した。
よしっ――俺は気合を入れると、
「ルビー!」
昨日【テイム】したスライムの名前を呼ぶ。
すると、草叢から、一匹の深紅のスライムが現れた。
【ステータス】画面を確認する。
―【プロフィール】――――
名前:ルビー 性別:- 年齢:-
レベル:8 分類:魔法生物 属性:-
メインクラス:ヴァニティスライム
スタイル:ファミリア
サブクラス:-
ジョブ:聖獣
ユニーククラス:スライム
タイトル:聖域の守護者
―――――――――――――
聖域に住むスライム。<勇者>ヤクモの従魔。
―――――――――――――
やっぱり、俺より強い。しかし同時に、レベルが高いということは――レベルを上げる方法がある――ということだ。
そして、能力を試すには丁度いいだろ。
「この周辺の植物を捕食してくれないか?」
ルビーは理解したのか、身体をプルプルと震わせた後、ゆっくりと植物に近づき、体内に取り込むと同時に溶かしていく。
中々に面白い光景だ。俺は暫く、その様子を見ていると、
{
――ヤクモのレベルが1上がりました。
}
『世界の声』が聞こえる。【ステータス】画面で確認すると、確かにレベルが2に上がっていた。考えられる理由は――今、ルビーが植物を捕食している――ことしかない。
従魔が得た経験値は<テイマー>である俺にも振り分けられる。
よって、俺のレベルが上がった――と考えるべきだ。
俺は<スキルポイント>を消費し、<アビリティ>【鑑定:植物】のレベルを上げると、周囲の植物を再度、観察してみた。先程よりも詳しい情報が表示される。どうやら、危険な植物――つまり<魔物>も紛れているようだ。
推測するに、聖域のような場所では、危険とされる<魔物>の植物でも、無害な植物に育つようだ。恐らく、<マナ>に関係があるのだろう。ルビーの<ジョブ>が<聖獣>になっている原因も、そこにあると考えられる。
状況からいって、植物系の<魔物>は、<聖獣>ではなく、ただの植物に成長するようだ。詳しいことについては、もう少し調べる必要があるだろう。
(まぁ、今はいいか――)
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