第21話 ヤクモ<異世界>:地下庭園(5)
とは言っても、現状で確認できるのは――
(【クリエイト:影】と【フェイク】の2つか……)
安全かつMPの消費も少ない。
シグルーンを仲間にしている状態なので、【スキルコピー】の使用も可能だが、彼女の【技能】を確認した限りでは、習得しているのは<プリースト>の<スキル>ばかりで、コピーしたとしても、現状では有効活用できそうにない。
取り敢えず、【ヒール】と【プロテクション】はコピーしておきたい。
だが、<癒>の精霊と契約する必要がある上、基本的に仲間が怪我をしたり、攻撃を受けなけば使い処が無い。
エリスをパーティーに入れるという手もあるが、今はまだ、俺の手の内を晒したくない。それは彼女も同様だろう。お互い、信用を得るための時間が必要だ。
また、エリスが習得している<スキル>は【剣術】を中心としたモノだろう。
『剣』が無い今の俺では、習得しても仕方がない<スキル>が多いと考えるべきだ。
「だいたい理解した。<魔法>を使用する」
俺はそう言って小石を拾うと、
「シグルーン。これは何に見える?」
と質問した。シグルーンは意図が理解できずに困った表情する。
「何って? 今、小石を……あら、綺麗――宝石ですか?」
「そうか……」
<魔法>【フェイク】を使用し、『小石』を『宝石』にしてみたのだが、どうやら成功のようだ。本来なら、知力で判定するのだが、シグルーンは俺に対して無防備な面があるため、見抜けなかったのだろう。
俺には小石にしか見えない。もう一度、拳を握り、【フェイク】を解除した。
そして、拳を開き、それを見せる。
「あら? ただの小石です……」
シグルーンは不思議そうに、俺の掌にある小石を見詰める。
「なるほど……」
俺は呟く。【フェイク】――どうにも、工夫が必要な<魔法>のようだ。
続いて、【クリエイト:影】の<魔法>だが――
「<影>属性の<魔法>というのは、一般的なモノなのか?」
良くわからなかったので、聞いてみることにした。
俺の質問に、シグルーンは首を横に振る。
「<魔法>自体が一般的ではありません。ただ、使えるだけでも凄いことです」
「そうか……」
シグルーンはどう考えても、神殿の中だけで暮らしていたのだろう。
<魔法>やそれを使用する<メイジ>などについては――あまり詳しく無い――と考ていいだろう。俺はエリスへと視線を向けた。彼女は意図を汲み取り、
「当然、貴族には使える者が多いわ……でも、普通は<火>や<風>よ。<影>っていうのは、アタシは知らないわ(フルフル)」
エリスはゆっくりと首を左右に振った。どうやら、珍しい部類の<魔法>らしい。
そもそも、影を作り出す<魔法>に使い道があるのだろうか?
(まぁ、使ってみよう)
危険はないと思うが、念のため二人には下がって貰う。
「【クリエイト】」
俺が手を翳した方向に、真っ黒な影が伸びる。
「それだけ?」
とエリス。手厳しい。
シグルーンは少し困った表情でオロオロした後、
「で、でも……<魔法>が使えるなんて――流石は勇者様です!」
両手の指と指を併せ、尊敬の眼差しを向けてくれる。
だが、今はその優しさが辛い……。
「戦闘で使えなければ意味がない――」
ひょっとしなくても、俺は『外れスキル』持ちなのだろうか? 俺が視線を向けると、エリスは顔を逸らし、シグルーンは申し訳なさそうに俯いた。
(せめて、何か言って欲しい……)
「そ、そうだ! 姫様……食事にしましょう」
とエリスはパンと両手を打ち合わせる。この空気に耐えられなかったようだ。
「生憎、この荒れようでしたので、落ち着いて食事が取れそうな場所は見付かりませんでした」
姫様、申し訳ありません――と頭を下げるエリス。
どうやら、彼女がシグルーンの傍に居なかった理由は、昼食ができそうな場所を探しに行っていたことが理由のようだ。
ただそれも、シグルーンが指示しなければ、勝手に彼女の傍を離れるとは思えない。シグルーンの思惑としては――<勇者>と二人きりになり、自分に好意が向くようにしたい――というところだろうか?
確かに、サクラの件がなければ、彼女に対し、特別な感情を抱いていたかも知れない。純真無垢な顔をしていはいるが、シグルーンは中々の策士のようだ。
(そういうのは、嫌いではない)
「申し訳ありません――勇者様……」
シグルーンは頭を下げた。
「本当は、もう少し優雅に昼食を――と思っていたのですが……」
別に彼女が謝る必要は無いのだが――そのまま口で伝えても、彼女が責任を感じるだけだろう。俺は――
「ピクニックみたいで楽しいからいいさ。それに――こういのは何処で食べるかよりも、誰と食べるかが重要だろ?」
「流石は勇者様……(うっとり)」
シグルーンは、俺が何を言っても尊敬してくれるようだ。
それとも【演技】の効果だろうか? 悪い気はしないが、少し心配になってくる。
それにしても、今は昼だったのか――ジオフロントといい、どうにも時間の感覚が奇怪しくなる。時計が欲しいところだ。シグルーンに確認してみたが、小型なモノはここには無いらしい。
まぁ確かに、ここが神殿だとするのなら、鐘の音で時間がわかるため、必要ないだろう。何気なく【ステータス】画面を開くと右端に時間が表示されていた。
(便利――と思うより、時間制限のあるイベントが発生すると考えるべきだよな)
「どうかしましたか?」
また、考え込んでいたようだ。
食事の前に、一旦エリスを座らせ、髪に付いた葉や枝を取っていたシグルーンだったが、虚空を見詰め、沈黙していた俺を心配そうに見詰めている。
「すまない。考え事をしていた」
「そうですか――わたくしで力になれることでしたら、何なりと……」
「ありがとう。シグルーン」「はい、勇者様(ポッ)」
そんな遣り取りを目の前で見せ付けられ、エリスがコホンと咳払いをした。
「で、ヤクモ。貴方はこれから、どうするつもりなの?」
当然の質問だ。それは俺が知りたい。
「まずは、一週間後の<召喚の儀>まで身を潜める」
「――まさかここで?」
エリスは驚いているのか、呆れているのか、複雑な表情で俺を見た。
まぁ、そこに関しては同意だ。
「まずは、それがいいだろう」
その言葉に、シグルーンが――あらあら――と驚く。
それから、良いことを思い付いたとばかりに両手を叩くと、
「でしたら、わたくしの部屋に――」
「いけません!」「そうだぞ。シグルーン」
エリスと俺の二人に言われ、彼女はしゅんとする。
その様子を見て、エリスが――何とかしなさいっ――と視線を寄越したので、俺は内心溜息を吐くと、
「その代わり、必要なモノを持って来てくれ」「わかりました。勇者様☆」
切り替えの早いシグルーンに思わず苦笑する。
「まずは、ここに何が在るのかを確認したい」「それなら、案内するわ」
俺の言葉に、エリスが反応する。
昼食を終えると<地下庭園>を散策する運びとなった。
最初に案内された場所は、どういう訳か水が滾々と湧き出ている小さな噴水だった。どうやら、水の音はここが発生源のようだ。シグルーンが祈りを捧げると御神体ともいえる<核>が反応し、水が勢いを増した。
理屈はわかならいが、<核>と連動しているようだ。<マナ>を使用し、水を生成しているのだろう。<アビリティ>に【信仰:虚飾】がある。俺はシグルーンの真似をして、祈りを捧げてみる。
すると、シグルーン程ではないが、噴水から湧き出る水の勢いが増した。
どうやら、【信仰】が足りないようだ。それもでも――凄いです――とシグルーンが喜ぶ。エリスも――ああ――と感心したように声を上げた。
兎も角、これで水は確保できた。食事はシグルーンが持って来てくれるとのことだったので、後は寝る場所だ。エリスは納屋を案内してくれた。恐らく、庭師などが使っていたのだろう。かなり古く、痛んでいる。
それでも、無いよりはマシだが――暗くて、空気も悪い。
俺はシグルーンとエリスに外で待つように言って、中を確認した。
明らかにダメになっている道具もあったが、いくつか使えそうなモノを見付ける。
【クリエイト:識】を使用すると、名前に「壊れた」と枕詞が表示されているモノがある。専用の<スキル>があれば修理が可能なのだろうか?
(後でもう一度、確認するとしよう)
取り敢えず、ここで寝るのは止めよう。俺が外に出ると、エリスはシグルーンを庇う形で剣を抜いていた。二人の目の前にはスライムがいる。
無色透明のゼリー状のモノがキラキラと輝いていた。
(何故、こんなところに――)
と思ったが、今は応戦しよう。
この世界のスライムは最弱モンスターではなく、物理攻撃に強く、動植物を捕食し、溶かすタイプのモノだ。油などを掛けて燃やすのが、一般的な対処法だ。
(――やっかい極まりない)
その所為もあり、エリスは剣で、斬り掛かれないでいるのだろう。
しかし、それだけが理由ではない様子だ。
「気を付けて! 姫様の浄化魔法が効かない――」
とエリス。成程、それは警戒する訳だ。基本、低レベルの魔物は浄化魔法で一掃できる。それが――効かない――ということは、高レベルの魔物ということになる。
だが、それにしてはスライムの様子が変だ。
一向に襲い掛かってくる気配が無い――というか、二人を気にも留めていない。
寧ろ、俺の方にポヨンポヨンと跳ね、何かをアピールしている。
俺は【テイム】を使用する。魔法陣が現れ、スライムを取り囲んだ。
{
――【テイム】が成功しました。スライムを仲間にしますか?
<(YES)/ NO >
}
『世界の声』という奴だろう。同じパーティーに所属しているため、シグルーンにも聞こえているようだ。初めて聞いたのか、彼女は少し戸惑っていた。
俺は『YES』を選択する。
{
――<スライム>が仲間になりました。
【信仰:虚飾】の効果で<スライム>が
<ヴァニティスライム>に進化します。
}
突如、真っ赤に変身したスライムに、何が起こったのかわからず、俺たちは茫然としてしまった。
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