第三章 のけものフレンズ
第12話 ヤクモ<現代>:オベリパーク(3)
「ぷはーっ! な、何で口を塞ぐんですか!」
抗議するサクラだが、それが不味い――ということには気が付いていないようだ。
勿論、サクラに本気で抵抗されれば、俺なんかでは抑え付けることはできない。
「アイカちゃんと、もっと話したかったのに――」
サクラはただ、俺と鷲宮さんが取った行動に、きちんとした説明が欲しいだけなのだろう。
「すまない。サクラ」
俺は一歩引いて頭を下げる。
「えっ? あれ! ええと……」
想像していたリアクションと違ったのだろう。サクラが戸惑う。
「あのー……お、怒っていないので、頭を上げてください……」
その言葉で、漸く俺は頭を上げる。同時にサクラを真っ直ぐに見詰め、
「可能性の話だが、お前の回答によっては不味いことになる――と思ったんだ……」
俺の言わんとすることを理解しているのか、鷲宮さんはコクリと頷く。
だが、サクラは首を傾げている。
「まず、状況を整理すると――アイカちゃんはここジオフロントで、治療を受けていた」
「はい」
「だがそれは、<人工精霊>を体内に埋め込むというものだった」
「はうっ、首輪をされているみたいで可哀想でした……」
「結果、<マナ>を体内に取り込み、<魔法>という技術を身に付けることに成功した。つまり――被験者――だ」
「実験の対象になる人のことだよ」
と鷲宮さんがサクラに囁く。
「つまり、実験台にされている――ということですね(ゆらり)」
そう言ったサクラの瞳から光が消える。
そこまで言ったつもりは無かったのだが、サクラは曲解してしまったようだ。
「落ち着け、酷い扱いを受けている訳ではない――それにアイカちゃんは強い」
「そ、そうでした」
俺の言葉で、サクラの瞳に光が戻る。
(正直、怖かったが、今のは何だったのだろう?)
平静を装い、俺は話を続ける。
「兎に角、<マナ>についてはすべてがわかっている訳ではない――どうした?」
「……ヤクモは不思議です」
「どういう意味だ……」
「ヤクモといると、穏やかな気持ちになります」
それは良かった。いや、俺は精神安定剤ではないんだが――
俺の場合は、サクラと居ると調子が狂う。まぁいい、話を続けよう。
「もし、<魔法>が火や風を操るだけではなく、超能力のようなテレパシーやサイコキネシス――そんな使い方が可能だとしたのなら、どうだ?」
サクラは首を傾げる。予想通りの反応だ。
頭の中で考えた情報を外に発信できるのなら、ドローンやロボットを自分の思い通りに操作できるようになるかも知れない。
それこそ、機械の身体も夢ではない――まさにSFの世界だ。
「飽く迄、可能性の話だが、治療ではなく『兵器』として流用される恐れがある」
『兵器』という言葉に反応したのか、サクラは目を見開いた。
「勿論、『兵器』を開発すること自体は、何処の国でもやっていることだ。だが、人間兵器となると話は別だ」
「つまり、わたしの一言で、アイカちゃんは人間兵器にされていた――ということですか?」
サクラの顔が見る見る内に青褪めていく。表情がコロコロと変わるのはいいが、何だか、俺がサクラを虐めているような気がして来た。
「可能性がある……というだけの話だ。実際には――」
しゅん、とするサクラ。アイカちゃんを助けなきゃ――と駆け出して行く可能性も考慮していたが、その心配はなさそうだ。
「悪い――言い過ぎた」
「いえ、ありがとうございます……確かに、アイカちゃんの声が聞こえる――と答えてしまうところでした」
(コイツ、本当に聞こえていたのか……)
「まぁ、その内わかることかも知れないが、今は俺たちだけの胸の内にしまっておこう」
「デュフフWW 月影氏……」
サクラが――はい!――と答えた気がしたが、俺はそれよりも、突然の背後からの女性の声にビクッと反応してしまう。
(不覚にも素で驚いてしまった……)
鷲宮さんも俺と同様に驚いたのか、少し後退った気がする。俺は何故か、掻かなくてもいい冷や汗を掻きながら、ゆっくりと後ろを振り返った。声の主はわかっている。同じ班の女子だ。俺は平常心を装い、
「お帰り」
と返す。
「頼まれていた限定グッズの入手に成功したでござるW」
同じ『ござる』でも、鷲宮さんの『ござる』とは雲泥の差だ。
「……あ、ありがとう。綿貫さん」
俺は愛想笑いを浮かべ、差し出された紙袋を受け取った。
観光地にはアニメショップがあるのは日本のお約束である。
各地で限定グッズを扱っていることは最早常識だ。
俺は事前に、彼女が詳しそうなアニメグッズを調べ、購入を頼んでおいた。
こうすることで彼女の奇行――元い、行動範囲――を制限することができると考えたからだ。
「ブフォW 有意義な時間でござった。月影氏の分も堪能したでござるよ」
この施設の構造上、各階層に存在するショップを限られた時間で効率良く回ることは難しい。目星を付け、一定の場所に留まり、目当てのグッズを探すことが正解だ。
言動はアレだが、彼女もその答えに辿り着いたようだ。
「マスコットキャラクターの写真もちゃんと送ってくれたし、助かったよ」
<オベリパーク>に存在するという謎のゆるキャラについてのコメントは控えるとして、先ずは感謝の気持ちを伝える。彼女は返答の代わりに親指をグッと立てた。
良いってことよ――という解釈で合っているだろうか? だが、考える暇もなく、
「隊長!」「隊長?」
(今度は何だろう?)
思わずオウム返ししてしまった。俺は再び後ろを振り向く。
「物資の調達任務、完了であります!」
同じ班の狐坂だ。ジャンルはわからないが、ミリオタというヤツだ。ここジオフロントは、<スフィア>という未知の物質を管理しているため、当然、警護も必要となる。国家プロジェクトでもあるため、自衛隊の部隊が派遣されていた。
彼らは広報イベントも兼ねているようで、俺はそんな自衛隊の関連ショップで缶詰やレトルトのカレーなど、ここでしか購入できないモノをいくつか頼んでいた。
嵩張るモノを頼んで、狐坂の機動力を削ぐのが狙いだ。
「……ご苦労様、変わったことはなかった?」
「ハ、物資が思ったよりも多かったため、目標に接近する際、気付かれてしまい任務を遂行できませんでした!」
(コイツ……本当に何する気だったんだ⁉)
俺は平常心を装いつつ、相手の態度に合わせた返答をすることにした。
「わかった! 指示は追って出す……次の任務があるまで通常待機を頼む!」
「
どうやら伝わったようだ。何だか酷く疲れた気がする。
できることなら、アイカちゃんにもう一度【
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