第4話 主人公<現代>:修学旅行(3)
歩きながら、馬鹿なことを考えてしまったモノだ。
内心苦笑する。俺がペットボトルを抱え、二人の元に戻ると――
「飲み物を買ってきたけど、これで良かったかな?」
どういう訳か、小さな女の子が一人増えていた。
まぁ『小さい』という意味なら犬丸さんも小さいので、この場合『幼い』と言い換えるべきだろうか? 小学校低学年位に見える。
だとしても、今日は平日だ。加えて、ここは研究機関が集まっているフロアだ。
小学生が一人で居るのは、どう考えても不自然だった。
「ええと……この娘は?」
研究機関の関係者――被験者――と考えるのが妥当だろう。
ネット上でも――子供を使った実験が行われている――という書き込みを何度か目にした。勿論、非人道的な実験ではなく、治療の一環としてだ。
辺りが薄暗いため、視覚による情報の判断は難しいが、手足がやけに細い気がする。もしかしたら、見た目よりも年齢は上なのかも知れない。
よそ行きの服装に赤いリボンで綺麗な黒髪をツインテールに結んでいる少女の姿は人形のようでもあり、とても大切にされていることが窺えた。
親や関係者が放置しているとは考え難い。
(迷子なのだろうか?)
少女は突然現れた俺を一瞥しただけで、別段、警戒する様子はなかった。
「アイカちゃんです☆」
と犬丸さんが教えてくれる。確かに、少女の首からぶら下がっているIDカードには『
「いや、そういう説明が欲しかった訳じゃないんだけど……」
取り敢えず、『りんごジュース』を渡してみると受け取ってくれた。
(『缶コーヒー』にしなくて良かった……)
犬丸さんが気を利かせて、キャップを開けてあげる。
その光景が、俺には微笑ましく映った。鷲宮さんも同じ感想だったのだろうか?
不意に目が合った。
「ああ……『お茶』で良かったかな?」
最初の想定とは異なってしまったが、俺は鷲宮さんに『お茶』を渡すと、犬丸さんにも『スポーツドリンク』を渡した。
「ありがとう……」「ありがとうございます☆」
俺は改めて、アイカという少女に挨拶をしようとしたが、首に埋め込まれている水晶を見て、それを止めた。<
そのことには敢えて触れないようにするため――少し離れていよう――そう思った矢先、
「あっ、アイカちゃんは話せないんです!」
と犬丸さん。
(折角、人が気を遣おうとしたのに……)
ただ、少女が何の反応も示さないところを見ると、口が利けないことを気にしてはいないのかも知れない。いや、感情が希薄と思った方がいいだろう。
周囲が大人だけだと、他人の顔色ばかりを窺ってしまうようになるのは無理からぬことだ。大人に迷惑を掛けないようにするため、自分の感情を面に出さないようにしているのだろう。
「わかっているよ――<人工精霊>を見れば、彼女が<
アイカという少女に配慮して言葉を選んだつもりだったが、犬丸さんに――この人は何を言っているんだろう?――という顔をされてしまう。
(少し悲しい……)
その様子を見兼ねたのか、
「あのね、サクラちゃん――」
と鷲宮さん。
「アイカちゃんの首にある水晶のことを<人工精霊>といって、それに適合できる人間を<魔法使い>っていうんだよ」
と説明してくれた。まぁ、犬丸さんの反応から、意味の半分も理解できていないことは容易に推測できた。それでも、鷲宮さんと俺とでは説得力が段違いだ。
ただ、一般人に取ってはゲームやアニメでしか馴染みのないような単語を鷲宮さんが理解できているということは、先程の空理空論も、強ち外れてはいないのかも知れない。俺でさえ、海外のサイトから得た知識だ。
今の日本のメディアからは、自国の有益な情報を得ることは難しいのが現状だ。
勿論、ネット上の情報など玉石混淆なことも理解している。
鷲宮さんがそういったニュースやサイトをチェックしているとは思えないが――いや、そのことは一旦忘れて、今は説明することに集中しよう。
(このままでは犬丸さんの中で、俺は唯の厨二病キャラになってしまう……)
「公開されている情報では、<スフィア>は無害とされているけど、実際は<マナ>と呼ばれるエネルギーを造り出しているらしい――」
そう言って、俺は一呼吸置くと、ガラス越しに煌々と光を放っている球体を睨み付けた。
「<スフィア>が発見された当初、メディアでは爆弾だ、隕石だなど騒ぎ立てていたし、専門家の意見では――『オーパーツ』だ――というモノもあったんだ……」
国外から持ち込まれた化学兵器――という説も有力だったが、流石に政府も不味いと判断したのだろう。言論統制が行われたようだ。
結果として、政府はオーパーツ説を推奨した。
恐らく、悪魔の証明と同じで――時間稼ぎの手段としては持って来いだ――と思ったのだろう。政治家という連中は、問題を先送りにすることにかけては長けているようだ。
結局、その情報を真に受けたのはTVを見ている老人や主婦くらいで、ネット上では、あらゆる情報と憶測が飛び交っていた。
「でも、その後の調査で、発光、重力の異常、物体の空中静止など、<スフィア>の周囲で不思議な現象が度々引き起こされたことから『未知のエネルギー体である』との認識に変わったんだ……」
本来ならば、真っ先に日本政府が関与する事態だったが、土地の所有者が外国人だったため、初動に失敗した。外国人の土地取得規制を全く行っていない日本政府は、手を着けることができなかったのだ。
まぁ、優秀な人材ほど、政治家や官僚になろう――と思わないのだから仕方がない。国家の未来を考えていない訳ではないが、若者である程、政府に期待をしていないのは明らかだろう。
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