第11話 絶空vsドラゴン使い

 一方、地上のソラは、苦戦を強いられていた。

 いくら時間稼ぎをしてくれと言われても、五体の内の四体を相手にするのは、楽ではない。


 オセを取り囲む、三体のドラゴンの内――、一体がソラへ突撃してくる。


 それを、身を屈めて躱す。

 が、それを狙っていたかのようなタイミングで、他のドラゴンが炎を吐いた。


 赤い球体だ。

 ソラに重なる球体……、直撃するはずだった。


 しかし、ソラは握る木刀を振り、迫る球体を半分に斬り裂く。

 ぱぁんっ、と風船が割れるような音が響いた。


 ――まだ終わらない。


 そのまま彼女は体を捻り、突撃してきたドラゴンに向かって、さらに木刀を振る。


 ザンッッ! と、ドラゴンの翼が切断され、

 バランスを崩したドラゴンが、地面へ落下する。


(よしっ、残りは三体!)


 すぐさま振り向く。

 炎を出したドラゴンが、空中で静止していた。


 そのチャンスを逃さず、木刀を振る――、


 だが、あっさりと避けられてしまう。


 そのドラゴンは、バサッバサッ、と翼を大きく動かした。


 前方からの突風がソラを襲う。

 だが、こんなもの、痛くも痒くも――、


 思っていたところで、激痛が走った。


 気づきにくいが、肌が薄く切れている――それがどんどん深くなり、

 ザシュッ、とソラの全身が見えない刃によって切り刻まれていた。


(なに!? これ――かまいたち!?)


 かまいたち。


 簡単に言えば、斬れる風と思ってくれていい。

 それが今、ソラを襲っていた。


 正体は風。

 防ぎたいが、どう防げばいいのか……。


「っ、もう! これで――消えろ!」


 あてずっぽうで振った斬撃は、運良くドラゴンの翼を斬り落とした。


 いくら敵とは言えだ、殺すのにはまだ抵抗がある……、それに、可哀そうだ。


 敵だから――気に入らないから。

 そんな理由で殺してしまえば、そのへんにいるクズ野郎となにも変わらない。

 そこまでは墜ちたくなかった。


 ……気づけば、残りは二体だ。


 だが、そう簡単にいくほど、甘くはない。


 ドラゴンの主であるオセが、重い腰を上げたのだ。



「ふうん、どうにもお前らだけじゃあ、時間がかかりそうだ……」


 首をコキコキと鳴らしながら。


「あら、ドラゴンに頼り切っているあんたが、今更なにをするの?」

「別に、頼り切っているわけじゃあないがな。まあ、それはどうでもいいか」


 オセが残り二体のドラゴンを、自身の背後へ集めた。


「この【アビリティ】が、ただドラゴンを操るだけ、とでも思ったか?

 違うんだよなあ、これが。まあ、そこで見てろよ――なあ、おい」


 オセがドラゴンの腹部に、腕を突き刺した。


「……? なにを……」


 オセが、満面の笑みで、突き刺した腕を引っこ抜く。


 その手には、鎖のような……、金属が握られていた。



「さぁってと、楽しい楽しい、ショータイムの始まりだぜ!?」



 その手にある鎖を、今度は残っているもう一体のドラゴンの腹部へ、突き刺した。


 これで、二体のドラゴンが連結した。

 なにが起こるのか、予想はついてしまうが……。


「合体イリュージョンだぜ、てめえら!!」


 合体。

 ということは――合体か?

 ソラが思い描くそれと同じかどうかは分からない。


 答えはまだ分からない――それもそのはず、未知の世界だ。


 すると、ドラゴンの二体の体が、輝き出した。

 その複数のシルエットが、やがて一つのシルエットへ変化していく。


 ぐちゃぐちゃに溶け合い、かき混ぜられ、固まっていく。


 そして、その姿が現れた。



「はは……あはははッ、出来上がりだぜ、クソ野郎ども」



 二つの頭を持ち、


 さっきのドラゴンよりも、三倍はある、巨大なドラゴンが。


 目の前にいた。


「……………………」


 言葉が出ない。

 こんなもの、どう相手をすればいいのか?


『――ギャガアアアアアアアアアアアアアアッッ』


 思わずソラが両耳を塞ぐ。

 それが隙を生んだ。


 あの巨体――にもかかわらず、見えない速度で、ソラの頭上に迫っている。


「なっ!?」


 反射的に横へ転がり、避ける。


 しかしドラゴンの踏みつけによって、地面の砂や砂利が、一斉にソラを襲った。


 まるで、散弾銃に全身を撃たれるような感覚。


 悲鳴も上げられない。


 傷だらけになりながらもすぐに立ち上がり、木刀を振る。


 いくら巨大と言っても、当たれば斬れるはずだ。

 だが、逆に言えば、当たらなければ相手を斬ることは叶わない。


 斬撃は果たして――、避けられた。


 ドラゴンが真上に飛んだのだ。


 跳んだのではない、飛んだのだ。


 しっかりと、背中のその翼を使って。


(今の一撃を避けられた!? なら……仕方ないわね……)


 ソラは諦めるように、腰にあるもう一本の木刀を抜いた。


「ふうん、二刀流か」


「ええ、そうよ。

 あまり使いたくはなかったけど、こんなところで死ぬわけにはいかないから」


 この前、二刀流を使った時に操作を誤り、ヨートに当たりそうになった……。

 その時から、ヨートに怒られて封印してきたが、今はそんなことを言っている場合ではない。


 両手に木刀を持ち、そして、

 右足を軸にして、回転する。


 ザンッ! ザシュッ! スパッ! と、周囲の物が次々と斬られていく。


 回転することで、相手に予測されなくなるのだ。


 だが、それは、自分も斬撃がどこに飛ぶのか分からないということでもある。


 だから、ヨートがいる時には使えない。

 一人、専用のスタイル。


 回転はさらに速くなり、

 そして、ザンッ! と、ドラゴンを一刀両断した。


 今度は翼、という甘いものじゃない。


 真ん中からズバッと、ドラゴンの体が斬られてしまっていた。


(――しまった!)


 真っ二つ……あれではもう……っ、


 そう思ったが、


「――分裂!」


 その言葉と共に、巨大なドラゴンが二体のドラゴンに分裂した。


 一体は普段と変わらない状態で。

 もう一体は、絶命してる状態で。


「…………」


 オセは怪我一つなくぴんぴんしているドラゴンの背中へ飛び乗った。


「簡単なことだ。

 合体していた時のダメージを、全て片側に背負わせた。ただ、それだけのことだ」


 それだけ。

 それほどのことを、それだけと言った。


 ドラゴンを、仲間を――なんだと思っているんだ!?


 そう叫びたかった。


 だが、


 ドラゴンに乗っていたオセの顔が、驚愕に染まっていた――ように見えた。

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