第4話 絶空 その2
(ソ…………ラ!?)
声は出ない。
最後に見たソラの顔は、すごく悲しそうに見えた。
嫌だ! と陽斗は思う。
死なせたくない! と思う。
結局、最後の最後まで、ソラに助けてもらってばっかりの自分が嫌になる。
なんでお前が犠牲になる?
おれが犠牲になればいい!
お前が犠牲なる事なんてない!
けど、そんな思いは、ソラには届かない。
そして、聞こえた。
「さよなら」
と。
衝撃波が、ソラを喰らうために、迫る。
(ふざけんな! ふざけんな! ふざけんじゃねぇぞ!)
陽斗はこの世界を作った、謎の男に叫んだ。
(なんでだよ! なんだよこの理不尽は!
あんな腐った奴に力があって、なんでおれに力がない! なんでおれはこんなにも、弱い!)
限りなく無に近い希望にすがるように、叫ぶ。
(強く願った事が力になるってんなら、おれは願う!
今、ソラを救うための力が欲しいッッ!
あのくそ野郎を潰すための、力が欲しい!)
その願いは届いたのか?
そんな事は分からない。
けれど、叫ぶ。
(さっさとよこしやがれ、くそ野郎ぉおおおおおおおおッッ!)
パチンッという音と共に、
明確な変化が訪れた。
ソラを喰らうために進んでた衝撃波が、
唐突に、
消えた。
工藤の顔が驚愕に染まった。
信じられないようなものを見るように。
「な、にが?」
工藤は分からない、けどこの現象を起こしたのが誰か、くらいは分かった。
ソラの後方で、圧倒的な殺意を持って立ちはだかる者がいる。
「陽斗ぉおおおおおおおおおお! てめぇええええええええッ!」
衝撃波のターゲットが変わる。
その矛先は陽斗に向けられた。
ソラは、マズイ! と後ろを向く。
ゾクッと体が震えた。
あそこにいるのは、さっきまでの少年なのか?
あの纏っている、青いオーラは、なんなのか――、
衝撃波が撃ち出される。
それは真っ直ぐ、陽斗の元へ向かう。
しかし、その衝撃波は、
陽斗に当たる寸前で、吹き飛ばされた。
陽斗がなにかしたわけじゃない。
まるで、その力に意志があるように。
まるで、陽斗に都合の良い結果を出すように。
むちゃくちゃだ、と工藤は思う。
そんなものは、無敵じゃないか、と。
勝ち目などあるわけないじゃないか、と。
そして工藤は初めて、恐怖を感じた。
負け犬だと思っていた男に、恐怖を感じた。
それは、工藤の高いプライドを、ズタズタに引き裂いた。
「はは、ははは。俺が負けるわけねぇ。負けるわけ、ねぇえんだッッ!」
もうやけくそだった。
そして、そんな人間の考える事など、手に取るように分かる。
衝撃波が放たれ、陽斗はそれを身を屈めて避ける。
力を使う必要など、もうない。
そんなものに頼らなくていいほど、今の工藤は弱い。
まるで少し突っついたら崩れてしまう積み木のように。
何発もの衝撃波を放つが、それを全て陽斗は躱す。
「くそ! くそ! なんで当たらねぇんだよ! くそがぁ!」
もう、見る価値なんてコイツにはない。
力に溺れた人間は、自ら崩れる。
気づけば陽斗は、工藤の懐にまで迫っていた。
「うわぁあぁ!? く、来るなぁっっ!!」
後ろに避けようとしたのが間違いだった。
後ろに後退した工藤の胸倉を引き寄せる。
「許す気はねぇ。お前がやった事はそれほど重いんだ」
引き寄せた勢いを殺さず、そのまま陽斗の握った拳が、工藤の顔面を撃ち抜いた。
ドガッガンッバゴォッという音が辺りに響いた。
工藤の意識は、そのまま落ちていった。
―――
――
―
「……大丈夫か?」
ソラに包帯を巻きながら、陽斗はそう言った。
さっきとは状況が逆だった。
こんな事で借りが返せると思ってるわけではない。
けれど、なにかしなければ、気が済まなかった。
「痛っ、ちょっと、強い」
「え? ああ、ごめん」
包帯の巻き方など分かるわけない。
逆にこれ、迷惑になってないか? と思ったところで、
「さっきの、陽斗の力?」
「分からない」
それは嘘ではない。
確かに願った……けれど、それから先、陽斗は特になにもしてない。
なにかが勝手に発動して、いつの間にか工藤が勝手に自滅していた……、
要約して言えば、そんな感じだったからだ。
「ふーん。でもおかしいのよ」
「なにが?」
すると、ソラがいきなり服を脱ぎ出した。
「な!? ちょ、なにしてんだよっ!」
「う、うるさい! 勘違いすんな! これ見て――」
ソラの胸元には、数字が刻まれていた。
『8』と。
「能力者はこれが必ずある。これが、今の自分の順位なんだから」
なのに、
「なんであんたにはそれがないの!?」
「そ、そんな事、おれに言われても。知らないもんは知らないんだし」
あれは陽斗の力じゃない。
そんな事があるのか?
……ソラは分からなくなっていた。
もしかしたら、少しの誤差があったのかもしれない。
あまり深くは関わらないようにした。
「もう大丈夫。陽斗もさっさと帰った方がいいわよ」
「なんで?」
「なんでって。あたしといたらまた襲われるかもしれない。
十位圏内っていうのは、みんなから狙われて当然なんだから」
それはそうだ。
能力者が目指す場所は、十位圏内なのだから。
当然、そこにいくには、現在の十位圏内を倒すのが一番手っ取り早い。
裏をかいたり、罠を張ったり、同じ人間なのだから無敵というわけじゃない。
「ソラは、なんで戦ってる?」
「世界を戻すため」
その時、ソラの声色が変わった――ように聞こえた。
「この世界は理不尽よ。
力が強いものが勝つようにできてる。結局、そういう事なのよ」
まぁそうだろうな、と思った。
結局、元の世界の延長戦でしかない。
「だから、戻そうと思ったのか?」
陽斗には、それだけとは思えなかった。
「……あんたには関係ない」
「ない!!」
陽斗の叫び。
その叫びに、ソラはビクッとした。
「ああ、関係ないさ。
でも、おれにも、できる事があるかもしれない。一人で無理な事も、二人ならできる」
「それは、あたしに借りを返すためでしょ」
「違う! もしそんなもんなくても、おれは助ける。それを今日、お前に教わった」
今日、見ず知らずの他人である陽斗を助けてくれた。
たとえ関わりがなくとも手を差し伸べる。
それをソラに教わった。
そして、見習いたいとも思った。
なら、まずは目の前の友達を助けようじゃないか。
陽斗はそう言った。
そして、『友達』――この言葉がソラの心に突き刺さった。
今まで当たり前のように言われていた気がしていたが、言われなかった言葉。
この少年はそれを、いとも簡単に言った。
それが、ソラの心を開く鍵となった。
「あたしは、いろんな人を助けてきた。感謝はされた、けれど、それ以上はなかった」
ソラは薄らと、泣いていた。
「友達なんて言葉、言われたのは久しぶりだよ……。
そんなのいなかった。
今までは、友達未満だったから」
「友達なんて言葉に出さなくても気が付いたらなってるもんじゃねぇの?
出会った奴の全員が友達、までは言わないけど、そんなもんだろ」
ただ単純に価値観の違いだった。
お互いに欠けてたものが、いま埋まった。
お互いに信頼できる者が、できた。
ソラは涙を拭い、
「あたしについて来れる?」
「ついて行く。どこまでも」
目指すは第一位。
この世界を元に戻すために、一歩一歩、進んでいく。
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