第2話 突然の訪問者 その2
この二日間、陽斗は家に引きこもっていた。
二日前の、あの謎の男が言ったあの後、学校になんて行く気があるはずもない。
それに、外には出れない。
なぜなら今、この世界はファンタジー世界に変わってしまっているからだ。
ファンタジー世界と言っても、
RPGなどでよくある森や洞窟など、ダンジョンの類があるわけではない。
見た目は変わらない。
ここは東京で、秋葉原なのだから。
違いがあるとすれば、普通にドラゴンが空を飛んでるくらいだ。
それに、ティラノサウルスなどの絶滅種や空想上の生き物が存在していた。
今頃は、学者たちのテンションはMAXだろう。
一般人からしてみれば、外にそんなのがいたら恐ろしくて買い物にも行けない。
つまり商品などは買い溜めしておいて、
家にこもるという戦法を使うしかないのである。
そして、その戦法に置いていかれた少年が、一人。
「……やべー、食いものがなにもねぇー」
陽斗はガックリと肩を落とす。
買い溜めしておいた食べ物は、昨日の内に全て食べてしまっていたようだ。
つまり、買いに行かなくてはならない訳で。
はぁー、と溜息をつく。
外に出たくない。
引きこもりの気持ちが分かった気がした。
それでも外に行かなくては、食べ物がない。
このままじゃ餓死してしまう。
仕方なく外に出る事にした。
この世界に変わってから、外に出たのは初めてだった。
前の世界となにも変わらない。
流れる風や風景など、なにも変わらない。
けれど、ドラゴンが頭上を通るこれは、変わらないとは言えない。
ドラゴンが頭上を通っただけで、荒々しい風が吹いた。
そして、陽斗の全身を叩いた。
「っ、うう」
手で顔を防ぐ。
ドラゴンはそのまま、特になにもせず、去って行った。
人間がそばにいるからって、無差別に襲う訳じゃないらしい。
「つっても、さすがに怖いよなぁ」
なるべく会わないようにしよう、と決意して、近くのコンビニへ足を進める。
惨敗だった。
二十四時間やっているはずのコンビニが閉まっていた。
さすがにこんなイレギュラーな事態でやっているほど、親切ではないか。
それにしても全然ない。
家の近く、全てを見てみたが、全滅だった。
めんどくさい、と陽斗は思う。
まさか、コンビニのために駅前まで来るとは、と。
横断歩道の信号は赤だった。
車など一台も通ってない。
意味ないだろと思いながらも、しっかりと待つ事にした。
ドラゴン注意の赤かもしれないと思ったからだ。
信号が赤から青に変わる。
一応、左右確認だけして、歩き出す。
いつもなら絶対にしないなぁ、と思いながらも進む。
すると前から、一人の、年齢は同じくらいか、少女が向かってきていた。
(一人か? あの人も食べ物がなくなったのかな?)
こちら側のコンビニは全滅ですよー、と言おうとしたが、
相手の目的を知らないので、止めた。
それにそこまでする義理はない。
陽斗は特になにかするでもなく、ただ歩いた。
そして、すれ違う瞬間、
「――――――」
「え?」
上手く聞き取れず、その場で止まるも、少女はさっさと行ってしまう。
追いかけようとしたが、信号が点滅していたので、それは諦めた。
駅前のコンビニは無事やっていた。
サンドイッチなど、一週間分の食糧を買って、外に出る。
夏休み直前なので、ジリジリと日差しが痛い。
この夏休みは、受験勉強に打ち込む年なので、
そういう意味では、この世界に変わったのは助かったかもしれない。
「けど、ずっとこのままじゃあ、ダメだよな」
誰かがやらなきゃいけない。
いつかはやらなきゃいけない事だ。
一位のあいつを倒して、世界を元に戻さなきゃいけない。
誰かがやってくれるだろう。
その考えは好きじゃないが、どうにもできない。
陽斗には未だに、【アビリティ】が出ない。
そもそもずっと家にいたのだから、出るはずもないのだが。
「最初に願った事が、能力になる、かぁ」
あの男は強く願った事と言っていた。
それは絶対絶命のピンチで願うレベルの事を言うのか?
分からない。
人には向き不向きがあるとは言われているが、
今のこの状況は、これに該当するのだろうか。
それは言い訳なんじゃないだろうか。
陽斗の頭の中は、ゴチャゴチャだった。
自分でも分からないほどに、ゴチャゴチャだった。
「考えても仕方ないか……一旦、帰ろう」
と、歩き出した時、上空から、轟音が聞こえた。
……? と上を向くと、ビルの建築に使われる鉄骨が、雨のように降ってきていた。
「なあっ!?」
避けようとするが、遅い。
その鉄骨は、陽斗の元へ降り注ぐ。
間一髪で、一本目は避けられた。
けれど、二本目、三本目となれば、避けられるとは限らない。
最悪、貫かれて終わりだ。
「――ちぃッ! くっそ!」
身を屈め、体勢を低くする。
そうすれば当たる確率が少しでも下がるはずだ。
だが、それも長く続くはずもなく、
四本目の鉄骨が、陽斗の肩を叩いた。
「ぐ、つうううううう!?!?」
肩を押さえる。
しかしそれが始まりだった。
次々に降ってくる鉄骨が、全て陽斗を叩いた。
肩、顔、胸、腕、足。
「ぎ、があああああああああああああ!?!?!?」
激痛が走る。
全てが打撃だった。
今まであまり痛いと思わなかった打撃に、コテンパンにされた。
意識など、いつ落ちてもおかしくない――。
「っ、くそぉぅ……」
(やべぇ、頭がフラフラする。これ、死ぬかな――)
そんな陽斗の真上、
最後の鉄骨が、陽斗の頭蓋を木端微塵に破壊するために向かう。
陽斗は気づいた。
けれど、避ける力があるわけない。
ただ自分の頭蓋が破壊されるのを、じっと見ているだけ。
視界が明滅し、鉄骨を捉えられなかった。
鉄骨は進む。
段々と陽斗の頭蓋に迫る。
そして、
鉄骨は陽斗の頭蓋を、
――砕かなかった。
ガッシャーン、と鉄骨が真っ二つに斬れていた。
陽斗はその目で、確かに捉えた。
人影を見た。
けれど、その先はない。
そのまま目は閉じられ、意識が落ちていく。
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