第2話

ガチャ。キィー、バタン。


「おかえりー!」


僕の母親がパタパタと玄関に来た。くんくん。あ、お酢の匂いがする。酢飯…恵方巻きを作っているのかな。


「これ、買ってきた。」


これまたハイカラな風呂敷を「ん。」と、ぶっきらぼうに渡す。


「そう!これこれ、ありがとうね。」


そういって母親は風呂敷を大事そうに受け取ると台所へ戻っていった。僕は部屋へ戻る途中、台所で足を止めた。今度こそは…。


「ねえ。」


「ん?どうしたの?」


「どうして…うちは『鬼もうち、福もうち』なの…?どうして他の家と違うの…?クラスでそんな子一人もいなかった。変なのって言ってた。」


「・・・。」


僕たちを包む空気が一瞬、時が止まったかのように凍り付くのをぐさりと感じた。僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。この沈黙に耐えられなくなった僕は、


「やっぱいい…。」


と言いかけたのとほぼ同時に、


「知りたいんだね…。」


と母親が切り出す。


「本当はね、あなたがもう少し大きくなったら話そうと思っていたのよ。もう少し…。」


いつもとは違う、一点を力強く見つめる母親。


「豆撒きしたら、少しお母さんの話を聞いてほしいな。」


僕が僕自身を、僕の運命を知るのは、もうまもなくのことだった。



**********



そう、あの人は一年に一度帰ってくる。

息子には「出張だ」と言っていたけれど、好奇心旺盛で勘が鋭いのはあの人譲りね。父親の本当のことを、そろそろ話さなくちゃね。



「ずっと気になってたんだけど、父さんは本当に出張なの?どうして一緒に暮らさないの?」


「今日、あの子には見えないものが僕には見えてしまった。僕は、お化けが見えるの?」



大きくなるにつれ、そんな質問が増えたよね。確実にその血が目覚め始めているのね。


これからの生き方は、あなた次第よ…。

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