2月に開く扉

河原葉菜陽

第1話

「鬼は〜外!福は〜内!」


 気づけば今年も節分の季節だ。お庭に豆を撒いたり、恵方巻きを食べたり、皆思い思いに過ごしているようだ。まだマフラーが手放せない寒空の下、はぁ〜っと悴む手を温めながら賑やかな家族を横目に歩いていた。


「ほぉら、どの家もそうじゃないか。」


ぷくぅっと頬を膨らませた僕の膨れっ面をマスクがなんとか隠してくれている。さっさかさっさか、足速に通り過ぎた。


ぴたっ。僕は足を止めた。


「いらっしゃい。あらあら、よく来たねぇ。」


引き戸をカラカラと開けると、暖簾の向こうから着物姿の女性が慌てて出てきた。ハイカラな割烹着から手ぬぐいを出し、僕を出迎えながら手を拭いた。女性は、この商店の店主だ。母親と親しく、お使いを頼まれた時は決まってここに来る。


「あの…。お使いで…。」


あまり人と関わることが得意ではない僕にとっては、こういったやりとりはできるだけ避けたい。


「あ〜!この時期ってことは、アレね!」


店主は察しが良くて助かる。この女性は僕が生まれた時から近くにいる。母親と買い物に行く時は決まってここなので、いつの間にか僕の生活に馴染んでいた。「毎度あり、気をつけてね」手をひらひらとふり、笑顔で見送ってくれた。僕は不器用ながらもいつも助けてもらっているので、ぺこっとお辞儀をした。ふうっと溜め息をつくと顔を上げ、風呂敷を胸の前に抱えて歩き始めた。

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