幕間 初めての弟子


 揚げたてのサクサクの衣に、ホクホクの潰した豆と塩気の強いチーズ。

 たくさん揚げられたはずのエンドウ豆のクロケットはすぐになくなってしまった。

 明日のお昼に回されるはずだった分も二人の腹にすっかり収まり、食後の茶を喫しながらアロイシウスがおもむろに口を開いた。


「精霊と契約した今、お前を島の住人の里子に出すわけにはいかなくなった。不本意だが、契約を仲立ちした手前、俺の弟子ということになる」

「弟子!」

「やけに嬉しそうだな」

「そりゃもう。お役に立てるわけですから。お師匠さまって呼んでいいですか?」


 リィシェは「弟子」という言葉にあからさまに目を輝かせた。期待した目で見つめられては、断ることもできなかった。


「……好きにしろ」


 ウキウキと「お師匠さま」と繰り返す様子を、アロイシウスは内心複雑そうに見つめた。アロイシウスが一人前になってから長いことたつが、その間弟子を取ったことはない。リィシェが初めての弟子になる。


(まあ、なんとかなる。……なるといいが)


 精霊士にはなにかと決まりごとが多い。

 精霊士の同伴なく精霊の森に足を踏み入れてはならない。

 みだりに精霊に契約を持ちかけてはならない。

 契約していない精霊の力を行使してはならない。

 なにより、命を精霊の贄としてはならない。

 知らなかったとはいえ、今日一日で精霊士の掟の数々を破った少女に、アロイシウスは胃薬の増産を検討するとともに、少しの懐かしさを覚えた。


「明日から、何をするんですか? 私も師匠みたいに精霊病を治せるようになりますか? あの、あったかくてキラキラーってした魔法みたいなの!」


 リィシェは精霊術を魔法か何かのように勘違いしているが、なんでもできるわけではない。

 温かく感じたのは石化が解けて血が通い出したからというだけのことだ。キラキラ、はよくわからないが、おそらく助けられたという認識によって治療中の記憶が美化されているのだろう。

 アロイシウスはそう思ったが、夢を壊すようなことはしなかった。

 弟子にしたからには、最低限の掟や技術を身につけさせる義務が発生する。本人のやる気はあったほうがいい。


「……マア、そのうちな。とりあえず、家事はリィシェに任せる」

「はい!」


 ついでに、リィシェがやりたがっていた家事を押しつけた。

 これで多分、リィシェの気持ちは保つだろう。

 そしてアロイシウスは座したまま美味い食事にありつける上に、精霊病の研究に割ける時間が増える。

 教導に割く時間とトントンかもしれないが、嬉しそうに食器を片付けているリィシェを見ると、悪くはないように思えるのだ。


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