エレーヌ・スミス【零】
ここは”ドワーフ族”の集落。
幼き頃に”堕天使”側との大戦で両親を亡くし、”ドワーフ族”の集落でも卓越した技術を持ち、度量の大きい鍛冶職人の親方に引き取られたエレーヌ。
「おい! エレーヌ! 何度言ったら分かるんだ!? 女が作業場に来るんじゃねぇよ!」
「なんだと!? 女だからって作業場に来たらダメな理由はなんだよ!?」
エレーヌを引き取った親方のもとには、親方を尊敬して集まった若い”ドワーフ族”の男たちが日々、親方の作業場で己の技術を磨いていた。
”ドワーフ族”は基本、男女、関係なく職人気質な者が多いが、鍛冶に関しては女が作業場に入ることを禁じられていた。
人殺しの武器製造に関しては、女の仕事ではなく男の仕事だと、昔気質な”ドワーフ族”ならではの考えだ。
「わりぃな。勘弁してやってくれねぇか? 俺の育て方が悪かったんだ」
「ジェレミー親方。いや、親方が悪いという訳では……」
幼いエレーヌの親代わりをしているのは、度量が大きく気前も良い、集落の皆からの信頼も厚い”ドワーフ族”で1番の鍛冶職人、ジェレミー・スミスだ。
怪訝そうな眼差しを向ける、若い”ドワーフ族”の男たちを無視して夢中になって作業に取り掛かるエレーヌ。そんなエレーヌの頭を優しくジェレミーは撫でる。
「エレーヌ。作業場の出入りも今度の大会までだぞ? まぐれで”ヴァルカンメイス”をお前が手にする事ができるかも知れねぇ。そうなれば、若い衆も納得するだろう」
”ドワーフ族”の集落では、1週間後に”ドワーフ族”の宝棍棒”ヴァルカンメイス”の正式な所有者を決める大会が開かれる。先の大戦で”ヴァルカンメイス”の所有者が戦死したためだ。その”ヴァルカンメイス”の所有者はエレーヌの実の父親だった。
もちろん”ドワーフ族”の宝棍棒”ヴァルカンメイス”は皆が手に入れたい。
皆が1週間後に開かれる鍛冶のコンテストに向けて、鍛冶の腕を磨いていた。
本来であればジェレミーが正式な”ヴァルカンメイス”の所有者になるはずだったが「もう俺は歳だ。老いぼれの俺が持っていても、本来の武器としての意味がない」という理由で”ヴァルカンメイス”の所有権を拒否した。
そのため、村の長は”ヴァルカンメイス”の所有者はこの集落で若く、1番の腕前を持つ者に託すと提案した。
「エレーヌ。まだ、そんな古い方法に頼っているのか? 時代は
エレーヌのライバルである少女は、より効率的に敵を
「ふん! そんなモノに頼っていてはダメになる。やはり人が使う武器は、人に合わせたモノでなくてはな」
「……。まぁ、いい。今度の”ヴァルカンメイス”の所有者を巡る大会で、集落の者たちも私の作るこの機械式の武器に感動し、私に”ヴァルカンメイス”を預けるだろう」
「おうよ。どっちが正式に認められるか勝負だな」
———大会日
「クソッ! 流石、親方の娘だぜ! エレーヌとあのカラクリ娘の一騎打ちじゃねぇか!」
結局、若い”ドワーフ族”の男たちは皆、エレーヌと機械の武器の製造を得意とするエレーヌのライバルの少女に鍛冶の腕前で敗れ、エレーヌとライバルの一騎打ちとなった。
各々が技術を存分に出し切り、結果発表の時。
皆が
「”ドワーフ族”の宝棍棒”ヴァルカンメイス”の正式な所有者は……。エレーヌ・スミスとする」
まず、ジェレミー親方がエレーヌを褒め称え抱きしめる。親方に仕えエレーヌに文句を言っていた連中も流石に文句は言えず、称賛の拍手をエレーヌに送る。
……1人、目に憎悪を宿して、その場を無言で去った者がいた。
———その日の夜中
皆がエレーヌを褒め称え、集落の酒場で祝杯を挙げていた。
エレーヌはまだ幼い。眠い目を擦りながら、皆からの祝福の言葉を受け取っていた。
ドドドドドドドドドドッ!!
突如、酒場に弾丸が撃ち込まれた。
突然の出来事で何名かの”ドワーフ族”は即死、残った者は机を盾にした。
エレーヌも間一髪のところでジェレミーに助けられ、机を盾に守られている。
「新しいモノを取り入れない無能のクズ共め。皆、死んでしまえ」
聞き覚えのある声。エレーヌのライバルの少女だ。
多数の機械兵を従えて、無防備の”ドワーフ族”に攻撃を仕掛けてくる。
何名かの若い”ドワーフ族”の男たちが、各々武器を手に取り応戦に向かうが機械兵に無惨にも銃弾をあびせられる。
「おい!! 皆、動くんじゃねぇ!!」
そう叫び、認めたくはないが明らかに戦闘能力が桁違いの機械兵相手に無駄死には許さないと、ジェレミーは皆に訴えた。
「エレーヌ。”ヴァルカンメイス”を貸してくれ」
幼いエレーヌには鍛冶経験は豊富だが戦闘経験が無い。
ジェレミーの言う通り、戦利品である”ヴァルカンメイス”を渡した。
ジェレミーは”ヴァルカンメイス”を巨大化させると、単騎で機械兵相手に鬼神の
幼きエレーヌは、機械兵から少し離れた場所にいた少女に目を向けた。
少女は不気味に口角を上げている。何か企んでいる時の顔だ。
「親父!! みんな!! 逃げろ!!」
エレーヌの叫びも
その爆発範囲は広く、破壊力も半端ではなかった。
辺りが炎の海となる中、何故かエレーヌだけは助かった。
エレーヌに覆いかぶさるようにして、仁王立ちをしている”ドワーフ族”の男。
ジェレミーだ。
「親父!! 親父!!」
「おう、エレーヌ。これ返す……ぜ。この先、何があっても強く生きろ……よ」
そう言ってジェレミーは”ヴァルカンメイス”をエレーヌに手渡すと、仁王立ちのまま息を引き取った。
怒りに震えるエレーヌは”ヴァルカンメイス”を手に取り、周囲の気配を探った。
どうやら爆発に乗じて、主犯の少女は逃げたようだ。
涙を豪快に腕で拭うと、エレーヌの瞳の色がローズクオーツのような甘いピンク色から、鮮やかなピンク色に輝きだす。
そして”ヴァルカンメイス”を
「絶対に許さん! お前がバカにした”ドワーフ族”の伝統で、お前を殺してやる!」
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