第0話 "零"

ソフィア・レオンハート【零】

 ここは”アレクサンドロス”内の貧しい村。

 

 ”小人族”の村。


 ”小人族”は他種族に比べ、”エルフ族”のように戦士になる者もおらず、”ドワーフ族”のように生活に欠かせないモノを生成する者をいない。”天使族”、”妖精族”と比べてもそうだ。


 特筆すべき能力を持つ者がおらず、貧しい生活をいられていた。


 しかし、”小人族”にはどの種族よりも優れた、人情にも似た感情があった。


 困っている者には、己を犠牲にしてでも助けにいく。

 みんなで助け合って生きていく。


 確かに身体的な能力では他種族に圧倒的に劣るが、ある意味では他種族よりも1番優れた能力を持っていると言っても良い。



 そんな”小人族”の村に1人の”エルフ族”の幼い少女がいた。



「おっちゃん。また貴族の屋敷から、食料を盗んできたったでー」


「ソフィア。盗みはあかんで。ほんま、何回言わすねん」


「えー。でも長老はんが、皆で助け合って生きていこうって言うてたで? 貴族なんて、独り占めしとるだけやん。やから、こうでもせな助け合いにならんがな」


「はー。まぁ、ええわ。これでみんな当分、食事には困らんわ。ありがとうな」



 ソフィアと言われる幼い少女は、まだ言葉も話せるようになる前、両親に捨てられた。決して許されることではないが、微塵みじんほどは親心でもあったのだろうか。1番面倒見の良く、温厚な種族である”小人族”の村の前にソフィアを捨てた。


 ”小人族”は貧しい暮らしをしていたが、村の入り口に捨てられていた”エルフ族”の赤ん坊を放って置くことはできず、皆で協力をしてソフィアを育て上げた。



「レオンハートはん。今日も特訓、頼むわ」


「えー。もうソフィアの方が強いやんけー」


 

 ソフィアは幼い頃から、”小人族”の村で1番の剣豪であったルイ・レオンハートに剣術を習っていた。


 自分は”エルフ族”でありながらも、親に捨てられたため”小人族”の皆が自分を育ててくれた。


 ソフィアは物心ついた時から、絶対に将軍の地位に就いて”小人族”の皆の生活を豊かにしようと決意していた。


 ソフィアの才能はすぐ開花し、王都”アレクサンダー”でも、その名前は有名になっていた。王都で英才教育をソフィアにしようと、王都から何度もしつこく勧誘が来たが、自分を育ててくれた”小人族”を見捨てることなどできない、勧誘するなら将軍の地位を寄こせとソフィア本人が断り続けていた。



玖の舞きゅうのまい睡蓮華すいれんげ!!」


「あ、あかん。おっちゃん、もう降参やわ」


「えー?」



 剣を置くとソフィアは貴族の屋敷から盗んできた、肉とパンをルイに剣術のお礼として渡した。



「悪いなぁ。ソフィア」


「ええて、ええて。助け合いやんか」


「俺の娘もソフィアみたいやったら良かったんやけどな……」


「まだ、行方知れずなん?」


「はは。まぁ、そのうちに帰ってくるやろ」



 今日もソフィアは違う貴族の屋敷に侵入し、食料を沢山盗み”小人族”の村へと帰ってきた。”小人族”の村にソフィアが着くと、村の男性がソフィアのもとに血相を変えて走ってきた。



「おお。どうしたん? そんな慌てて」


「ソフィア、ソフィア……。ルイさんが……」



 食料を男性にすべて預け、いつも世話になっているルイの家に全速力で向かうソフィア。ルイの家の周りにはたくさんの”小人族”。



「ちょっ、ちょっと、ごめんな……。って、はぁ!?」


 

 ルイ・レオンハートは何者かに無惨にも斬殺されていた。溢れ出してくる涙を必死にこらえ、ルイに付けられた傷跡を冷静に見るソフィア。


 間違いない。ソフィアの使う技、ルイ・レオンハートの技によるモノだった。




———数年前



「ソフィア。教えといてアレなんやけど、この剣技は少し呪われとってな……」


「なんやねん? 娘にも同じ技を教えたおっちゃんの言う事かいな? この技、使えるのは私と娘だけなんやろ?」


「はははっ。そうやで。あいつは俺よりも技をマスターしよってからにな、”小人族”でありながら助け合いなんかくだらんとか言いよって、村を勝手に出て行きよったわ」


「そうか。まぁ、いつか帰ってくるて」


「話がそれてもうたな。めっちゃ昔の話なんやけどな、この技の正式な伝承者になるにはな……」



———



「ソフィア……。大丈夫か?」


「……や」


「え?」


「私は今日から”ソフィア・レオンハート”や」



 ソフィアが”小人族”の村に捨てられた日。村の入り口に置かれたカゴには、赤ん坊のソフィアと共に1枚の紙だけ入っていた。紙には”ソフィア”と書かれていただけ。ソフィアを拾った”小人族”の女性は、この子の名前だと思った。名字を書かなかったのは、両親の身元がバレる危険があったからだ。


 そこからソフィアは名字無しで、ソフィアという名前だけで育ってきた。


 ソフィアがこの時、名字をレオンハートにしたのには理由がある。



 ”正式な伝承者になるには、師匠を殺さなあかん。そんな狂ったことをする奴は、いまはおらんがな”


 

 ソフィアは直感した。ルイを殺した狂った者はルイの娘だと。


 そして自分がルイの名字であるレオンハートを名乗る事で、きっと娘は自分に目を付けるだろうと。

 

 ソフィアはそのとき復讐を誓い、瞳の色は薄い紫色からアメジストのように輝きを強く放つ濃い紫色へと変わった。 





「クソガキがぁ。いつでも殺しに来いや。この”ソフィア・レオンハート”が相手や」







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