11-11 さようなら。大切なみんな。

 楓花の必死の説得もあり、何とか屋敷に戻ることが許されたリリアーヌ。

 ソフィアもきちんと日本5週をし、途中鴉鼓の彼女探しもして屋敷に戻ることが許された。ダイエットにも成功し、元の美少女に戻った。



 誰もが引くほど落ち込んでいたクロエ。


 かぐやは、ほっておけと皆に言ったが流石には活躍していたかいもあってか、クロエをほっとけない楓花を始めリュカ、エマ、轟の献身的な心のサポートもあり少しずつ元気になった。


 

 今日は夏休み最終日ということもあり皆で、屋敷の庭園でバーベキューだ。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、最後に庭で花火大会をすることになった。


 花火大会も終わった頃。


「余は帰るぞよ。楓花、世話になったの」


 かぐや突然の別れ宣言。楓花は戸惑いを隠せなかった。


「”堕天使”の親玉も討ち取ったことじゃ。もう、この世界にはおらん気しかせんのじゃ。当初の目的の刀の修復も終わった事じゃ。余は元の世界でやることがあるのでな」


「あー。私もいいか? 楓花」


 かぐやに次いで言い出したのは、エレーヌだ。楓花に次いでリュカも戸惑う。


「いや、別にこの世界にいてもいいのだが……。私も向こうの世界でやり残した事があってな。急にこちらの世界に来たものでやり残しているのだ」


 楓花もリュカも戸惑いを隠せない。

 その中で、楓花のそでが小さな手でクイクイと引っ張られる。


 楓花はもういまにも、目から涙が零れ落ちそうだ。


「あ、あのー。楓花氏。私も帰らなければいけない……かも」


 リリアーヌだ。

 リリアーヌは一応、異世界の神王の娘。

 どういう訳があってそんな大事な娘が、この世界に送られてきたのかは不明だが。


 異世界の神王の娘が、いつまでも別世界にいる訳にはいかない。


 頭をポリポリと掻きながらソフィアも口を開く。


「みんな帰るんなら、私も帰らなあかんな。ごめんな、楓花」


 楓花はその場で膝をつき、顔を両手で覆い泣き崩れている。

 リュカも静かに涙を拭い、エマは涙を絶え間なく流している。


 そんな楓花を後ろから優しく抱きしめる人物がいた。

 


———クロエだ



「私は帰りませんわ。楓花がおばあちゃんになって、天国に行くまでいますわ」


「え? クロエちゃん? ウソでしょ? クロエちゃん、異世界の”ベアトリクス”なんでしょ?」


「もういりませんわ。”ベアトリクス”」


 クロエ以外の将軍4人共、呆れたという顔をしながらも、どこか嬉しそうにクロエと楓花を見守っている。


「せやな。私が”ベアトリクス”したるわ。楓花にはクロエ、いや、クロエには楓花が必要やわ。ここにいる、誰よりもな」


「そうだ! こんな厄介者は楓花が面倒を見てやれよ!」


「ツケはきちんと次元を超えてでも、送るんじゃぞ。クロエ」


「楓花氏。うぐっ。楓花氏のことは一生忘れないよ」


「うっさいですわ! みんな、さっさと行きますの!」






———別れの時




 別れを惜しむのは時間の無駄だと言ったかぐやが、鞘から刀を静かに抜き次元の穴のようなものを作り出す。


 本当にやりやがった……という言葉が、かぐやを除く将軍たちの頭の中に浮かぶ。


「湿っぽいのは嫌いじゃ。余から行くぞ。さらばじゃ、楓花、リュカ、エマ」


 次元の穴に入ろうとするかぐや、そしてそれに次いで入ろうとする将軍たち。





『……さらばですわ、


 それだけ思うとクロエは皆を見送る事もせず、楓花達も庭に残して日課である一番風呂へと向かった。



 クロエは最後の最後まで、ブレる事なく真っ黒だった。

 そこだけは見事だとしか言いようがなかった。









『騎士令嬢降臨!』完



———










 次元の穴に最初に入ったかぐやを筆頭に、全員が次元の穴から弾かれる。


 全員の頭の上に大きな疑問符が浮かぶ。


 かぐやが2刀同時に抜き、次元の穴に突き刺す。

 どうやら、かなり強力な結界術が張られているようだ。


「おい。どういうつもりかえ? 清明きよあかりよ」


 かぐやの問いかけに、穴の向こう側から女性の声が聞こえる。


「”かぐや様。これには訳があるのです。どうか、訳は聞かずそちらの世界にしばらく滞在してください”」


「訳を聞くなじゃ? 清明、其方の”陰陽術おんみょうじゅつ”など力づくで解いても良いのじゃぞ? ”同族”とは言え、容赦はせんぞよ?」


「”……かぐや様。誰かに聞かれるとマズいです。お耳を少し拝借、致します”」


 次元の穴の中からお札のようなものが飛んできて、かぐやの耳に貼り付いた。

 どうやらかぐやは、この次元の穴に結界を張った人物と話しているようだ。


 誰の耳にも会話の内容は聞こえてこないが、かぐやの表情が徐々に殺気に満ちたモノに変わっていく。かぐやが、こんな表情をしたのは鳳来戦以来だ。


 やがて、かぐやの耳に貼り付いていたお札は取れた。

 それと同時にかぐやの方から次元の穴を塞ぐ。


「其方ら、聞くがよい。余たちは、あちらの世界には帰れんくなった。詳しい話はあとじゃ。まずは改めて挨拶せんとな」


 皆が唖然とする中、かぐやは楓花のもとに行く。



「楓花よ。寂しい思いをさせたあとで申し上げにくいのじゃが、もうしばらく世話になってもええかのう?」


 かぐやが帰れないのなら、他の将軍も帰る手段がない。

 各々が楓花に謝罪をし、もうしばらく世話になると告げる。



 楓花は満面の笑みで答える。




「良かった。これで私の大切な異世界のお友達が、5人のまんまだね」











———次話、【第0話】公開




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