11-9 人々の想い、そして……

 どんどん刀が鞘から浮かび上がってくる。

 それを見てかぐやは刀を持ち鞘に戻るように力を込めるが、確実に少しずつ刀は浮かび上がってくる。


 鳳来はこの危機的状況下で、力を覚醒し始めているのだろうか。


 先程から、かぐやのこの一連の動作の頻度は多くなっている。


 エレーヌ、リュカも無駄だと思ってはいるが、城門を必死に押している。



———!?



 突如、かぐやがこの一面、暗闇に覆われた空間に大穴を開ける。

 その動作の隙をつき、更に鳳来が城門に力をいれ城門は開かれていく。


「おい! かぐや、なに考えている!」


「かぐやさん……。もう限界が……」


 焦る2人に対して、かぐやは不敵な笑みを浮かべる。


「安心せえ。小童はともかく周りの状況を探れんとは。エレーヌはあとで説教じゃ」


 突如、2人のいる城門付近に数十、いや百数人の男たちが集まる。


「間違いねぇ……。コイツだ。おい! みんな! コイツが孝雄の仇だ! リュカ、すまねぇ! 集めるのに、少しだけ時間がかかった!」


「滝川……? それに……」


「コイツら全員、孝雄に世話になった奴ばかりだ! どうしようもない連中だけどよぉ、孝雄のことをみんな心から尊敬している! で、どうすればいいんだリュカ! この門みたいなのを、みんなで押せばいいのか!?」


 リュカのアイコンタクトを受け、刀を持った状態で珍しくかぐやが大声を出す。


「小童共! そいつが其方らの宿敵じゃ! 皆、その城門の中におる邪鬼共は見えておろう! 邪鬼共に自分の寿命を差し出せ! 覚悟がある者のみで良いぞ!」


 リュカがかぐやの”寿命”という言葉を聞き、滝川を始め全員を止める。


「おい、滝川! みんな! やめろ! 聞こえただろ!? 命を無駄にするな!!」


 リュカの忠告も虚しく、全員が全員、邪鬼たちに向かって何かを念じている。

 その姿を見て、かぐやがリュカに声をかける。


「ほう。この世界の”人間族”には本当に驚かされるわ。皆、コイツを倒すためなら寿命を差し出すとな」


 滝川が声を荒げる。その叫びはリュカのみならず、エレーヌでさえ鳥肌が立つようだった。


「おい!! 聞こえたろ!! 孝雄の仇!! このクソ野郎をみんなで倒すんだ!! 寿命が尽きたら、みんなで孝雄に会いに行こうぜ!!」


 城門の中の邪鬼たちの力が、どんどん増していく。

 鳳来であっても問答無用で城門の内側に引きずり込まれる。


「て、てめぇら!! 1人残らず殺してやる!! 覚悟しとけよ!!」


 鳳来の最期の断末魔。


 皆はまったく鳳来に怯えた様子がなく、鳳来を仇としてまっすぐな目で睨みつける。皆からの怒号が一斉に鳳来に向けられる。


 皆の目に映った鳳来の最期の顔。それは恐怖に歪んだ顔だった。


 城門が完全に閉まり、それと同時に辺りは明るくなり巨大な城門は消える。


「けっ! 地獄に落ちやがれ! クソ野郎!」




 皆が力が抜けたように、その場にへたり込む。

 その様子を見たリュカが、かぐやに土下座をしながら頼み込む。


「頼む! コイツらの寿命、どうにかならないか!?」


 かぐやはリュカの様子を見ると、ため息交じりに口を開く。


「空色の小童、顔を上げよ。小童共から邪鬼共が取った寿命は、総計で400年くらいか……。うむ」


 かぐやは皆に向かって、何やら呪文を唱えだした。

 優しい光の幕が皆を覆う。皆、一斉に元気を取り戻したようだ。


「皆に余から寿命を返しておいたぞ。から担保として徴収した寿命じゃがな。そいつはだが力はある。自分で何とかするであろう」


「あ、ありがとう。ありがとう……(って、まさかクロ……)」


 リュカは更におこがましいと思いつつも、かぐやにもう1つお願いをする。


「かぐやさん。この力のことですが、封印をすることは可能ですか?」


 リュカの突然の申し出に驚いた表情を浮かべるかぐや。


「できぬことはない。が、空色の小童。其方は力を使いこなしておったであろう?」


「はい。今回はおかげで仇討ちができました。しかし、己の強さに快感を覚える場面もありました。強くなるのなら、自分の力で強くなりたいのです」


 真っ直ぐな目をして、かぐやに頼み込むリュカ。


 かぐやは楓花に続きリュカ、そして姉のエマ、この場で喜びを分かち合っている人間たち、全員に驚きつつもどこか心の中で嬉しくも思った。


「あい、分かった。、其方の力を再度、封印させてもらうぞよ」


 かぐやはリュカに刀を刺し、リュカの体の中にある鬼の力を封印した。




 リュカはすぐに滝川のもとに向かい、滝川とその仲間たちと喜びを分かち合った。リュカと滝川たちは、獅子島に報告をしに墓参りにこれから向かうらしい。



 かぐやはエレーヌに少しだけお灸を据えると、エレーヌと共に屋敷に戻り楓花と共の帰りを気長に待つことにした。




———墓前



 獅子島家と書かれた、孝雄の墓前には百数人の人間が集まっていた。

 皆、はたから見ればヤンチャな若者たちだが、皆が礼儀正しく仲間思いであった。


 皆を代表して最初に、孝雄の墓前で手を合わせるリュカ。




「”孝雄。やっつけたぞ。これで少しは天国でも安心して暮らせるか? 孝雄は僕の初めての友人で親友だ。たった1人のだった。だが孝雄、見てみろ。孝雄のおかげで、いまの僕の友人はこんなにも増えたぞ。本当にありがとうな”」







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