11-8 不死との我慢比べ

「ぜぇぜぇ。て、てめぇ……」


 鳳来は生きてはいるが、この時点でもうリュカにも殺されている。

 リュカは、まだ鳳来への攻撃を止めるつもりはない。


 鳳来の全身から黒炎が放たれる。

 リュカはその炎を自身の気迫だけで打ち消す。


 すかさず鳳来は謎だらけの渦巻く螺旋状の攻撃をリュカに放つ。

 が、リュカにその攻撃をされる。


「汚いな。こんなモノが貴様の攻撃のだったのか?」


 リュカの手から死骸となった、のような大量のむしが地面にボトボトと落とされる。



———戦いの次元が違い過ぎる



 リュカはすかさず鳳来の頭を掴み、物凄い速度で上空に飛び上がる。


「孝雄を死なせたのは、こういった技か?」



 ”鴉丸からすま



 リュカに頭を掴まれて動けないまま突如、出現したおびただしい数の巨大な鴉に体をむしばまれていく。鳳来の技の習性から、螺旋状の謎の攻撃の正体は大群のコバエのような蟲によるものだったため、リュカはそれを模倣した。


「そして、孝雄の幼馴染の滝川。俺のまえで屋上から落としたよな?」


 リュカは巨大な鴉に体をむしばまれ虫の息になっている鳳来の体を、上空から地面に向けて全力で投げつけた。


 地面に大穴ができる。鴉の攻撃で1回、地面に叩きつけられた攻撃で1回、ここまでで合計6回もリュカに殺される鳳来。


 体を再生させ立ち上がるが、すぐ上空から降りてきたリュカに体ごと地面に叩きつけられる。


「分かったか? これが貴様がこれまで楽しんで殺してきた者たちが感じた恐怖だ」


 苦悶の表情を浮かべながらリュカを薙ぎ払い、懲りずに攻撃を仕掛けるが逆にリュカの半端ない威力のカウンターを喰らい、の死。


「ガフッ! てめぇ……、不死の俺を殺すことなんてできねぇんだよ」


「……。俺もやり過ぎるとのでな、これ以上はの貴様をいたぶるのを止めたいのだが」


 鳳来はギリギリと歯ぎしりをしながら、逃げの姿勢をとる。


「ちっ。まだまだこの体へのが追い付いていないだけだ」


 諦めの悪い言葉を吐き捨て、逃げの姿勢をとる鳳来に心底軽蔑したといった眼差しを向けるリュカ。


「もういい。順応しようがしまいが、で終わりだ」


 リュカは鳳来に言葉を吐き捨てると、素早い身のこなしで鳳来から距離をとった。何が起きるのか分からないが、とにかく逃げようとする鳳来。


「この外道がぁ……。心底呆れたわぁ。もう終いじゃ」



 ”奥義、神無月かみなしづき鬼城きじょう鬼羅刹門おにらせつもん



 突如、グランド一帯が真っ暗闇となり、刀の鞘を地面に突き刺しているかぐやの前に、巨大な城門が出現する。


 かぐやが両刀の刀を鞘からゆっくりと上げるのに応じて、巨大な城門がゆっくりと開く。


 城門からは巨大な半透明の赤色の邪鬼たちが姿を現し、鳳来の体をその巨大な手で掴む。


 抵抗できずに邪鬼たちに城門の中に連れ込まれる鳳来。


「死ねぬのなら一生、邪鬼共に奴隷のように扱われるが良いわ」


 かぐやはそう言い残すと、今度は刀を鞘にゆっくりと納めていく。

 それに応じるように巨大な城門の門も閉まりだす。



 ?


 

「しつこいの。さっさと封印されれば良いのじゃ」


 かぐやの刀が鞘に納まりきる前にピタッと止まった。


 巨大な城門に手をかけ邪鬼たちに体を引っ張られながらも、耐え続ける鳳来。


 かぐやが更に力を込めるが、城門は閉まり切る寸前のところで止まっている。


 エレーヌとリュカがその城門のもとに向かい、力で城門を押そうとするがピクリともしない。かぐやはため息をつきながら話し出す。


「エレーヌ、小童。無駄じゃ。邪鬼共の好物は人間の心。エレーヌは”ドワーフ族”、小童は半分”鬼族”、余も言うまでもなかろう……。ここは鬱陶しいが我慢比べじゃ」


 かぐやの力の方向とは逆向きに、刀が少しづつ鞘から浮き上がってくる。


「ほう。鬱陶しさは”堕天の王”並みじゃ」


 鳳来が城門を自力でこじ開けてくる。邪鬼たちに体を掴まれているにも関わらず、流石に”堕天使”で”堕天の王”の右腕と言われるだけの力はある。先程、鳳来が言っていた、本当に”ベルゼブブ”が何らかの方法で鳳来という”少年”に乗り移り、力を取り戻そうとしているのなら厄介だ。


「おい! かぐや! どうにかならねぇのか!」


「かぐやさん! このままだと、このクソ野郎に殺される人間がまた出てしまう!」


「分かっておる。この場に邪鬼共の力になる人間でもおればな……」




 かぐやという強大な力のおかげで何とか、城門はギリギリを保っているが破られるのもかぐやを持ってしても時間の問題だ。かぐやに覚醒したリュカがいれば、いまの鳳来は敵ではないが、不死という点が厄介だ。


 我慢比べは、それほど長くは持たないだろうと誰もが思っていた。







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