11-7 【破滅の子】椿紅 鳳来
「はぁはぁ。俺とした事が、人間ごとき相手に1回死ぬとはな……」
血だらけになったリュカを目の前に、立ち尽くす鳳来。
リュカから受けた弾丸のせいで、まだ体の蘇生が巧くいっていないが、リュカは消しておかなければならない存在だと直感していた。
謎の螺旋状に渦巻く攻撃を仕掛ける鳳来。
もちろん全力だ。鳳来ともあろう者が、人間のリュカに恐怖していた。
全力の右ストレートを呼吸も浅く血だらけで倒れているリュカに放つ。
ッ!!
何者かに軽く攻撃を弾かれる。
その何者かをギリギリと歯ぎしりをしながら、睨みつける鳳来。
「其方の負けじゃ。不死など卑怯であろうぞ。其方は1回、この空色の小童に殺された。其方の方が弱いことが証明されてしもうたのう」
「夜叉姫……っ!」
突如鳳来の前に現れた、かぐやとエレーヌ。
エレーヌは必死にリュカの蘇生に当たっている。
「てめぇ!! その小僧をこっちに寄越せ!!」
!?
まるで何かの結界が張られているように、鳳来はかぐや、エレーヌのもとに近付けない。すかさず、黒炎を放つが強力な結界に弾かれる。
何もできず、
「おい。空色の小童、満足したかえ?」
意味不明な言葉を発するかぐやにエレーヌが反応する。
「お、おい! リュカはいま……。ッ!!」
血まみれのリュカが目を開く。
その目にはまだまだ戦い足りないといった意思が宿っている。
「まだだ。まだ殺し足りない……」
エレーヌであってもリュカの生命力に驚く。
かぐやに何かをされたのだろうが、ここまで強大な力を持つ者は”人間族”の中では初めて見る。
「ほう。奴は不死じゃ。本当のトドメは余に任せるのじゃ。だが……」
かぐやは血の色に染まった刀を鞘から抜く。
そしてその刀を、まさかの瀕死状態にあるリュカの体に突き刺す。
すぐにリュカの体は全快する。
そして瞳の色がかぐやの片目と同じく、ルビーのように赤く輝きを放つ。
「気が済むまで殺しまくればええ。奴に本当の恐怖というモノを植え付けるのじゃ」
リュカはかぐやの言葉を聞くと再び鳳来のもとに駆けて行った。
「さて。こっちはこっちで準備でもしておくかの……」
何が何だか分からないエレーヌが、かぐやを問い詰める。
かぐやは何やら呪文を念じつつも、エレーヌの質問に答える構えだ。
「お、おい! かぐや、どういう事だ! 私にはいまの状況がさっぱり分からん!」
「それは空色の小童か? それともあの”堕天の王”もどきか?」
「な!? りょ、両方だ!!」
将軍ともあろう者が情けないといった顔をしながら、エレーヌの質問に答える。
「空色の小童じゃが、あれには余の鬼の力を分け与えた。呪いを解くためにな。そこまでは、流石に分かっておろう?」
エレーヌは無言で頷く。
「問題は、あの空色の小童。鬼の力を持つにしては、少しばかり強力な力を持っておっての。己の力に自我が支配されぬよう、普段は3割くらいの力しか出せぬよう結界を張っておったのじゃ。だが、いましがた小童の鬼の力を全開放した。なに、危惧しておったが、あれほどの意思の強い者であれば大丈夫であろうぞ」
エレーヌは息を飲み込む。エレーヌでさえ逃げるのに苦労した、あの鳳来を1回は捨て身でも殺したリュカ。その力が普段の3割ほどだったとは。
「あと、あの”堕天の王”もどきじゃ。あれは”堕天使”のベルゼブブの化身じゃ」
「な!? ベルゼブブって言えば、”堕天の王”と共に太古の昔に滅んだはずだろう!!」
「そうじゃ。滅んだ。と、皆が思っておっただけじゃろう。余でも最近まで気付かなんだ。あれはベルゼブブであってベルゼブブではない。だから化身といったのじゃ。どういう原理かは知らんが、
エレーヌにはもう何が何だか分からなかった。が、かぐやも何やら呪文を念じるのに集中しだしたようで、もうエレーヌの質問には答えなかった。
2刀の鞘を地面に突き刺し、全身から禍々しいオーラを放っている。
「この死にぞこないがぁ!!」
一方的に攻撃を受ける鳳来。鳳来の攻撃も軽くリュカに躱される。
先程の”大天使ガブリエル”の弾丸よりもダメージ量は明らかに多い。
「それは俺のセリフだ。不死とは……卑怯者め」
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