11-6 捨て身の一撃

 パーカー男がリュカに反撃で、軽めの左ジャブを繰り出す。

 ジャブとはいえ、かなりの速度でいままでのリュカなら喰らっていただろう。


 左ジャブを避けると、リュカは右足で全力の回し蹴りをパーカー男に喰らわせる。リュカの身体能力の異常な上昇を危惧したのだろう。パーカー男は以前とは違い、リュカの回し蹴りを空中に飛んで避ける。


「貴様が人のいないグランドに現れたのは、ラッキーだ」


 そう言うとリュカはエレーヌから預かっていた、赤色の装飾がされた散乱銃を取り出し空中に浮きあがっているパーカー男に対して迷わず発砲した。



 ドゴーーーンッ!!



 空中はエレーヌの”ヴァルカンメイス”の一振りのような業火に包まれ、エレーヌが特殊弾と言っていた弾薬だろうか。知らない言語で描かれたコインのようなモノが無数に辺り一面に飛び散る。


「なるほど。少しだけ痛かったよ」


 パーカー男の体はコインが貫通して、血まみれになっておりパーカーもところどころ破れている。業火を手から放出した黒炎でかき消すと、リュカに対して右ストレートを繰り出してきた。


 リュカはバク転で攻撃を回避しながら、今度は黒色の装飾がされた短銃を一発だけパーカー男に向けて撃つ。


 パーカー男は短銃から放たれた弾の威力を見誤ったのか、避ける素振りを見せず体で弾を受ける。着弾した箇所からは血が噴き出しているが、以前と同じように痛がる素振りはない。


 またもや重火器による攻撃は、このパーカー男には無意味かとリュカが思った瞬間。


「ま、まさか……。クソッ!」


 短銃の弾を受けた場所を押え突如、苦しみだすパーカー男。


 見た目の破壊力からエレーヌの赤色の散乱銃の方が威力は格段にありそうだが、黒色の短銃の弾の方がパーカー男には効果があるようだ。


 それもそのはずだ。入手経路はエレーヌにも不明だが、この黒色の短銃。かぐやから受け取った伝説級の代物、”大天使ガブリエル”の鉱石で作られたモノだ。”悪魔”くらいならかすっただけで即死、”堕天使”でもモロに喰らえばダメージはかなりのモノだ。


 口から血を吐き苦しむパーカー男。着ていたパーカーを脱ぎ捨てる。


 リュカは初めて男の全貌を見た。


 歳はリュカと同じくらい。赤髪のミディアムヘアの全体に強めのパーマをかけている。顔つきは暴力的なまでに整っていて、両耳の大きめのゴールドのピアスが特徴的だ。そのピアスに負けないくらいに、トパーズのような黄金の瞳は凶悪な輝きを放っている。


「はぁはぁ……。なんでが存在してるんだよ」


 黒色のTシャツに開いた穴、自らの傷口に手を突っ込み強引に弾を取り出す少年。弾を取り出したことで、徐々に平常心を取り戻しているようだ。


「リュカ君。どこでコレを手に入れたの?」


「知らん。が、どうやら貴様にはこの弾丸が効くらしいな。もう大人しく死んでくれ」


 少年の黄金の瞳の輝きが増していく。


 辺り一面の小動物や鳥などが一斉に逃げ出す。

 リュカもいまの体を手に入れてからだこそ分かる。少年は禍々しいなんて言葉では表現できないくらいの、殺気に満ち溢れた凶悪そのもののオーラを放っている。


「あまり調子に乗んなよ。このゴミが……」


 まったく目で追えなかった。


 気付けばリュカの体は反射的に少年の攻撃を避けていたが、螺旋状に渦巻く謎の攻撃によって右足を激しく損傷する。


「ちっ! このバケモノめ!」


 リュカは回避行動をとりながら、散乱銃の弾を発射し、業火で目くらましをしたところで先程の短銃の弾丸を少年に放つ。


 少年はすぐさま業火を黒炎で相殺し、短銃の弾丸を避ける。


 先程までとは別人のような強さを見せる少年だが、短銃の弾丸は相変わらず嫌っているらしい。


 驚くことにリュカの激しく損傷した右足も、一瞬の内に見る見る内に回復していく。リュカもその少年も最早、常人の目には映らない速さで攻防を繰り広げているが、絶大な力を手にしたリュカであっても少年の方が一枚上手うわてだ。



 散乱銃の残弾数も短銃の残弾数も残り2発だ。



 リュカは残弾数が少ないにも関わらず、散乱銃の弾を続けざまに2連発する。

 

 凄まじい轟音と共に辺り一面が火の海となる。リュカは少年が黒炎で業火を相殺する前に捨て身で、自らその業火に飛び込む。そして、予想外の行動に驚いている少年の隙をついて短銃の弾丸を発射する。




———勝負はついた



 ”大天使ガブリエル”の弾丸をモロに喰らった少年だが、痛みに耐えリュカに渾身の1撃を喰らわせた。リュカの腹辺りを中心に螺旋状に深い切り傷が広がっている。


 流石にいまのリュカであっても、回復が間に合わない。リュカの異常な回復速度を戦いの中で見ていた少年は、リュカの頭に即座に片足を置く。


 少年の足からは渦巻き状の謎の物質が取り巻いている。倒れているリュカの頭に本気の例の螺旋状の攻撃を喰らわせる気だ。


「褒めてやるよ。そうだ、死ぬ前にお前を殺した者の名前くらいは教えてやるよ。鳳来ほうらいだ。椿紅 つばい 鳳来 ほうらい。お前とお前の友達を葬った者の名前だ。さて、そろそろ死ねよ……」



「この瞬間を。まともにやり合っても勝てないと思ったからな。僕がどうなろうと貴様だけは許さない。死ぬのは貴様だ。鳳来!!」



 バンッ!!



 完全に勝ったと思い油断して、リュカが絶対にまで鳳来を近付けるにはこうする他なかった。鳳来の自信過剰な性格を先の戦いと今の戦いで理解したリュカは、たとえ自分の体が犠牲になろうともこの瞬間を待っていた。




 リュカの放った”大天使ガブリエル”の弾丸は、鳳来の眉間を貫通し鳳来はその場で倒れた。


 





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