11-3 空色の復活

「コンコンッ」


 作業場の作業台で爆睡していたエレーヌが、突然のかぐや訪問に飛び起きる。


「もう! かぐや! 気配を消すクセ、どうにかならんのか!?」


「ほう。ならば、今度からは刀を抜いた状態でエレーヌに近付こうかのう」


「悪い。これまで通りでいいです……」


 エレーヌは体を作業台の上で起こすと、作業台から降りてかぐやに質問する。


「で? なんの用だ? まさか、また何か仕事の依頼に来たのではないだろうな?」


「エレーヌの”ヴァルカンメイス”。あれはもう修復したのかえ?」


 エレーヌは頭の上に大きな疑問符を浮かべながら、腰から”ヴァルカンメイス”を抜きそれをかぐやの目の前に置く。


「まだだよ。かぐやが建築に修復にと、次々と注文してくるから、これから修復に取り掛かるところだ」


「ほう。それは


 そう言うとかぐやは”ヴァルカンメイス”についた拳の跡に手を置き、何か呪文を唱えだした。エレーヌはかぐやが何をしているのか、さっぱり分からなかったが自分に危害を加えないことだけは分かった。


「やはり思った通りじゃ。これは”堕天の王”の仕業ではぞよ。良かったの」


「え? はぁ!? 余をしのぐ力は”堕天の王”だけじゃ、って言ってたじゃねぇか!」


「そうじゃ。最初はそう思ったのじゃ。だが、先程リュカの様子を再度確認しに行ったら、相手が本当に”堕天の王”だとしたら、この程度の呪いでは済まないと思ったのじゃ」


「はぁ!? じゃあ”堕天使”だって言うのかよ? 私でも逃げるのに苦労したぞ!」


「そう申したつもりじゃ。だが、普通の”堕天使”という訳でもなさそうじゃ。いまの余の敵ではがの。エレーヌにしては頑張ったと褒めてやってもよいぞよ」


 ギリギリと歯ぎしりをしながら、かぐやを睨むエレーヌ。だが、かぐやに殺気を向けられて、すぐにまん丸な目つきに変えた。


「余に考えがある。以前、リュカの事を教えてくれたじゃろう。この”堕天使”はリュカが仇を討ちたいに決まっておる。エレーヌよ。刀の修復は手を焼いたようじゃが、この手の武器は朝飯前じゃろ? リュカのために作ってやりなんし。これを置いておく」


 リュカの扱う武器はこの世界の重火器だ。かぐやの刀とは比べ物にならない程、簡単で改造くらいなら数時間でできる。それにかぐやから渡された武器の素材。


「お、おい。これは、”大天使ガブリエル”の鉱石じゃねぇか。こんなもんどうやって……。しかも、またリュカにアイツと戦わせるのか? 今度はただじゃ済まねぇぞ?」


 かぐやは”大天使ガブリエル”の鉱石の入手経路は、エレーヌには明かさなかったが不敵な笑みをエレーヌに向けて話し出す。


「空色の小童なら、以前の比にならないくらいの力を付けておるわ。ただの”堕天使”ごときの攻撃で瀕死などにはならん。それに余が近くから、空色の小童の戦いを見守っといてやるわ。エレーヌよ。其方は空色の小童の武器を、小童が目覚めてくるまでに完成させよ」


 驚きの情報だらけで頭の整理が追い付かないエレーヌであったが、かぐやの言うことが外れた事はこれまでに一度もない。かぐやの言葉に頷くと、リュカ専用に武器の改造に取り掛かった。


 かぐやはエレーヌの作業場でしばらく隅で大人しくしておくことにした。




———数時間後



 かぐやが突然、不敵な笑みを浮かべる。


「……ほう。やるもんじゃの」


 エレーヌは武器の改造に集中しており、かぐやの言葉が聞こえていなかった。




「はぁはぁ。僕はこれまでいったい……」


 自分のベッド横の床で、布団の中で眠りについているエマをすぐに見つける。


「エマちゃん……。そうか、ごめんね。心配かけて」


 エマを抱き上げエマの部屋に連れて行き、エマを自分のベッドに寝かせると、リュカは自分の体にいつの間にか想像を絶する力が宿っている事に気付く。


(……これはいったい。だが、あのパーカー男。孝雄たかおのみならず、孝雄を慕っていた者まで平気な顔して殺しやがった。絶対に許さん……)


 リュカがエマの部屋の窓際に手をかけ、外に飛び出そうとした瞬間。


 リュカの目の前に翼を羽ばたかせた何者かが姿を現した。

 リュカと面識のない着物を着た女性だが、リュカに普通に話をかけてきた。


「誰だ? いま、僕は忙しい……」


「命の恩人に口の利き方がなっておらぬの……。まぁ、良い。空色の小童、まずはエレーヌのもとに行きなんし。其方にピッタリな武器を用意して待っておるぞ」



 命の恩人という言葉に多少、身に覚えがあったが女性はリュカが質問をする前に姿を消していた。リュカはエレーヌのもとにはやる気持ちを押え向かう事にした。



 エレーヌの部屋のドアを開けるなり、エレーヌは大粒の涙を流しながらリュカを抱きしめた。基本、エマ以外の女性嫌いなリュカだが、このときばかりは心の底から嬉しかった。



「エレーヌ。ただいま」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る