10-8 覚醒の初期段階
「くくくっ。雑魚すぎだぜ。天女の世代よ……」
血だらけになって倒れ込んでいるソフィアに、槍にもたれかかって肩で息をしているリリアーヌ。相当の激戦を繰り広げたのだろう。ムルムルも無傷という訳ではなく、着ていた甲冑がボロボロに傷ついている。
だが、2人に対してムルムルはまだ大剣をブンブンと振り回せる程、元気だ。
まず手始めにソフィアを始末しようとソフィアのもとに近付くムルムル。その行先を、槍にもたれかかっているのがやっとのリリアーヌが阻止する。
「邪魔だよ? チビ……」
”
突如、背後から飛んできたクロエの突きに大剣でガードする構えをするムルムル。大剣ごとクロエの突きに体を背後に押される。突きの威力は収まることを知らず、大剣にピシピシと不穏な音がしている事に気付いたムルムルは、すぐさま大剣を引っ込めて攻撃を躱す。
凄まじい土煙の中には、ペリドットのように緑色に輝く2つの明かりだけ。
土煙から緑色の明かりが急に消えたと思ったら、今度はムルムルの背後から静かな声が聞こえる。
”
ムルムルは大剣で応戦するが、クロエの動きが速すぎて目で追えない。
大剣を大きく横に振りクロエを自身の体から引き剥がす。
「ちっ。大物登場かよ。しかも覚醒した状態でよ……」
「あなたは終わりです。実際、私の武器がこの
ギュアアアアアーッ!!
クロエの死角をつくように、ムルムルの右腕”魔獣”の”グリフォン”がクロエに牙をむく。クロエはため息をつきながら、カルンウェナンを構える。
「私はこの剣技を嫌っているのですが、
そう言いながらクロエはカルンウェナンを、いつもの
「
普段のクロエなら、この技は意識は保っていられるが、体のリミッターを無理矢理に外して発動させる技であるため、体の制御が効かず相手が息を引き取った後も攻撃は続行されるのだが……。
いまのクロエには、意識どころか体の制御も完全にできる。物凄い速さで切り刻まれていく、”グリフォン”の体。あっという間に”グリフォン”はただの肉塊へと形を変えた。
「さて。次はあなたの番ですね。どのように切り刻んであげましょうか?」
ムルムルは咄嗟にリリアーヌを押しのけ、血だらけで倒れているソフィアの体を掴み盾とした。決してこれまで”緑色の瞳”のクロエは怒りを
大剣をソフィアの首元に当て、クロエに脅しをかけるムルムル。
「お、おい。クロエ・エヴァンス! すぐにその覚醒状態を解かないと、この女の命はないぞ! 脅しじゃない! 俺もお前に殺されるだろうが、その前にこの女は必ず殺す!」
全身血だらけで、呼吸も整っていないソフィアがクロエに話かける。ムルムルにも、もちろん聞こえるように。
「アホか。クロエ、すぐにこいつを殺せ。私もこれでも将軍や。とっくに死ぬ覚悟くらいできとるわ。おい? ムルムル。なんなら、私がお前の代わりやったろか?」
ソフィアはそう言い終えると、自身に向けられているムルムルの大剣を自分の首元に押さえつけだした。ソフィアの首元からは血が噴き出してくる。
「ク、クソ野郎! なに勝手に、自害しようとしてんだ!」
「ごめんなさい。ソフィア」
”
「……?? こ、この、アホ……」
クロエがどういった技を放ったのかは分からないが、間違いなくソフィアは眠るように気を失った。大剣を自らに押し付けてできたソフィアの傷も、”エルフ族”の将軍ソフィアであれば大事には至らないだろう。
「
静かな物言いで、殺気も威圧感もないクロエだが、何故かムルムルはこのままでは本当にクロエに何をされるか分からないと怯え、悔しがりながらソフィアを解放した。
その姿を見たクロエも瞳の色がペリドットのような緑色から、いつものサファイアのような青色に戻る。
「こ、これで
「何を言っていますの? ムルムル、お前の負け確ですわ。あと……」
クロエの全身から、先程までは一切なかった殺気と禍々しいオーラが放たれる。
「私の名前はクロエ・ベアトリクスですわ!! 覚えとけ!! バカ者!!」
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