10-6 ”堕天使”攻撃の本格化

———テントサイド



 クロエが湖畔にいなかった事を確認して、元のバーベキューをしていた場所に戻る楓花とソフィア。リリアーヌが肉や魚が焦げないように丁寧に食材を焼いている。


「リル、1人にさせてすまんな」


「ううん。ソフィアさん、クロエさんは?」


「ああ。クロエは現地調達にでも出かけているんやろ」


 少し元気のない楓花の頭を優しく撫でて、楓花に笑顔を向けるソフィア。

 ソフィアの優しい笑顔を見て、楓花は少しだけ元気な笑顔を作る。



 ッ!!



「楓花氏、ソフィアさん、危ない!!」


 突然、2本の槍を出現させ楓花、ソフィアの背後から飛んでくる斬撃を槍でガードするリリアーヌ。テントサイド付近以外は真っ暗で視界が定まらないが、どうやら暗闇の中から何者かが2人に対して飛ぶ斬撃の攻撃を仕掛けてきたのは確かだ。


 斬撃の威力に、槍ごと小さい体を後ろに吹き飛ばされるリリアーヌ。

 楓花を守る事を決意しているリリアーヌ。普段の逃げ腰とは違い、きちんと騎士の役目を果たそうとしている覚醒状態のリリアーヌを吹き飛ばすとは。


 その様子を見て、只者の仕業ではないとすぐにエクスカリバーを抜くソフィア。

 一向に姿を見せない斬撃を飛ばしてきた主に大声を荒げる。


「おい!! どこの誰かは知らんけど姿を現さんか!!」



 クッ!!



 今度はソフィアたちの頭上から、斬撃が飛んでくる。リリアーヌの槍とソフィアの玖の舞きゅうのまい睡蓮すいれんで二重にガードするが、斬撃の攻撃力が強すぎてリリアーヌは再度、体を吹き飛ばされソフィアの鉄壁のガード、睡蓮すいれんの水の層でできた花びらは粉々に割られていく。


(ちっ。この強さ……、”堕天使”か? クロエに弐龍、何してんねん。クロエはともかく弐龍は楓花の警戒に当たってたんちゃうんか……)


 もちろんソフィアたちはクロエたちはクロエたちで、かなりマズい状況下にある事を知らない。クロエたちも現在、戦っている最中なのだ。


 リリアーヌは起き上がり、すぐさま天空に向けて赤一色の槍を投げる。光の速さで飛んでいく槍だが、手応えはなくリリアーヌのもとに戻って来る。


「ソフィアさん、これはかなりマズい状況だよ」


「ああ。これはマズいな」


 ソフィアは自身の体で包み込むように楓花の体を守っている。ソフィア自身、楓花を守る事が最優先されるので、攻撃はリリアーヌに任せているがリリアーヌをもってしても苦戦は必至だ。


 リリアーヌは”㊙リリアーヌ専用技”と書かれたメモ帳を取り出し、何やら出す技を吟味している。そして、これしかないとメモを閉じると2本の槍を天に向けて合わせる。


「アマテラス・零!!」


 これはメドゥーサの技を見て覚えた技だ。メドゥーサのように体から発光する訳ではないが、2本の槍が眩い光を放ち出す。テントサイドの辺り一面が昼間のように明るくなる。


「そこか!! 逃がすか!!」


 リリアーヌが高速で空を飛び回る動物を目で捉え、その動物の行先を予測して赤一色の槍を光速で投げた。


「いけっ!! グングニル!!」


 槍は確実に空を飛び回る動物を捉えていたが、それにまたがっている者がその槍を大剣でガードする。リリアーヌの父親、神王から授かった神の槍”グングニル”がガードされるところを初めて見たリリアーヌ。少しだけ冷や汗をかく。


 が、すぐさま自慢の身体能力を活かして、上空高くまでジャンプして今度は黒一色の槍で動物に跨っている者に攻撃を仕掛ける。


「一閃!! アキレウス!!」


 リリアーヌの大きな槍の横振りは、又しても大剣で軽くガードされるが動物の翼には直撃し、一旦その動物は叫び声をあげながら地上に降り立つ。


 動物は馬のような体に大鷲の翼が生えており、顔は鷹のようだ。


 そう神話の動物、”グリフォン”だ。


 ソフィア、リリアーヌはグリフォンに跨る者の姿も確認する。


「あっ。お前! あん時の経営者やないか!」


 ソフィアが驚いた表情を浮かべながら、グリフォンに跨る者を指差す。

 青色の髪色、アップバンクの髪型、きちんとした身なり。


 昼間、クロエ、ソフィア、弐龍が会った青木というキャンプ場の経営者だ。


 青木は昼間とは様子が違い、甲冑で身を包み青色に輝く大剣を背負っている。

 雰囲気も”堕天使”独特の、強大な禍々しい威圧感を醸し出している。


(ちっ。なんで、あん時に気付かんかったんや。私ら3人の目を完全に誤魔化すとこから、やはり”堕天使”は余程の実力者か……。コイツが経営者を名乗ってここにおったという事は、弐龍、それにクロエ。2人も何かしらの事件に巻き込まれとるかもな……)


 

 ソフィア、リリアーヌと青木の睨み合いの中、殺気と禍々しい空気に耐え切れないのか、普通の人間である楓花はソフィアの体にしがみつき、ガタガタと体を震わせている。


(あかんな……。楓花を守りながらやと、攻撃がリリアーヌ任せになってまう。リリアーヌだけでも余裕やと思っとたけど、完全に”堕天使”の力を見誤ったわ)



 膠着状態こうちゃくじょうたいが続く中、1台の車が両者の間にドリフトをしながら強引に割って入る。車の助手席が強引に開くと、中から運転席に座っていた轟がソフィアに大声をあげる。


「ソフィアさん!! 早く楓花様を車の中へ!! 俺は楓花様を連れて全力で逃げます!! 俺には楓花様を守れる力はねぇけど、鍛え続けたドライビングテクニックがある!! 楓花様を必ず遠くまで逃がします!! その代わり、よく分からない化物たちの相手は任せましたよ!!」


 ソフィアは咄嗟に震える楓花を抱きかかえ、楓花を助手席に乗せシートベルトを無理矢理つけさせる。轟はそれを確認すると、卓越した運転技術で猛スピードでその場を去る。


 すぐさま青木は轟の車に、大剣で飛ぶ斬撃を向けるがソフィア、リリアーヌにその斬撃を弾かれる。何度か同じことがあったが、斬撃を弾いている内に楓花を乗せた轟の車はかなり遠くまで走っていったようだ。


「さて、青木。いや、そのグリフォン……、ムルムルか? こっからが本番やで」


「楓花氏を傷つける輩は、何人たりとも許さない」




 楓花を追う事を諦めたムルムルは、ソフィアとリリアーヌに禍々しい気を送る。


「まぁ、いいや。俺に与えられた命令は、お前ら天女の世代を殺す事だしな。ソフィア・レオンハートにリリアーヌ・アダムス。お前ら本当に俺に勝てるとでも?」




 こうしてムルムルとソフィア、リリアーヌの死闘が開戦した。







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