10-4 特大ブーメラン
「しゃー! これで30匹目!」
どんどん魚を釣り上げるソフィア。もちろん断トツで1位を独走中な訳だが……。
「やったー! 23匹目!」
まさかの才能を開花させる楓花。少しだけ釣りの手ほどきをソフィアから受けただけだが、どんどん魚を釣り上げていく。
「よし。10匹目」
リリアーヌも10匹は釣り上げている。こちらも初心者にしてはかなり上々の結果だ。
「……」
1人だけ、1匹も釣り上げていないクロエ。このままでは確実に最下位で晩飯抜きだ。そんな姿を見てソフィアがクロエのもとに近付いて来る。
「ほーう。クロエちゃんは魚にも嫌われとるんかー。日頃の行いが余程ええんやなー」
「ば、場所が悪いですの!!」
「ご自由になー」
『ヤバいですわ。このままだと本当に晩飯抜きの刑に処されますわ。ん?
クロエの目の前で湖に向かって激しく嘔吐する轟を見つけるクロエ。すかさず轟のもとに駆け寄る。
「あ、クロエ姉さん……」
「叶夢似。大丈夫ですの?」
「は、はい。お見苦しい所をお見せしました。もう大丈夫です。クロエ姉さん、こんな所で何を?」
轟はクロエの持っている釣り竿に目を向ける。
「クロエ姉さん、釣りですか?」
「そうだが。叶夢似、釣りに詳しいのか?」
青ざめていた轟の顔色が見る見る内に回復し、轟は急に元気になる。
「釣り
『これは使える……』
「叶夢似、ちょっと私の腕を掴みますの」
轟はクロエの言われるがままにクロエの腕を掴む。
「
急に姿を消すクロエと轟。2人は更に皆から離れた位置まで移動する。
急な出来事に混乱している轟に自分の釣り竿を渡すクロエ。
「叶夢似よ。その実力をいまここで発揮するのです」
困惑しつつも釣り竿を持つ轟。まるで総長モードに覚醒した時のように、轟からは荒々しいオーラが発せられる。
「オラァ!! 魚共め!! 覚悟はできてんだろうなぁ!!」
刹那———
轟の言葉は嘘ではなく、どんどん釣り上げられていく魚たち。
轟に釣り竿を渡してほんの数分で、20匹以上は釣り上げている。
『ひゃははははっ! これはもう勝ち確ですわ! ついでに余った魚をこっそりと楓花とリリアーヌのバケツにも移して、あのバカを最下位にしてやりますわー』
「いけいけー!! 叶夢似ー!!」
「おう!! 俺に任せてなぁ!! 姉さん!!」
クロエのバケツの中には既に100匹を超える魚の数。
バケツには入り切らないので、その辺の木を伐採して適当な水槽をこしらえた。
「姉さん!! もうここいらに俺たちに歯向かってくる魚はいねぇぜ!!」
「うむ。叶夢似よ、ご苦労であった。また私の腕に掴まれ」
釣り竿をクロエに取り上げられた瞬間、轟はいつもの轟に戻り急激なアルコールと総長モードの後遺症で頭痛と戦いながら車の中で唸っている。
そして一方的に釣り勝負終了を告げる。
「はーい!! ここまでー!! これ以上やると日が暮れてしまいますわ!!」
楓花がクロエに近付きクロエのバケツを確認する。
「ええ!? クロエちゃん、すごい!!」
「ふふふ。湖の対岸で大当たりしたのですわ。そんなことよりも楓花も凄いですわ」
「あれ? 私、こんなに釣ったのかな?」
楓花が自分のバケツにいつの間にか倍になっている魚の数に驚く。
もちろんリリアーヌも楓花と同じリアクションをとる。
「はい!! 結果発表!! うーん。見たところによると最下位はソフィアのようですわね」
バカ笑いをしながら、その場をすぐに撤収しようとするクロエ。
「ちょい……。待てや……」
ギクッと肩を一瞬だけ動かすが、ソフィアの方を振り返らないクロエ。
楓花、リリアーヌは不穏な空気を感じ取る。
リリアーヌは不穏な空気から楓花を守るため、魚を食べれる分以外は湖に返し、自分たちの食べれる分だけ持ってそそくさとテントに戻った。
「な、なんですの? ソフィア、負け惜しみは騎士の恥ですわよ」
「
透明の花びらがソフィアの周りを舞う。ここまでは
「おい。どういうことや? これは?」
透明の花びらの光景は数十分前のクロエの姿。総長モードで魚を釣り上げている轟の横で呑気に昼寝をしている。
「んで、これは?」
花びらの映像が早送りのように動き、今度は轟が釣った魚を透明化してバレないように楓花とリリアーヌのバケツに移すクロエの姿が映し出される。
「恥、言うてたな? どの口がそんな事を言ったんや? お前の負けや」
「え? ええ? 冗談ですわよ。勝負なんて今日は置いといて、みんなで楽しくキャンプしますわよ、ソーフィア!」
「ああ。ほんまは本気ではなかったんやけどな。お前が私を最下位にして、私の晩飯抜きを喜んどる姿を見るまではな」
「さてと、今日は楓花の話やとバーベキューみたいや。誰かさんの大好きな肉に釣り上げた魚、楽しみやわー。誰かさんは騎士の鏡、”ベアトリクス”やから負けを認めるしかないなー。残念やなー」
ソフィアはそれだけ言い残すとクロエのもとから去って、テントの方にワザとらしくスキップをしながら向かっていった。
夕陽に照らされた湖の湖畔で、クロエは灰のように白くなっていた。
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