10-3 問題児だらけの世代

 数時間かけて山に囲まれたキャンプ場に着く、クロエ御一行。

 

 貸し切り状態なので車を適当な場所に停め、各々がテント設営にかかる。


 楓花、リリアーヌ組に程近くクロエ、ソフィア組がテントを設営する。


 轟、弐龍は車中泊だ。轟はともかく、弐龍は楓花の父親から念のための護衛の任を与えられている。楓花が屋敷に戻るまでは、車中で休むことはあっても眠るつもりはないのだろう。


 クロエ、ソフィアは数分でテントを設営し終えたが、楓花、リリアーヌはテント設営の初期段階で手を焼いている。


 ソフィアが手助けに向かおうとするが、クロエがそれを止めた。


 せっかくの楓花の夏の思い出。こうして手を焼いてでも、自分自身で物事を成し遂げる事も思い出になるだろうとソフィアを諭した。ソフィアもそれについてはすぐに納得したが……。


 2人共、怒りを向けているのはリリアーヌだ。

 

 楓花に変な恰好をさせているところは、楓花も同罪なので目を瞑ろう。

 しかし、お嬢様の楓花と同じくらいテント設営に手を焼いている、将軍ともあろうリリアーヌには少しだけ腹が立った。


 2時間後、ようやく楓花、リリアーヌのテント設営が終わった。

 2人が手を焼いている間、クロエ、ソフィア共に轟を巻き込み、宴会をしていた。2人共、見た目は15歳だが歳だけではこの世界の法律は余裕でクリアだ。2人の酒豪によって轟は早々にダウンした。


 弐龍も誘ったが、1杯だけ飲むとすぐに周囲の警戒にあたった。


 1人の馬にまたがった青年が楓花たちに近付いて来る。


 弐龍は楓花から、かなり離れた位置でその青年を止める。

 クロエ、ソフィアも念のため、弐龍のもとに駆け寄る。


「ゆ、百合園様、御一行でしょうか?」


「間違いないが。貴様は誰だ?」


 弐龍の威圧に少し怯えた様子を見せながら、青年は馬から降りる。


「す、すみません。僕はこのキャンプ場の経営者をしております、青木 鷹翔あおき しょうがと申します。一応、ご挨拶へと思いまして……」


 青木という青年は青色の髪色をしており、短髪をアップバンクにして襟足を刈り上げている。身なりは髪色以外はキッチリとしているが、経営者にしては歳が若いように感じた。


「かなり若い経営者のようだが?」


 青木は髪を少し掻きながら、少しだけ申し訳ないように言葉を発する。


「は、はい。情けない話なのですが、僕の家は少しだけ裕福でして……。職にも就かずブラブラしていた僕に、多くのキャンプ場の経営者でもある父がこのキャンプ場の経営権を僕に譲ってくれたのです」


 青木の話し方、雰囲気からはまったく違和感はなく、確かに髪色からチャラチャラしていたようだが、きちんとした姿勢から育ちは良いのだろうと弐龍は感じた。


「そうか。わざわざ挨拶に来てもらって申し訳ないが、この周囲には立ち入らないでもらえるか? 他の従業員にもそう伝えてくれ」


「か、かしこまりました。では、僕はこれで」


 青木は弐龍に一礼すると、再び馬にまたがりキャンプ場の管理棟の方に帰って行った。


「どうですか? クロエ様、ソフィア様」


 弐龍の横で青木の様子を確認していたクロエにソフィア。


「うむ。特に怪しい部分はありませんでしたわ。本当にここの管理者かと思いますわ」


「私もクロエに同感や。普通の人間やと思ったわ。殺気なども感じんかった」


「そうですか。では、私はまた警戒に当たりますので、楓花様をよろしくお願い致します」


 弐龍はそう言い残すと、また周囲の警戒のためウロウロと見回りを始めた。


 楓花のもとに戻る、クロエにソフィア。

 テント付近には楓花たちの姿が見当たらない。

 ダウンしている轟の姿しかない。


 慌てて周囲を見回す2人。


 少し離れた林の中から、乾いた音が聞こえてくる。


 クロエもソフィアも全速力で林の中に向かった。




 パシュシュシュシュシュッ



「やるね、楓花。これでどうだ」



 シューッ



 ガス缶から大量の煙幕が林の中にたち込める。


「ゴホッ! 卑怯だよー! リルちゃん!」


「楓花氏、ここは戦場だよ。卑怯もクソも……」


 危機感なく林の中で楓花と呑気にサバゲ―をしているリリアーヌのもとに、鬼の形相のクロエ、ソフィアが現れる。


「ふ、楓花氏ー!! 敵発見!!」



 ドガンッ!!



 物凄い音の方に走って来る楓花。鬼の形相のクロエ、ソフィアの足元に頭を押さえて転がり回るリリアーヌの姿を見る。


「リルちゃん! え? 大丈夫!」


「楓花よ。私と遊ぼうなー。こんなアホは無視や。無視」


 ソフィアに強引的に手を掴まれ林の外に出される楓花。転がり回るリリアーヌの体をサッカーボールのように蹴り飛ばすクロエ。


「このバカ者ー!! リル!! お前のことはにチクる!!」


 最早、クロエ、ソフィアを持ってしても予想外の行動に出まくるリリアーヌ。エレーヌでも同じ結果だろう。もうこうなれば、かぐやにしかこのバカの制御はできない。


「クロエさん! そ、それだけは! かぐや様にだけは! 私はまだ死にたくない!」


 すぐにクロエの足元に張り付いて、反省をしまくるリリアーヌ。


『ちっ。結構、本気で蹴り飛ばしたはずですが……。リリアーヌ、やはり未知の力を持っている事には変わりないようですわ。弱いのか強いのか、バカなのかワザとなのか……。リリアーヌの事を深く考えるとこちらまで頭がおかしくなりそうですわ。しかし、リリアーヌは楓花の大のお気に入り。ここは……』


「リル。以前、話しましたわよね? 楓花の命を”堕天使”が狙っていると。楓花と仲良くするのは良いですが、もしもの事があればリル1人に責任は取れますの?」


「……とれないよ」


 とれんのかーい!! 貴様、将軍だろ!? とクロエは心の中で特大のツッコミを入れたが、ここは天使の気持ちになって制御がある意味、かぐやよりも困難なリリアーヌに諭すように言葉を出した。


「でしたら、リル。次に楓花と遊ぶときは私たちにも声をかけますの。分かりましたわね?」


「うん。難しいけど、分かった」


『難しい……何が? お前、本当に切り刻むぞ』


 手のかかるリリアーヌを連れてクロエも林の中から出る事にした。

 シュンとするリリアーヌにつられるようにシュンとする楓花。


 このどうしようもない雰囲気を打開しようと、ソフィアが近くの湖で魚釣り大会をしようと提案する。リリアーヌが元気を取り戻すのと同じように元気を取り戻す楓花。



「そうやな。ただ釣りをするだけはつまらんな。せや、最下位は今日の晩飯抜きや。楓花は初めて釣りをするんやな? 楓花には特大のハンデを付けてやるで」



 ニヤニヤという笑みを浮かべながらクロエの方を見てくるソフィア。

 ソフィアは実は異世界では釣りの名人だ。

 リリアーヌはどうか知らないが、クロエは釣りだけは苦手だ。


 そのことを知った上でのソフィアの提案。



 ソフィアを無言で睨みつけるクロエに無言で睨み返すソフィア。

 


 異世界の将軍。天女の世代はリリアーヌだけが問題児ではない事は、周知の事実だった。







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