8-4 雷神と風神

 現れた2人の男の内の1人がサングラスをとり、ソフィアに謝罪の言葉を述べる。目はキリっと切れ長であり、瞳の色は少し緑色が入っている。


「すまない。楓花様のご友人、到着が少々遅くなった」


 そうソフィアに謝罪をしてきた男の横に、同じくサングラスを外した男が立つ。

 その男も目はキリっと切れ長であり、瞳の色は少し黄色が入っている。


 顔の造りが似ているところから、兄弟のように見える。謝罪してきた男よりも、威厳がある所を見ると黄色の瞳の方が兄だろう。兄は弟の頭を掴むと無理矢理、ソフィアに対して深々と頭を下げさした。自身もソフィアに深々と頭を下げている。


「ソフィア様……で、お間違いありませんでしょうか?」


「せ、せやで。私がソフィアやけど」


「ソフィア様。我々の到着が遅れた事、心から謝罪致します。加えて弟の無礼な物言ものいいも謝罪致します。申し訳ございません」


「ええて、ええて。弟の頭、離したりーな」


 ソフィアの言葉を聞いた兄は弟の頭を離した。そして兄の方が、各々の自己紹介をソフィアにした。


「私、稜王吏様の護守ごのかみ 壱龍いちろうと申します。これは私の弟の弐龍じろうです。稜王吏様の要人護衛をしております」


 背後で竜巻のような風の渦が止み、2匹の人狼とエキドナは数十メートル巻き上げられた上空から落下する。1匹の人狼もようやく感電がとれてきたようだ。


 壱龍はその様子を見ると、すぐ雷の槍のようなものを片手に具現化させた。

 壱龍に引き続き、弐龍も大きな扇子のようなものを具現化させ肩に背負う。


 2人の武器はソフィア達のような物理的に存在する物ではなく、魔法のように決まった形状は存在せず、イメージのように具現化させて存在するモノのように見えた。


 大きな扇子を瞬時に振り下ろす弐龍。再び竜巻のようなものが出来上がり、人狼達とエキドナを巻き込む。巻き上がっている風の渦に向かって、壱龍が雷の槍の先端から雷のような高圧電流を発生させ風の渦に混ぜる。


 巨大な風の渦で巻きあげられる土埃に雷が混ざって、積乱雲のように発光している巨大な渦を尻目に壱龍がソフィアに話かける。


「ソフィア様。あとは、我々にお任せください」


「いや……。あのエキドナ……蛇の化物の相手は私にさせてくれへんか? あいつには聞きたいことがあるねん。それに壱龍……。一応、あの人狼達はお前の兄弟やないの?」


 という言葉を聞いた、壱龍の切れ長の目に殺意だけが増していく。

 ソフィアでさえ、息を飲み込むくらいの威圧感だ。


「かしこまりました。では、我々はアレのを」


「ええけど……。ほんまにええんか?」


 壱龍の威圧感は増すばかりだ。

 ソフィアに対して百合園家の者らしく敬意を示しているが、雰囲気は殺気に満ちている。それに呼応するように弐龍からも殺気を感じる。


「申し訳ございません。もうには触れないでくれませんか? ソフィア様の前であっても、私でも平静を保っているのがやっとですので……」


「わ、分かった。なら別れて戦う……。それでええか?」


「はい。かしこまりました」


 壱龍はそう言うと弐龍のもとに行き、何やら相談をしている。


「弐龍にはの相手を任せる。私はこれまでの人生で一番、私を失望させたを消す。ソフィア様には何やら理由があるそうだ。あの化物の相手をして頂く」


 弐龍は壱龍の言葉を聞くと、大きな扇子を繊細に振り回す。すると風の渦が上空で3つに分裂する。1つは遠く離れた雑木林の中に落ち、壱龍は目にも止まらぬ速さでそれを追った。残りの2つは割と近い場所に落ち、1つは天然芝の庭園、もう1つは石畳の庭にそれぞれ落ちた。


「ソフィア様! ソフィア様の相手は天然芝の方です!」


 ソフィアは弐龍の言葉を聞くと、天然芝の庭園に向かった。

 弐龍も弐龍で石畳の庭に向かった。



 ソフィアとエキドナは天然芝の庭園。

 壱龍と参龍は雑木林。

 弐龍と肆龍、伍龍は石畳の庭。



 各々の戦いが開戦した。




———石畳の庭



 グルルルルゥ……。


 2匹の人狼と対峙する弐龍。


「おい。護守家の劣等生組は言葉まで失ったのか?」


 グルルルルゥ……。


 2匹の人狼は人の言葉では弐龍の問いに答えない。

 弐龍は大きくため息をつき、大きな扇子を構える。


「はぁー。後で壱兄いちにいから、隊長としての責任を取らされるんだろうな。クソッ! 本当、腹立つわ。お前ら」


 グルルルルゥ……。


「もういいよ、話さなくて。すぐ終わらせてやるから」




 2匹の人狼は連携して弐龍に襲いかかる。弐龍はため息をつきながら、大きな扇子を2匹の人狼に向ける。







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